「湯浅和夫の物流コンサル道場」掲載について

現在、湯浅が『月刊ロジスティクス・ビジネス』に連載しております「湯浅和夫の物流コンサル道場」のバックナンバーを発行元であるライノス・パブリケーションズの了承を得て掲載しております。
現在連載中の「メーカー物流編」について本誌より3ヶ月遅れで毎月初めに更新しています。
なお、
連載第1回から26回までの分は『物流コストを半減せよ』(かんき出版)という書名で出版されています。第27回以降については本ページ末尾に掲載してあります。
『月刊ロジスティクス・ビジネス』についてはホームページwww.logi-biz.comをご参照ください。
湯浅和夫の物流コンサル道場「サロン編」



『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第120回(2012年4月号)「温故知新編・第1回」

物流の歴史を振り返ってみよう

 英語の「Physical Distribution」の訳語として「物的流通」という言葉が日本に登場したのは、昭和三九年のことだった。その六年前の昭和三三年に財団法人日本生産性本部は、日本初の米国物流視察団の報告書を発行している。我が国における物流研究の始まりであった。

物流の「故きを温ね新しきを知る」

 業界誌の編集長が女性の記者を伴って大先生事務所を訪れた。しばらく前に、大先生と一杯やっているとき、大先生が語る昔話を聞いていて、はたと新企画を思いついたらしい。その新企画というのは、何て言うことはない、物流の歴史を振り返ろうという単純な話だ。

 彼が言うには、「いまのような混迷の時代には歴史に学ぶことが必要なのです。いま求められているのは、まさに温故知新です」ということのようであるが、何が混迷なのか、なぜいま温故知新なのかについては大先生が問い質しても、要領の得ない答えしか返ってこなかった。

 いずれにしろ、酔っぱらった勢いで「物流の歴史を対談形式で振り返る連載をやりましょう」ということが決まった。「歴史の証人も数少なくなってきてますし、早くしないと‥‥」と編集長が付け足すのを聞き、大先生が「早くしないと何だって?」と聞き返すが、これまた答えはなかった。

 そんな経緯で、編集長たちの来訪に至ったのである。

 「酔っぱらいの戯言だと思っていたけど、本気でやるんだ?」

 大先生の言葉に編集長がむきになって答える。

 「何をおっしゃるんですか。たしかに酔っぱらってはいましたが、頭脳は明晰でしたから、もちろん本気です。その証拠に、あのとき先生が酔っぱらいながら、生産性本部の何とかっていう視察団の報告書を持って来いってわけのわからないことをおっしゃってましたが、何とか探して、それもちゃんと持ってきました。なっ?」

 編集長が隣の女性記者に確認する。彼女が頷いて、鞄から分厚いコピーを取り出す。それを見ながら、大先生が「それで、こちらの方はどなた?」と聞く。編集長が「あれっ」という顔で慌てて紹介する。

 「ご紹介が遅れました。うちの編集スタッフです。この新しい連載の資料集めと原稿のまとめを担当させますので、何でもご指示ください」

 女性記者が立ち上がって「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げる。大先生が「こちらこそ」と応じて、「それでは、うちの連中も紹介しておこう」と言って、弟子たちを女性記者に引き合わせる。こうして、総勢五人で賑やかな対談が始まった。

「流通技術専門視察団」とは?

 「その報告書のようなものは何ですか?」

 美人弟子が興味深そうに女性記者に聞く。女性記者が、それをテーブルの中央に押し出し、「日本で初めて派遣された物流視察団の報告書です。あっ、視察先はアメリカです」と、なぜか自慢そうに答える。

 表紙の右肩に「PRODUCTIVITY REPORT
33
」とあり、中央に「流通技術」、副題に「流通技術専門視察団報告書」と書いてある。刊行は、財団法人日本生産性本部となっている。

 「その視察団については、前に聞いたことがあるような気がしますが、いつ頃のものなんですか?」

 体力弟子の質問に女性記者が頷いて、ページをめくって答える。

 「ここにありますように、出版されたのは昭和三三年の二月です。ただ、視察自体は、昭和三一年の一〇月から十一月にかけてアメリカに六週間行っていたようです。あっ、西暦で言うと、昭和三一年は一九五六年です」

 女性記者の付け足しに、編集長がすぐに反応した。

 「ここは全員、昭和生まれだから、西暦より昭和の方がぴんとくるんじゃないの?」

 「でも、昭和といっても、まだ生まれてませんから、ぴんとは来ませんよ。編集長は生まれていたんですか?」

 「ばか、生まれているのは先生だけだよ。おれは三〇年代後半。おまえは四〇年代前半だろ?」

 「何言ってるんですか。私は五〇年代です‥‥」

 「冗談だよ」

 「あのさ、そういう会話は会社に帰ってからやってくれ。それはそうとして、そうだなー、年代は、西暦で話すのか元号で話すのか、ちょっと悩ましいとこだな」

 「まあ、適当に織り交ぜてやりましょう」

 大先生の言葉に編集長がいい加減な答えを出す。女性記者が、ちょっと呆れたような顔をするが、特に何も言わない。編集長が大先生に、当然知っているだろうという感じで質問する。

 「ところで、先生、この時代は、時代背景という点ではどんな状況だったんですか?」

 「知らん。おれは生まれていたけど、その頃はまだ小学生だったから。ただ、歴史を振り返れば、戦後の焼け野原から朝鮮戦争の特需景気を経て、ちょうど高度経済成長期に入った頃だよ」

 昭和三一年という年は、戦後日本経済にとって節目の年といってよい。この年の『経済白書』が「もはや戦後ではない」と書いて、新しい時代の到来を宣言した年である。昭和四八年の秋まで続く高度経済成長期の始まりの年でもある。ちなみに、ダイエー一号店が生まれたのが昭和三二年(一九五七年)、その翌年にイトーヨーカ堂が一号店を出している。

 そんな中で日本生産性本部が流通技術研究のために米国に視察団を派遣したねらいについて、報告書において以下のように記している。

 「国民生活を豊かにするために生産部門の生産性向上を図ることが必要であると同時に、流通部門の生産性向上もまた重要であるという観点から、流通問題に進んだ研究のなされているアメリカを実地に視察し、日本におけるこの問題解決を図る一助にしたい」

 このような問題意識の背景には、報告書にも記してあるが、物価に対して生産費以上に流通費のウェイトが高く、その流通費のうち物理的に物を移動する費用が半分以上あるとの認識から、「流通技術の研究は、社会経済的に重要なテーマ」と位置づけられていたことがある。

 「そんな時代にその視察団は派遣されたんですね。明治の時代の進取の精神と同じような熱意と真摯さを感じます」

 美人弟子の感想に、みんなが同意の表情を見せて、大きく頷く。座が高揚感に包まれている感じだ。

Physical Distribution」の登場

 「これを読んで、先生がうちの編集長に、新連載のスタートはこの報告書にするぞっておっしゃられた意味がわかりました」

 女性記者がやや興奮気味に話す。

 「えっ、なになに、すごいこと言うな。へー、どうわかったんだ?」

 編集長が、興味深そうに女性記者に顔を寄せて聞く。女性記者が、わざとらしく、顔を背けて答える。

 「そんなに驚くことないでしょ。要するに、この視察団が派遣されたのは、物流を迅速かつ正確に、しかも効率的にできるようにするためには、日本としてどうすればよいのかという文字通り、わが国の物流の基盤作りに取り掛かろうとしていた時代なんです。そのヒントを求めて、その分野で先進国と言われていたアメリカに行ったんです」

 「それはわかってる‥‥」

 「だから、いまはそういう物流の基盤はあって当たり前と思っているじゃないですか。でも、それを構築するための取り組み、つまり、先人たちの苦労、さらには気概や進取の精神までを学ぶのが、歴史から物流を学ぶ第一歩としてふさわしいと思ったんです」

 「なるほど、物流をやること自体、実は大変なことなんだぞってことを知らしめたいわけだ」

 「知らしめたいなんて、そんなこと思っていませんが、私は、先人たちの取り組みに、いまの物流を考えるにあたって学ぶことがたくさんあると感じたんです」

 編集長が頷いて、独りごとのように言う。

 「たしかに、物流の基盤というかインフラがなければ、物流なんかできないし、ましてや、その物流を管理するなんて発想は生まれない」

 二人のやり取りを聞いていた大先生が話を元に戻すように口を挟む。

 「だいたい、いま二人は、『物流』って何の抵抗もなく使っているけど、その当時は、まだ物流という言葉は登場していない」

 女性記者がすぐに反応する。

 「そうなんです。この報告書では、Physical Distributionという言葉が原語のまま紹介されていますが、訳語は与えられていないんです。カッコ書きで、物理的配給といってもよい‥‥とある程度です」

 「へー、そうすると、その報告書の表題にある『流通技術』という言葉との関係はどうなるんだ?」

 編集長の問い掛けに女性記者が報告書のページをめくって、「流通技術は財貨の物理的移転活動に伴うすべての技術を指すと書いてありますから、いまの感覚で言うと、物理的な移転活動をPhysical Distributionといい、それに伴う技術を流通技術と呼ぶのではないかと思われますが‥‥」

 女性記者の解釈に大先生が頷く。いまから見れば、この報告書が持ち込んだPhysical Distributionという言葉が、それまで荷造包装、荷役、保管、輸送など個別に認識されていたにすぎなかった活動を、財貨の物理的な移転にかかわる活動として統合的にとらえたという点で画期的であったといえる。

 個々の活動レベルではなく、それらの相互の関係性や組み合わせを考えるために有効な概念であったということである。当然、管理対象として存在感を持ち得る概念でもあり、後に物流管理という領域が生まれるのは、この言葉のおかげといってよい。

 このPhysical Distributionの理解、流通技術との関係については、その後、研究者の間で多くの議論が交わされることになるが、それについては省くことにする。いずれにしろ、このPhysical Distributionに「物的流通」という訳語が与えられるのは、報告書が出されてから六年後の昭和三九年のことである。

「わが国物流研究の嚆矢となす」

 「この報告書では、財貨の物理的な移転には、場所を変えることによって場所的な効用を生んだり、あるいは生産と消費の時間的なズレを調整するような活動という二つの面があると言ってます」

 「いわゆる、場所的効用と時間的効用のことですね。経済活動や国民生活を支える重要な役割なんですが、いまは、あまり認識されていませんね」

 女性記者の説明に体力弟子が残念そうに呟く。女性記者が頷く。

 「それで、この報告書は、結局、物流、じゃない財貨の物理的な移転だっけ、それについての技術を紹介しているってわけだ?」

 簡単に結論付けるような編集長の言葉に、女性記者がむっとしたような感じで、「それはそうですけど、それが結構奥深いんです」と答える。みんなが興味深そうに女性記者を見る。

 女性記者が頷いて、おもむろに鞄の中からコピーを取り出し、みんなの前に配る。みんな視線が一斉に女性記者から目の前の資料に移る。そこには、「わが国で検討すべき諸点」とタイトルが打ってあり、七つの項目が列記されている(「左上資料」参照)。

 「これは、視察団が米国の流通技術発展の経緯を踏まえて、わが国ですべきことを提言したものなんです」

 そう言って、みんなが目を通すのを待ってから、女性記者が自分の見解を述べる。

 「私が興味を持ったのは、流通技術は生産技術と同等の重要性を持っているんだという指摘と、ただ、それについては従来まったく研究の対象とされていなかったという点です」

 「なるほど、従来まったく研究されていなかったですか‥‥その意味では、この報告書がわが国における物流研究の嚆矢となったことは間違いないですね」

 美人弟子が、納得したように相槌を打つ。

「あっ、嚆矢ですか? たしか、昔、中国で戦争開始の合図として射られた矢ですね。物事の開始を意味するんですよね?」

 美人弟子の言葉に女性記者が大きな声を出す。編集長が「韓国か中国の歴史物のドラマで知ったんだな?」と聞く。女性記者が大きく頷く。

 韓国の歴史ドラマと聞いて、大先生が身を乗り出す。最近大先生が嵌まっているものの一つだ。「それ、何ていうドラマ?」という大先生の質問をきっかけに韓国歴史ドラマ談義に代わってしまった。
休憩にしようと弟子たちがお茶を入れに立つ。この後、流通技術視察談義は佳境に入っていく




『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第119回(2012年3月号)「メーカー物流編・第29回」

「ロジスティクス導入という点で、決定的だった成功要因として二つあったように思うんです」

 ロジスティクス導入プロジェクトは、ついに大団円を迎えた。主だったメンバーたちが一堂に会して取り組みを振り返る。物流の枠組みを超えた大きな改革を成功に導いたカギはどこにあったのか。何がロジスティクスを機能させるのか。メンバーたちは今や自分の言葉で語ることができる。


大先生への感謝の会が開かれた

 年度末のある日、大先生がコンサルをしているメーカーのロジスティクス部長主催の宴会が賑やかに開かれていた。ロジスティクス導入にかかわる大先生のコンサルがいよいよ打ち上げとなり、部長が感謝の会を催したのだ。大先生一行三人とロジスティクス部員十数名が一堂に会している。

 宴もたけなわの頃、ほんのりと顔を赤くした企画課の女性課員が、テーブルの対角線上に座っている業務課長に「課長、ちょっと伺ってもいいですか?」と突然、声を掛けた。一番遠くにいる業務課長に聞こえるようにと声を張り上げたため、驚いたように全員が話をやめ、興味深そうに女性課員を見た。

 「聞きたいって、何? 何でも聞いて‥‥」

 顔を真っ赤にした業務課長がご機嫌な風情で答える。女性課員が、みんなの目を意識して、やや上ずった声で聞く。

 「課長は、最初、物流にコンサルの先生が入るという話があったとき、何と言うか、えーと、どちらかというと、非協力的な態度を取っていたと思うんですが‥‥」

 「えっ、何言ってんの、そんなことはなかったよ。それより‥‥」

 業務課長が、女性課員の話を遮って、慌てて話題を変えようとした。そうはさせじと、上司の企画課長がだめを押した。

 「たしかに、そうだった。記憶では、コンサルなんぞにぐだぐだ言われたくねえというようなことを言っていた」

 「二人して何言ってんの。おれを陥れようって魂胆だな」

 「課長を陥れたって何もいいことはないと思うよ。なぜ、そういう態度を取っていたのか、おれも知りたいところだ。この際、白状したら」

 今度は、部長が迫った。業務課長は、横を向いて黙ってしまった。ちょっとした沈黙が漂ったが、それを業務課の若手社員が破った。

 「課長の態度が豹変したのはですね‥‥」

 「なんだ、豹変ってのは‥‥」

 業務課長が、また遮るが、部長が若手課員をフォローする。

 「いいから、課長は黙ってなさい。続けていいよ」

 若手課員が頷いて、ちらっと業務課長を見た後、思い切った感じで話を続ける。

 「はい。課長は、最初、物流現場の作業改善のコンサルが入ると勘違いしたんだと思います。それで怒ったんです。それが、ロジスティクスのコンサルだとわかってから変わったんです。ですよね?」

 若手課員の問い掛けに業務課長が観念したように、小さく頷く。企画課長が「そうそう」と言って続ける。

 「そのとおりだと思う。誉めるわけじゃないけど、業務課長は、物流における問題を正確につかんでいたもんな」

 「問題を正確につかんでいたってどういうことですか?」

 最初に質問した女性課員が興味深そうな顔で聞く。企画課長が説明する。

 「よく物流コスト削減などといって、センター内作業の改善だとか効率化などに目を向けることがあるだろ。もちろん、それはそれで必要なことなんだけど、実際のところ、コスト削減という点ではほとんど効果がないと思う。うちの場合、本当の物流の問題はそんなところにはないんだ。うちの物流における一番の問題は在庫。それも無管理状態の在庫。これが物流における諸悪の根源と言っていい。そうだろ、センター長?」

 企画課長から突然振られて、独りで焼酎を楽しんでいた東京物流センターの所長が、慌てて座り直し、答える。

 「は、はい。売れもしない在庫が送り込まれてきて、必要な在庫がまったく来ないというのは本当に腹が立ちます。正直、情けないです。ねえ?」

 センター長が業務課長に同意を求める。業務課長が頷くのを確認して、センター長が続ける。

 「うちでは、かつてセンターの中に積んどくだけの在庫がたくさんありました。あっ、いまでもまだないことはないですけど‥‥これからは、そんなことはなくなると期待してます。何と言いますか、売れもしない在庫を動かしたり、保管したりするコストは、直感的に見ても、ばかになりません。作業における無駄などとは比較にならないと思います。作業改善はそれなりにやってますから」

作業改善より在庫改善が先

 センター長の言葉を聞いて、部長が業務課長を見ずに、呟くように話す。

 「なるほど、作業改善のコンサルだと早とちりした業務課長が、そんなことより先に、この在庫をなんとかせいって思ったわけだ。それで、そんな作業改善のコンサルなんぞはぶっつぶしてやるってうそぶいてたんだ。うん、たしかに納得できる話ではある。なあ?」

 部長の問い掛けに、みんなが楽しそうに頷く。業務課長が、もういい加減にしてくれという表情で口を開く。

 「ぶっつぶすなんて、そんな物騒なこと言った覚えはないです。まあ、その話は、もういいじゃないですか。せっかく先生方への感謝の会なんだから、もっと前向きな話をしましょうよ」

 部長が、大きく頷く。

 「それはいい。賛成だ。それでは、その前向きな話というのを課長から口火を切ってくれる?」

 部長の誘いに業務課長が頷き、ちょっと間を置いて話し出す。部長の指示に素直に従う。何とか話題を変えたいという思いに突き動かされているようだ。

 「はい、それでは、私から一席。えーと、ロジスティクス導入という点で決定的な成功要因として二つの要因があったように思うんです」

 業務課長の言葉にみんなが「おやっ」という顔をする。また軽く流すんじゃないかと思っていたら、核心を突くようなことを業務課長が言い出したのに驚いたようだ。部長が、用心深そうに聞く。

 「まさか、二つの要因って、おれの根回しと業務課長の恫喝‥‥なんてこと言うんじゃないだろうね?」

 「えっ、どうしてわかるんですか? さすが部長は鋭い」

 二人のやり取りに、いつものように主任が収拾のために割り込んだ。

 「そういう話はいいとして、課長が思う、その二つの成功要因って何ですか?」

 主任の諫めるような言い方に部長と業務課長が苦笑いをする。業務課長がビールを空けて、話し出す。

 「それでは、おれのご高説を披露するか‥‥」

 「是非聞きたいです」

 企画課の女性課員が、身を乗り出す。もう引っ込みがつかなくなったと思ったのか、業務課長が真面目な顔で頷き、話し出す。

 「ロジスティクス導入ということでいろいろやってきたけど、突き詰めれば、第一に、生産が週次生産に変更したことが大きな起動力になったと思う。まだ実験段階ではあるけど、明らかに無駄な在庫はなくなってきたし、欠品も減ってきている。ロジスティクス導入の成否は週次生産の導入にありと言っていいんじゃないかな」

 みんなが「たしかにそうだ」という顔で頷く。

 「安全在庫を除けば、原則一週間分の在庫しか持たないんだから、そこには無駄な在庫などないし、いくつ作るかという数量決定もかなり精緻になった。週次にしただけで、ロジがらみの多くの問題が解決したことはたしかだ。その意味では、週次生産の持つ意味は大きい」

 企画課長が、自分の感想を述べる。それを聞いて、業務課長が続ける。

 「ただ、いま精緻にって話が出たけど、週次生産をやるためには、当然、在庫の日次情報が必要になる。この情報が適時につかめないと、市場の動きに同期化させた週次生産などできない。単に週次で計画すればいいということではなくて、市場で必要な製品をタイミングよく作るために週次の生産をするわけだから当然だ」

 ここまで話して、反応を窺うように業務課長がみんなの顔を見る。部長が「たしかに」と大きく頷く。それに元気づけられたように、業務課長が続ける。

在庫責任の組織的な明確化も要因

 「その意味で、出荷情報をベースに必要量を算定する在庫管理のシステムと、その必要量を作るための週次生産、これらの二つが車の両輪の如く動いて、はじめてロジスティクスが動くというように思うんだけど、どうだろう?」

 業務課長の問い掛けに、企画課長がすぐに反応する。

 「たしかに、そうだな。同感だ」

 企画課長の言葉を受け、主任が軽く手を挙げ、「そうですね。ただ、私は、もう一つ感じたことがありました」と言う。

 興味深そうに、部長が主任に先を促す。おもしろい話になってきた。みんなが主任を注目する。ちょっと照れ臭そうな顔で、主任が話し出す。単刀直入な物言いだ。

 「私は、車の両輪というよりも、三角錐のように思います。そのもう一つは何かというと、在庫責任です。いままでは、営業が在庫手配をしていましたが、これが、さっきも話に出た諸悪の根源だったように思います。いつも部長がおっしゃるように『責任を負わない部署が在庫の手配などするな』ということです。たぶん、在庫情報が取れて、週次生産ができるようになっても、在庫責任が曖昧だと、ロジスティクスは動かないのではないでしょうか?」

 「なるほど、たしかに、それは言えるな。在庫についての情報が取れて、その情報をもとに在庫に責任を負う部署が必要量を算定し、それを生産部門が作るって関係にしろってことだな」

 業務課長が、主任の説を素直に認める。女性課員が、大きく頷いて、質問する。

 「営業さんとの関係でいえば、特売やお客さん都合で通常出荷以上の出荷がありそうな場合、その情報を提供してくれないと困りますよね。営業からの情報提供というのも柱になるように思うんですが、どうなんでしょうか?」

 女性課員の質問に部長が答える。

 「たしかに、それも重要だけど、それについてはあまり心配していない。というか、それを柱にしてはいけないんじゃないかな。ロジスティクスが営業に依存するようでは困る。特別な出荷についての情報をくれということではなく、情報が来なければ在庫は準備されないぞというルールの問題だから、情報を出さなければ困るのは営業自身ということになる。営業とは、そのようにルールの関係に持っていこうと思ってる。というか、これは先生のご指導によるものなんだけど‥‥」

 「その意味では、営業は、ロジスティクス導入においてあまり障害ではなかったという感じですね」

 主任の言葉に部長が頷き、同意を示す。

 「そうだな。在庫に関しては、おれの経験でいえば、別に、営業は在庫手配をしたいと思っているわけではない。要は、欠品を出したくないだけなんだよ。組織的には、欠品を心配するのは営業の連中だけだから、その結果、在庫手配が営業の支配下に置かれたってことだ。在庫に関して管理部署ができ、そこで欠品を出さないように管理するから心配するなといえば、それで一件落着さ。営業は在庫にこだわりはない。むしろ、在庫から手が離れて喜んでいるはずだ」

 企画課長が頷いて、確認するように部長に聞く。

 「ただ、もはや在庫処分を名目にした拡販はできなくなったってことですね」

 「そう。でも、これについては、どこからもクレームはきていないだろ?」

 部長の確認に主任が頷く。部長がにやっと笑って、頷く。

 「まともな売り方じゃないって自覚しているから、文句なんぞ言えるわけがない」

 業務課長が妙に楽しそうに断言する。部長が、これまた楽しそうに頷く。

 「しかし、よくここまで来ましたね。もちろん、先生のご指導があったればこそですけど、それにしても、よくきたなというのが率直な感想です」

 主任が、これまでを振り返るような顔で呟く。それまで黙って聞いていた大先生が言う。

 「ここまで来たのは、部長のリーダーシップのもと、みなさんが総力を結集して取り組んだ結果ですよ。ねえ、業務課長?」

 「えっ、また、そういう振り方をするんだから。部長のリーダーシップに私が文句をつけるとでも思ってるんじゃないですか? 先生も部長との付き合いが長いから、随分と人が悪くなりましたね」

 大きな笑い声が座を包む。感謝の会はまだまだ続く。

*本連載のメーカー物流編は今回で終了です。次号から新企画を予定しています。乞うご期待!



『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第118回(2012年2月号)「メーカー物流編・第28回」

「もしかして、部長と常務がロジスティクスの導入を積極的に進めたのは、営業改革が狙いですか?」

 ロジスティクス部門、営業部門、生産部門のキーマンたちが、大先生と酒宴を囲んでいる。ロジスティクス導入プロジェクトはついに営業改革へと歩みを進めた。市場動向に合わせて動くという当たり前のことが、どれだけの変化を組織にもたらすのか。その席にいるものたちは今では身を以て感じている。

異論や苦言がないことが心配だ

 大先生がコンサルをしているメーカーのロジスティクス部長が新年会と称して招集した会議がまだ続いている。主力工場である東京工場の次長と営業の要である東京支社の支社長が呼ばれている。部長がロジスティクス導入の仲間にしようと招集したメンバーだ。

 酒を飲みながらのリラックスした雰囲気で話が弾んだ。生産部門では、週次生産への切り替えやリードタイム短縮など対応が順調に進んでいるという報告があった。次に、大先生が営業側の進み具合を支社長に尋ねたところ、支社長がちょっと言い淀む。めずらしい光景に、工場の次長が興味深そうに支社長を見る。そんな次長を見て、支社長が意を決したように座り直し、口を開く。

 「はい、何と言いましょうか、特に問題が出てるわけではないのですが、その、特に何もないというところが私としては不安が残るところではあるのです」

 「異論や反論がないというのが、むしろ心配だということですか?」

 大先生の質問に、今度はロジスティクス部長が答える。

 「昨年、支社長や支店長を集めた定例の会議で、何度か、ロジスティクスにかかわる営業部門としての対応について説明し、すべての営業担当に周知徹底するよう指示しているんですが、その周知の程度がつかめないのです。そこが支社長の心配の種なんです。支社長が心配性ということもありますが、ロジスティクスによって、これまでの営業のやり方が否定される部分もありますので、異論や反論が表立って上がって来ないというのは、たしかに気になるところではあります‥‥」

 部長の話を支社長が具体的に補足する。

 「まあ、反論が出ても、それについて許容はしませんので、何もないのは、それはそれで構わないのですが、たとえば、お恥ずかしい話ですが、うちの営業では、いまなお在庫処分を名目にした押し込み販売が罷り通っているのです。それも値引きを売りにした営業です。値引きについては所属長の許可が必要なんですが、ほとんどノーチェックです。在庫処分という一時的な対処なら、まあ仕方ないところもありますが、それが営業の有力な手法になってしまっているということが問題なのです。まったく情けない話です」

 こう言って、支社長がため息をつく。ロジスティクス部長が引き取る。

 「支社長のところでは、はじめから、そのやり方はご法度になっていますので、本来の意味での例外処理でしか行っていませんが、他の支店では、まだ営業の常套手段になっています。ご存知のように、これからは、物流拠点には過剰在庫は存在しませんから、そのやり方はもうできないわけです。それに対して、何も文句が出ないのは不思議といえば不思議です」

 「なるほど、そうなると、これまでは結果としてというよりも敢えて物流拠点に在庫を増やしてきたということもあったわけですね?」

 大先生が質問する。支社長が頷いて、答える。

 「はい、もちろん結果としても在庫増はありました。なにせ一カ月分の在庫を持つというのが一つの基準でしたし、それも一カ月分というのは最低水準でしたから、在庫はもともと常に多めでした。また、一カ月といっても、実績に基づくのではなくて、営業が売りたいという計画値での一カ月分ですから、それは過剰在庫になります。それに在庫責任は問われませんでしたから余計です。在庫は豊富にあって当たり前という感覚でした」

 「もともと営業に在庫手配をやらせること自体が間違ってるんだ」

 支社長の話を聞き、ロジスティクス部長がぼそっと呟く。 

売り上げの数字を作るだけの営業

 黙って話を聞いていた工場の次長が、何か思い当たるように頷いて、質問する。

 「よく工場に、拠点に必要な分の在庫はあるはずなのに、さらに多めの出荷依頼が営業から来ていました。そのために工場では急な増産などもしていました。きっと押し込み用だろうなんて内部では話していたんですが、やっぱりそうだったんですね?」

 支社長が苦笑しながら頷き、自嘲気味に続ける。

 「はい、ご迷惑を掛けてます。その売り方で、一時的に売り上げは稼げますが、安売りしていますし、あってはならないことですが、あとで返品されることもたびたびありました。会社にとってプラスにはなっていません。まったく意味のない、売り上げの数字を作るだけのために、工場と物流を振り回していたということです。こんな馬鹿なことは決してあってはなりません」

 「工場側でも、たくさん作れるということは製造原価を下げるには悪くないことなので、それに乗っていたところはあります。会社にとって何の価値もないことが行われていたということです‥‥早いとこやめないといかんです」

 次長がため息交じりに結論を出す。大先生が興味深そうに聞く。

 「いつ頃からそんなことが行われていたんですか?」

 支社長と部長が顔を見合わせる。部長が複雑な顔をして答える。

 「幸いというか、そんなに長いことではありません」

 大先生が、「営業組織ぐるみということもなきにしもあらずの感がありますが、まあ、その話はやめておきましょう」と言う。部長が「そうしてください」と苦笑する。

 支社長が、同意するように頷いて、独り言のように言う。

 「実にうまいタイミングでロジスティクスの導入が決まって、本当によかったです」

 そう言って、はっと気が付いたように、ロジスティクス部長に確かめる。

 「もしかして、こんな馬鹿な営業をやめさせようというねらいがあって、ロジスティクスの導入が積極的に進められたということ? 部長と常務が仕組んだ営業改革がねらいですか?」

 問われた部長が、ちょっと小首を傾げて答える。

 「物流部長になったとき、常務にロジスティクスが営業に与える影響について聞かれて、そんな話をした記憶があります。常務は大きく頷いていましたから、そこまで考えられていたかもしれない。いずれにしても、市場動向と無縁の、数字作りの営業とそれに引っ張られた無意味な生産をやめさせる手段としてロジスティクスを位置づけていたことは十分考えられますね。さすが常務だな。まさに全社最適の発想だ」

 部長の言葉に支社長と次長が大きく頷く。ふっと気が付いたように、次長が大先生に聞く。

 「先生は、最初に常務と会われたとき、常務からそのような話をお聞きになりましたか?」

真っ当な営業方法を編み出す

 大先生が、思い出すように、ちょっと間を置いて話す。

 「あまり具体的な内容についての話は出ませんでしたが、常務は、たしか、営業にも生産にも市場と乖離したところで問題が出ているので、市場に直面した企業活動に転換したいというようなことをおっしゃっていたように記憶しています。そのきっかけにロジスティクスを導入したいと‥‥」

 「そうか、常務にはもともと、そういうねらいがあったんだな。自分なんか、ロジスティクスと聞いたとき、物流コストを削減するんだな程度にしか思わなかった。考えてみれば、そんな狭い発想しかできなかったなんて情けない話だ」

 支社長の独り言のような言葉に、部長が「その頃は、誰もロジスティクスの何たるかを知らなかったんだから、そう情けながることはないさ」と慰める。大先生が頷いて、「そうですよ」と声を掛け、改めて質問する。

 「これまでの話を総括すると、ロジスティクス導入について営業側の反応が希薄なのは、あまり気にする必要はないようですね。在庫処分セールは、ロジスティクス部がしっかりしていれば、もう起こることはないわけですから、反論の有無はどうでもいいことです。それより、支社長の本当の心配は、そんなことより、その先にあるようですね?」

 「えっ、はい、そうなんです。これからの営業をどうするかということが、実は、大きな心配ごとです」

 「在庫処分セールに代わる真っ当な営業方法を編み出すということですね」

 工場の次長が、楽しそうな口調で言葉を挟む。支社長が素直に答える。

 「おっしゃるとおりです。もうこれまでの売り方はできないぞということを周知徹底しろということは、それでは新たな売り方をどうするのか考えろと言ってるつもりなんですが、なかなか意図が伝わらず、反応が鈍いというのが実情です」

 「それについて、営業本部長はどう考えているんでしたっけ?」

 部長が、説明を促すような口調で支社長に聞く。

 「本部長とは、この前、それについて話したんだけど、やっぱり反応の鈍さを結構心配されていた」

 「本部長は、どちらかというと改革派といっていいよね? これまでの営業のやり方に批判的だったと思うんですが、担当役員さんと違って‥‥」

 部長が大先生や次長に解説するような形で支社長に聞く。支社長が大きく頷く。

 「そう、間違いなく現状には批判的です。担当役員とは話が合わない面が多々あると思う。ですから、自分にとっては、やりやすい相手といえます。そこで、部長に相談があるんですが、近いうち、支店長らを集めてロジスティクス導入の最終確認の会議を開催しようと思ってます‥‥」

 部長が「それはいいですね」と言って、大きく頷く。支社長が続ける。

 「そこに、部長はもちろん、できたら常務にも出席してもらいたいと思うんですが、どうでしょうか?」

 「なるほど、ロジスティクス導入会議というよりも、正確には営業改革会議ってわけですね?」

 部長の確認に支社長が頷く。

 「了解しました。常務に話をしておきますよ。もともと常務が期待していた動きだから、喜んで出席されると思います」

 部長の力強い言葉に支社長が安心したような顔で頷く。二人を見ながら、大先生が呟くように話す。

 「ロジスティクスの導入が順調に進むかどうかは、結局、これまでのやり方を疑問に思ってる人が、つまり現状を変えたいと思ってる人がどれだけいるかということにかかっているってことですね。まあ、当たり前ですが、皆さんの話を聞いていて、改めて思ったのは、会社を変えたいというとき、ロジスティクスはかなり有効に機能するってことですね」

 

当たり前ということが一番強い

 大先生の言葉に、三人が大きく頷く。次長が率直な感想を述べる。

 「ロジスティクスは外圧みたいなものですね。自分たちで自分たちのやり方を変えようとしても、現状の延長線上から抜け出せないけど、外圧がかかると、抜本的に変わる可能性が高いですよね。その外圧がロジスティクスだったとは‥‥ロジスティクスがそういう役割も担えるということにはちょっと驚きました」

 同感という感じで、ロジスティクス部長が続ける。

 「ロジスティクスというのは、これまで会社の中には存在しなかったシステムですし、何と言っても市場動向に同期化させるという、誰にも異を唱えることができない絶対的な基軸の存在が大きな力になっていると思います」

 何度も頷いて、工場の次長が力説する。

 「市場動向に合わせるのは市場を相手にする企業にとって当り前なことだからですよね。やっぱり、当たり前ということが一番強いってことです。誰も文句を言えないわけだから」

 大先生が、結論を出す。

 「それでは、やっぱり、ロジスティクスに目を付けた常務がえらいってことになりますね。それを現実に導入する仕事に真摯に取り組んでいるみなさんもえらいってことです。本格稼働までもう少しですので、頑張ってください。期待しています」

大先生の言葉にみんなが大きく頷き、グラスを手に取り、乾杯をする。この会社での大先生のコンサルももうじき終わる




『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第117回(2012年1月号)「メーカー物流編・第27回」

「『必要なものしか作らない』ことを 軸にして生産の見直しを進めたら、次々と改善提案が出てきたんです」

 全体最適を目指した営業部門・生産部門との調整が、ロジスティクス部の主導で進んでいる。生産部門では月次生産から週次生産への移行が予想以上に順調のようだ。現場の意識も変わり、取り組みにドライブがかかってきた。そして、もう一方の営業部門はというと‥‥

■ロジ部長主催の新年会の席で

 新しい年が明けた。例年になく「決意も新たに」という強い思いがあちこちで感じられる年明けになった。仕事始めを過ぎてすぐに大先生がコンサルをしているメーカーのロジスティクス部長から電話があり、新年会に招待された。

 部長から「めずらしいメンバーです」と言われていたが、行ってみると、たしかに予期しないメンバー構成だった。

 そこには、ロジスティクス部長と主力工場の、工場長に次ぐ立場にある次長、それに営業部隊の柱である東京支社長の三人がいた。新年の挨拶を済ませると、部長の音頭で乾杯をした。グラスのビールを一気にあけて、部長が事情説明を始めた。

 「先生には、今日のメンバーについて事前にお知らせせず、大変失礼いたしました。先生にちょっと驚いてもらおうという下心もありましたが、別に驚かれた様子もなかったですね」

 「いえ、次長とは工場で一度お会いしてますが、支社長とは今日初めてでしたので、一体どんなメンバー構成なのかなと興味は持ちましたよ」

 大先生の答えに部長が頷いて続ける。

 「今日は、昨年末に開きましたロジスティクス会議のご報告と、これから当社のロジスティクスを支えてもらう、こちらのお二方を改めて先生にご紹介しようと思って、このような場を設けました」

 「なるほど、生産と営業のキーマンですね。それは頼もしい」

 大先生の言葉に支社長が恐縮しながら、答える。

 「キーマンだなんてとんでもありません。部長の熱意にほだされて、よくわからないまま、ロジスティクスの片棒を担いでいるだけです」

 「担いだ感じはどうですか?」

 「意外と心地いいです」

 大先生の問い掛けに対する支社長の軽妙な返事に座が沸く。大先生が思わず「いいメンバーを集めましたね、部長」と部長に声を掛ける。部長が笑いながら、何度も頷く。

 部長の話によると、支社長とは同じ営業ということもあり、以前から親しかったそうだ。工場の次長とは今回のロジスティクス導入を通じて知り合った関係だ。三人とも年齢が近く、この会社を支える、文字通り核となる人材といった感じだ。

 「ところで、昨年末の会議は興味深い展開だったようですね。議事録を主任からいただきました。それに、業務課長からオブザーバー感想記みたいなものも来ました」

 「うわー、業務課長からですか。それは、何と言うか、過激な言葉が飛び交っていたんじゃないですか?」

 業務課長という言葉を聞き、部長が仰け反る仕草をする。

 「はい、結構過激でした。それに、根回しだとか策士という言葉が躍ってました。まあ、臨場感溢れる内容で、主任の議事録と重ね合せると、その場にいるような感じになりました」

 部長が「そうでしょうね」とちょっとしかめ面をする。大先生が続ける。

 「二人のレポートの中で、表現は違いますが、営業担当役員の発言について厳しい指摘がありました。以前からときどきお名前が出てましたが、どんな方なんですか?」

■営業担当役員はどんな人?

 大先生の興味深そうな問い掛けに、すぐに支社長が答える。

 「部長や私にとってはいい上司なんです」

 何となく皮肉っぽい言い方に、大先生が「御しやすいという意味ですか?」と率直に聞く。支社長が苦笑いし、「御すなどとんでもありませんが、それに近い意味合いであることはたしかです」と答える。

 「私の上司ですから、こんなことを言っては不謹慎かもしれませんが、今日は無礼講ということでお許し願います」

 部長と次長が頷き、部長が「忌憚のない意見交換をしよう」と言う。支社長が「了解」と頷いて続ける。

 「人間的に悪い人ではないんです。営業部門を守るという意識が強いんです。タイプとしては売上一辺倒の人です。ですから、売り上げやお客様に少しでも影響を与えるかもしれないという施策が出ると、条件反射的に反対することになるわけです」

 「なるほど、営業防衛本能ですね。そうすると、お客さんに物申すなどとんでもない的なところも強いんでしょうね?」

 工場の次長が確認する。それを受けて部長が続ける。

 「はい、そういうところもあることはたしかです。本来は、役員なのだから、全社最適をまず考えて、その中で営業のあり方を考えるという思考回路になるのが必要なんでしょうけど、営業のことしか視野にないんです。それと、おっしゃるように、お客様の言うとおりに対処しろというのが基本方針です」

 「もちろん、そんな営業はいまはもう通用しません。お客様も満足されないし、うちの連中もやる気が出ません。いまは、うちの営業の基本は提案営業です。まあ、なかなかうまくはいきませんけど‥‥」

 支社長が補足する。工場の次長がすぐに質問する。

 「そんなことしたら、その担当役員から文句が出るのでは?」

 支社長が頷いて、答える。

 「いや、何と言うか、要するに、期待通りに売り上げを上げていれば、それでいいってことですよ。なぜ売り上げが上がっているのかというメカニズムには興味はないんです。結果としての数字だけを見ているわけです。でも、中途半端な成功体験を持っていて、それを現場に押し付けてくるというタイプではないので、それはそれで助かります」

 「押し付けてきても、お二人なら、撥ねつけるでしょう?」

 次長が笑いながら問いかける。それに支社長が即答する。

 「それはそうかもしれませんが、上司とそういう摩擦があると、何かと無駄な時間を費すでしょ。その時間がもったいないです。ですから、われわれに好きにやらせている、いまの役員は案外と曲者かもしれません」

 「反面教師を装うことで部下に真っ当な道を歩ませているとしたら、リーダーシップ論という点で新説かもしれませんね?」

 大先生の言葉に三人が「たしかに」と言って笑う。大先生が、思い出したように、次長を見て、「御社では、たしか複数の工場があったと思うんですが、次長がおられる工場はいいとして、他工場では、ロジスティクスはどう展開してるんですか?」と聞く。待ってましたという感じで、次長が座り直して話し出す。

 「はい、うちは、私のところ以外に全国に五工場あります。当然、同一歩調で動いてもらわないと困りますので、常務の肝煎りで、各工場の次長クラスを集めた工場改革プロジェクトチームを設置して、いま動かしています。私が、主査を命じられて、こちらの部長に副査に就いてもらっています」

 「へー、そうですか。お二人が中心となっているんですね?」

 大先生が感心したように言う。次長が、遠慮っぽい感じで答える。

 「正直なところ、中心となっているのは部長です。部長の人脈で動いているようなものです。実は、私以外五人の次長がいるんですが、そのうち三人は部長と同期で、ツーカーの関係なんです。そういう人脈で一気に進ませようという常務の魂胆です。でしょ?」

 次長に振られて、部長が「いやいや」と顔の前で手を振って、答える。

 「私が中心だなんてとんでもないです。ただ、常務に、すぐに本音で話し合いができるチームにしたいという思いがあったことはたしかでしょうね。何か壁にぶつかったら、おまえが調整しろということだろうと私も思ってます」

 「そのあたりのきめ細かい配慮はさすがだな。常務らしい」

 支社長が二人の話に感心する。大先生も「企業の革新的な取り組みは人脈を使えという、これも新しいリーダーシップ論かな?」と独り言のように言う。支社長が「そうかもしれません」と相槌を打ち、さらに次長に質問する。

 「それで、そのプロジェクトチームは順調に進展しているんですか? まあ、常務という重しがあるので、特に支障は出ないでしょうけど‥‥」

 「はい、まあ順調だといえます。当初、ネックになったのは、これは主にうちの現場レベルですが、月次の生産を週次に変えたら、製造原価が上がったり、作業負荷が大きくなったりするのではないかという固定観念というか、まあ錯覚と言ってもいいんですが、それらにとらわれていたようです。でも、週次生産の手順を子細に検討していく中で、そんなことはないんだという認識が広まっていきました」

ようやくボトルネックが見えてきた

 次長が一息入れるのを見て、部長が補足する。

 「やっぱり生産の連中はすごいなと思いました。『必要なものしか作らない』ということを軸にして見直しを進めたら、次々改善提案が出てきたんですよ。定期的に各工場の関係者を集めて拡大会合もやってるんですが、各工場で競って成果を発表するという雰囲気になっています」

 「へー、それはいいですね。楽しそうだ。今度その拡大会合というのを見に行ってもいいですか?」

 大先生が思わず声を出す。

 「それはもう大歓迎です。お越しいただけたら、みんなも喜びます」

 「それでは、次回の日程が決まったら、教えてください。行きますから。それはいいとして、生産では、あまり心配することはないということですね?」

 「はい、製品在庫だけでなく、部材や仕掛品の在庫も徹底して減らすんだという取り組みを進める過程で、ようやく本来の意味での制約条件つまりボトルネックが見えてきました」

 「回避不能な在庫増要因ですか?」

 大先生が興味深そうに質問する。

 「はい、製品在庫については現状の生産設備が制約になっています。部材については、言うまでもないですが、調達リードタイムによる制約が起こっています」

 次長の話を受けて、部長が、なぜか支社長に向かって状況を説明する。

 「最短の稼働時間でも、機械を動かすと、一週間分の販売量をはるかに超える量を作ってしまうという設備があるんです」

 「なるほど、設備についてはよくわからないけど、もし、そのような製品はアイテムカットの対象にした方がいいというなら、相談してくださいな」

 部長の思いを察したように支社長が答える。部長が「そうなったら、検討をお願いしに行きますよ」と答える。大先生が頷き、次長に聞く。

 「部材などの調達リードタイムの短縮は結構大変なんじゃないですか?」

 「はい、いま人をやって、いろいろ検討させてますが、一部の部材については相手側の協力がもうひとつ得られない状況です。いまのところ、それらについては在庫を多めに持たざるをえません。安心在庫というわけです」

 部長が手に持ったグラスを見ながら、独り言のように言う。

 「場合によっては、内製化を考えてもいいかもしれない‥‥」

 「それは十分に検討に値します。内部でもその案が出てました。この一連の改革で、スペース的にも人員的にも余裕ができるので、内製もできないわけではないと思う。それについては、もう少し時間をください」

 部長が「はい」と言って、大きく頷く。大先生が部長に、確認するように聞く。

 「実現可能な線で、製品在庫は、どのくらいの水準をねらっているのですか?」

 「はい、目標としているのは、現状の半分の水準です。在庫半減です」

 「なるほど、結構挑戦的な水準ですね。その実現のためには、営業サイドの対応も避けられないと思いますが、営業の方は問題なく対応可能ですか?」

 大先生の突然の質問に「それがですね‥‥」と支社長が、ちょっと口ごもる。部長が、支社長に笑いかける。支社長に何かを促しているようだ。支社長が頷いて、居住まいを正した。営業では何かありそうだ。次長が興味深そうな顔で支社長を見る。

 新たに料理が運ばれてきて、話し合いは小休止に入った。





『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第116回(2011年12月号)「メーカー物流編・第27回」

「営業に在庫を手配させることほど愚かなことはない。彼等は在庫責任を負っていないんだから」

 ロジスティクス導入プロジェクトもいよいよ大詰めだ。生産部門、営業部門、そしてロジスティクス部門の担当役員・幹部たちが一堂に介して、全社最適に向けた最終確認を行った。発言からロジスティクスに対する各部門の認識は、改革前とは大きく変わった。そのことが会議における彼等の発言にも表れている。

生産、営業、ロジが一堂に集まった

 そろそろ師走の慌ただしさが始まろうとする頃、大先生がコンサルをしているメーカーで、生産と営業を一堂に集めた会議がロジスティクス部主催で開かれた。

 来年度からスタートする新しい供給体制にかかわる最終確認という名目になっている。新たに決めたり、交渉したりする事項はないので、「予定通り行きますよ」という確認である。

 会議テーブルの中央に常務が座っている。部長からの情報では、常務は、生産を含めたロジスティクス部門を所管することになったそうだ。ロジスティクス部からは、部長と主任が主催側として常務の隣に陣取っている。生産部門からは、工場長と次長が出席しており、営業を代表して、担当役員と営業本部長と東京支社長が出ている。その他、各部門の関係者が多数オブザーバー席についている。ロジスティクス部の業務課長と企画課長もオブザーバー席の端に座っている。

 大先生たちは、「いない方がいいだろう」という大先生の判断で顔を出していない。

 会議の冒頭、常務が挨拶に立った。新体制にかかわる連絡会議は今日が最後で、新年度から新体制で進めるので、準備怠りなきよう頼むと威圧するような感じで話した。

 その後、ロジスティクス部長が立ち上がり、開会の挨拶をした。

 「ただいま常務のお話にもありましたように、新年度から新しい供給体制が動き始めます。各部においては、それに向けた体制作りが着々と進んでいると思います。今日は、その最終確認ということで、自由に意見交換をしていただきたいと思います。新体制に関する異論や反論は受け付けませんが、疑問や不安などありましたら、遠慮なく出してください。皆さんが一堂に会した正式な連絡会は、これが最後ですので、言い忘れた、聞き忘れたということのないようにお願いします」

 部長の挨拶のあと、ちょっと沈黙の時間が続いたが、ロジ側では、発言を促すようなことなどせず、様子見を決め込んでいた。沈黙で息苦しさが増し始めた頃、その重苦しい雰囲気を営業担当の役員が揶揄するような口調で破った。

 「強引に人事異動までした情報システムはできあがったのかね?」

 「いま構築中です。新体制を支える要ですから、突貫工事でやっています。優秀な人材を回してもらったおかげで、何とか間に合います。ご心配をおかけしました」

 部長が、冷静に答えるのを見て、会場にほっとした雰囲気が漂う。次に、工場の次長が発言する。

 「私どもでは、これまで、月次生産で、それもできるだけまとめて作るというやり方をしてきましたが、これを、出荷実績をベースに週次で生産するという体制への転換が進みつつあります。さほどの問題も出ず、順調に進んでいます」

 「工場の人たちは、かなり前向きですね?」

 主任が感心したような口調で聞く。次長が大きく頷く。

 「創意工夫の場を与えたら、力を発揮したってことですね。これまでの延長線上で仕事をしていると人間だめになるってことです。これは企業も同じだと思いますが‥‥」

 「たしかに、そうです。まったく同感です」

 主任が大きく頷く。

 「そうそう、そうは言っても、最初のうちは、週次を超えた量を作ってしまう製品も出るかもしれません。ただ、それは過渡的な対応ということで了解願いたいと思います。最低生産ロットで作っても、販売の何か月分もの量になってしまうものは、生産ロットの見直しも当然しますが、アイテムカットも検討する必要があると思います」

 次長の発言に対してロジスティクス部長が答える。

 「最初の半年間を試行の期間と考えています。この間にいまお話があったような課題をいろいろ洗い出して、誰もが納得できる答えを見つけていくつもりです」

やっぱりアイツ、分かってない

 部長の答えに次長が大きく頷き、「誰もが納得できるというのは賛成です。理不尽なことはすべて排除するということですね」と確認する。それに対して、部長が頷く。

 何か思い出したように、主任が再度、工場の次長に聞く。

 「工場では、材料や部材の調達のため、三カ月先までの出荷情報が欲しいということで、私どもでは、その情報提供の準備を進めていますが、調達のリードタイム短縮への取り組みは進めておられますか?」

 次長が工場長に何か話しかけ、工場長が頷くのを見て、次長が説明する。

 「もちろん、やっています。うちの連中を調達先に派遣し、一緒に短縮の方策を探っています。これまで真剣に検討したこともなく、成り行きでそうなっていたというところも多く、おそらく、新体制がスタートする頃には、三カ月先までの情報は要らないと思います。これについては徹底してやりますんで、もう少し時間をください」

 次長の前向きな答えに主任が満足そうな顔で「よろしくお願いします」と頭を下げる。そのやり取りを聞いていた営業担当の役員がおもむろに手を上げた。業務課長が興味深そうな顔で、身を乗り出す。

 「週次で生産するということは在庫が少なくなるということだろ?それで大丈夫なのか、欠品が出るなんてことはないんだろうな?」

 営業担当役員の言葉を聞いて、業務課長が「やっぱり、あいつ、わかってないよ」と隣の企画課長にささやく。企画課長は、それには返事をせず、誰が何と答えるか、興味深そうな顔で見ている。担当役員の質問に即座に答えたのは主任だった。

 「週次生産ですと、毎週作るわけですから、一週間分の在庫しか持ちません。ですから、月次生産の一カ月分の在庫よりは明らかに減ります。いいことだと思います。もちろん、毎週作るわけですから、変動に対応する瞬発力も高まります。結果として、欠品は明らかに減ります。少なくとも、いままでよりは間違いなく欠品は減りますので、ご心配には及びません」

 主任の、礼をわきまえた、丁寧な答えに営業担当役員が満足そうに頷き、「まぁ、いままでより欠品が少なくなるならいいな」と収める。ところが、それでは収まらなかった。いや、工場の次長が収めなかった。

 「そもそも論で言えば、いままで各地の営業が在庫を勝手に、必要以上に確保してしまい、どこかで在庫が足りなくなっても、それを回さないということがあったため、欠品が出てたんですよ。必要なところに必要なだけの在庫を配置するという仕組みがなかったので仕方ないですけど、欠品の原因にそういうことがあったってことは営業も自覚する必要があるんじゃないでしょうか? 週次生産で欠品を心配するというのは、正直、理解に苦しみますね」

 次長らしい忌憚のない物言いに会場がざわめく。同時に、緊張が走る。案の定、営業担当役員が、頬を紅潮させ、「君はなにか
‥‥」と言ったとき、東京支社長が「済みません」と大きな声を張り上げた。その声に驚いたような顔で営業担当役員が口をつぐむ。部長が、落ち着いた口調で「どうぞ」と促す。東京支社長が頷いて、話し始める。

 「いや、実は、私も、そのへんのところは正確に理解していなかったんで、ちょっと欠品を心配していましたが、いまの主任の説明で安心しました」

 誰もこの人が理解していなかったとは思っていない。営業担当役員を自分が泥をかぶることでカバーし、工場の次長の怒りも収めようというトップセールスならではの芸当である。この支社長は、ロジスティクス部長と並ぶ営業のエリートである。営業担当役員もこの二人には頭が上がらない。

 ロジスティクス部長が笑いながら頷くのを見て、支社長が続ける。

 「それに、たしかに、これまで営業は、売れそうだと思うと、手元に、在庫を必要以上に確保してしまうということをしがちでした。万一売れて、品切れになったら大変だという思いが強かったからです。営業に在庫を手配させていたら、それは永遠になくなりません。その意味で、ロジの方で在庫を準備してくれるというのは、営業としては大助かりです。専門家であるロジがやって欠品が出たら、それはもう諦めがつきます。正直そう思ってます」

 支社長の思いを察した工場の次長が、即座に「ちょっと大人気ないことを言いました。謝ります」と率直に謝罪する。

 部長が、「たしかに、営業に在庫手配をさせることほど愚かなことはない。在庫責任を負っていないんだから、在庫の適正な配置など誰も考えない。これからは、在庫責任を負うわれわれが在庫の面倒をみるので、営業の連中は営業に専念すればいいということ」と言い、「でも、もう売上目標の未達を在庫がないせいにはできないから、それは覚悟した方がいい」と楽しそうに付け足す。

 支社長が「たしかに。肝に銘じますよ。でも、正直なところ、うちの連中は、在庫から解放されて喜んでます。心機一転ってとこかな。さっきの話ではないけど、変化はいいことだ」と答える。

■全社最適を判断基準にする

 「通常出荷のための在庫の確保は、私どもでしますが、営業政策やお客さんの都合で大量に出荷が発生する場合などは、営業側からそれらの情報をもらって、その在庫を準備するということになりますが、それについては営業の方々に周知されてますよね?」

 まず間違いないと確信しながら、主任が営業側に確認する。営業本部長が答える。

 「それについては大丈夫です。情報を事前に出さなければ、在庫は確保されないということは全員が承知しています。それは当然だということで、みんな理解していますので、心配いりません」

 本部長の話を聞いて、業務課長が「営業はあんなに物わかりがよかったっけ?」と企画課長に話しかける。企画課長が、苦笑する。業務課長の声が聞こえたかのように、工場の次長が営業本部長に声をかける。

 「うちの連中の話ですと、あっ、気を悪くしないで聞いてください。以前、営業からは自分勝手な要求が多く出されて困ったということでしたが、いまの話を聞く限り、営業はかなり物わかりがよくなったってことですね。同じ営業とは思えませんが‥‥」

 次長の率直な質問に営業本部長が苦笑して、東京支社長に声をかける。支社長が頷いて、代わりに答える。

 「たしかに、これまでは、出荷動向も把握せずに在庫を手配していました。当然、適正配置などできていませんから、欠品が出て当然です。そのフォローを生産に無理強いしてきたというのが実態です。生産からみれば、腹立たしい限りだったと思います」

 工場の次長が素直に頷く。支社長が続ける。

 「うちの連中の物わかりがよくなったのは、一言で言うと、新しいやり方に納得できからです。ロジの方々の熱心な説明で、いかにいままで自分たちが愚かなことをしてきたか、それと、これからのやり方について納得できたからです。いまさらなんだと言われるかもしれませんが、理に適ったやり方に理不尽な振る舞いはできないということです。ご理解ください」

 支社長の言葉に、会場がちょっとざわついた。業務課長が企画課長に「また、部長が根回ししたのかな」とつぶやく。企画課長が「いや、違うと思う」と答える。質問した次長が、頷きながら言う。

 「わかりました。何かあったら、率直に意見を出し合って、全社最適な答えを見出していきましょう。調整役のロジ部には大いに期待しています」

 次長の言葉にロジスティクス部長が答える。

 「みなさんが全社最適を考えて判断していただければ、調整など必要ないと思います。ロジスティクス部が暇になることが会社にとっては一番いいことです。ロジスティクス部など要らなくすることが私の仕事だと思ってます」

 部長の言葉に支社長がすぐに反応した。

 「そしたら、部長は当然また営業ですね。それはいい。頑張ってロジをなくしましょう。それこそが全社最適です」

 業務課長が、「やっぱり」と言って、企画課長に話しかける。

 「うちの部長は、生産にも営業にも根回ししてたな。これは出来レースだ。でも、ロジがなくなるのを目指すというのはいいな。早く部長とおさらばしようぜ」

 「また心にもないことを‥‥」

 企画課長のつぶやきに業務課長が「ふん」と口を尖がらす。





『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第115回(2011年11月号)「メーカー物流編・第26回」

「会社というのは不思議なところで、全社最適が部門最適に負けるということが当たり前のように起こるんです」

 新設されたロジスティクス部に、情報システム部の優秀なスタッフをどうやって引き抜くか。相手側の抵抗は必至で、すんなり事が運ぶとは思えなかった。舞台は月例の部門連絡会。そこでロジスティクス部長が直球勝負に出た。社内常識に反する部長の発言は、当然のように波紋を呼んで‥‥

 ロジスティクス部長が啖呵を切った

 大先生がコンサルをしているメーカーでロジスティクス導入のプロジェクト会議が開かれていた。生産部門との会議状況についての報告があった後、ロジスティクス支援のための情報システムの構築をどうするかということに話題が移った。

 情報システム部から優秀な連中を何人か引き抜いて、ロジスティクス部に連れてくるという部長の考えに情報システム部側で納得しないのではと主任が危惧を呈した。それに対して、業務課長が声を潜めるように主任に話す。

 「心配ないって。情報の部長は、うちの部長となぜか親しいんだ。それで、優秀なやつをロジ部にやるから、おれをどっかの支店長に栄転させるよう働きかけろって条件を出されて、うちの部長はそれを了承したって噂だ」

 「おいおい、そんな話は知らんぞ。噂というけど、業務課長が勝手に想像しているだけなんだろ?」

 部長がすぐに異議を唱える。業務課長が待ってましたとばかりに反論する。

 「でも、情報の連中に聞いたら、あっちの部長が納得しているようだって言ってましたよ。社内常識から言って、部員を外に出すことに異議を唱えない部長なんているわけないでしょ。裏で取引があったに決まってる。なあ、そう思うだろ?」

 業務課長が隣に座っている企画課長に振る。他のメンバーたちは、おもしろそうに業務課長を見ている。振られた企画課長が苦笑いをして答える。

 「部長同士で裏取引があったかどうかはわからないけど、この前、先週だったかな、月例の部門連絡会が開かれて、そこで部長が啖呵を切ったという話は聞いている」

 「えっ、そんな話があるの。あんたも情報通だね。何なのそれ、聞かせて」

 企画課長の思いもよらぬ発言に業務課長のみならず、部長を除いた全員が興味津々といった顔で企画課長を見る。

 「なんだ、企画課長まで、いい加減な話を‥‥」

 「いいから、いいから、部長は黙ってて。いい加減な話じゃなく、部員としては知る権利がある話だから」

 部長が止めようとするのを業務課長が止めた。「知る権利‥‥」と部長がつぶやきながら首を傾げる。それ以上何も言わないので、業務課長が「それで?」と企画課長をせっつく。みんなの視線を振り払うかのように、企画課長が話し始める。

 「その情報システム部なんだけど、いま忙しくてロジにまで手が回らないってのは、国際会計なんちゃらっていうのを入れるために経理のシステムを変えようとしているらしいんだ。だよね?」

 企画課長の確認に主任が「そうなんです」と言って頷く。企画課長が続けようとして、一応「いいですか?」と部長に確認する。部長がしぶしぶ頷くのを見て、企画課長が身を乗り出して話し出す。

 「それで、これは、その会議の出席者から聞いたので、そう間違ってはいないと思うけど、部長がロジの進捗状況について説明し、肝心要のシステム作りが遅れているので、情報から誰と誰をロジ部に移籍させたいって直球を投げ込んだそうだ。実名を挙げて・・・」

 ここで部長の反応を待つかのように、企画課長が一息つく。部長は何も言わない。業務課長が「そんな直球投げたんですか? 社内常識からは考えられないことだな」とわざとらしく、しかめ面をする。部長が「記憶にございません」とかわす。業務課長に促されて、企画課長が続ける。

 「そしたら、たしかにそれは社内常識に反する発言なので、経理の部長と担当役員がすぐに部長に噛み付いたそうだ」

 業務課長が「そりゃそうだ」と頷き、「大事なシステムを作っているのに、担当者をくれなんて頭おかしいんじゃないのか、くらいのことは言ったんじゃないの?」と合の手を入れる。

 「頭おかしいとは言ってないと思うけど、そのような叱咤に近いことを言ったそうだ。正確に何と言ったかは聞いてない」

会社として優先順位を考えるべきだ

 「でも、そんな展開になったら、部長は黙ってないでしょ?」

 それまでじっと聞いていた主任が、ちらっと部長を見て、企画課長に聞く。企画課長が「もちろん、話はこれからが本番」と言って、みんなを焦らすように、お茶に手を伸ばす。

 「部長、そう言われて、何て言ったんですか?」

 待ちきれないように、業務課長が部長に聞く。部長は「だから、記憶にないって言ったろ」と相手にしない。

 企画課長が「間違っていたら訂正してください」と部長に言って、話を続ける。部長は何も言わず窓の方を見ている。

 「ここで、部長が啖呵を切ったそうだ。すごい迫力だったって、そいつは言ってた。当然の正論だと思うけど、『その経理のシステムを変えることで、いくらの利益が出るんだ。ロジを動かせば、多額のキャッシュが生み出され、利益も増大する。会社として優先順位を考えてくれ。それに定型業務のシステムチェンジに優秀な人間は要らんはずだ。その意味で、当然の要求をしているつもりだ』というような発言を部長はしたそうだ」

 企画課長が一息入れるのを見て、みんなが感心したように部長を見る。部長が「なんだよ、おれは知らんよ」と照れたように言う。主任が「さすが部長ですね」と嬉しそうな顔をする。業務課長が企画課長に確認する。

 「でも、それで向こうが引っ込むとも思えないけど‥‥」

 「そう、経理は会社のベースとなるシステムだとか、どこの会社も進めてることだとか言って、抵抗したらしいけど、常務が『優先順位としてはロジが先だ。部長が指名した人間を早急にロジスティクス部に回せ。経理のシステムチェンジは別の人間で進めればいい』と結論を出し、社長も頷いて、とにかく早くロジを動かしてくれと部長に指示したことで決着したそうだ」

 「なるほど、部長はまた敵を作りましたね。大したもんだ」

 業務課長が嬉しそうな顔で部長に言う。

 「いやいや、業務課長ほどじゃない。それにしても、企画課長もよくそんな情報を仕入れたものだ」

 部長が呆れたような口調で言う。

 「いえ、この話は情報というほどのものではありません。社内では、もう結構知れ渡っていますよ」

 企画課長の言葉に、業務課長が「へー、おれは知らなかった。あんた知ってた」と主任に聞く。

 「いや、知りませんでした。でも、そう言われると、思い当たる節があります。昨日ですけど、その情報システムの彼に、電話で打ち合わせの日程調整を申し入れたら『もうじき日程調整の必要はなくなるかもしれない。もう少し待って』って電話を切られたんです。それはそういうことだったんですね」

 主任が納得したように、一人で大きく頷く。

 「あっ、そうそう、その会議には情報の部長も出てたよね、会議のメンバーだから。彼は反対しなかったんだろ?」

 業務課長の問い掛けに企画課長が「そう、おれも気になったんで聞いてみたら、情報の部長は何も発言せず、部長の言葉に頷いていたって言ってた」と答える。

 「やっぱり、事前に部長同士で裏取引があったんだ。情報の部長が近々異動するって話なんか聞いてない? あんたそういう情報には強いだろ?」

 業務課長に問い詰められて、主任が目を逸らす。何か聞いてるけど、言えないという状況のようだ。部長が代わりに答える。

 「まだ公にはなっていないけど、近いうちどこかの支店長で出るようだ。ただ、この人事は、おれは関与していないし、情報部員の移籍とも何の関係もない」

 「やっぱしー。おれの睨んだとおりだ。裏取引があったんだ。部長の策士ぶりが発揮された」

 勝ち誇ったような顔で、業務課長が部長を見る。部長はそっぽを向いている。それまで、黙って楽しそうに話を聞いていた大先生が口を挟む。

全社最適は「論理」ではなく「人」

 「部長が策士かどうかは置いておいて、御社のロジスティクス導入のキーマンに部長を選んだ常務の判断に敬服するということですね。また、常務の期待に確実に応えている部長も大したものです」

 大先生の言葉に、部長が「いやいや、とんでもありません」と顔の前で手を振る。大先生が続ける。講義するような話しぶりだ。

 「会社というのは不思議なところで、どんなに筋が通っていても、それをやると企業に大きな利益をもたらすとわかっていても、それを受け入れないという事態がしばしばあるんですね。全社最適が部門最適に負けるということが当たり前のように起こると言ってもいい」

 大先生の話に、思い当たることがあるかのように、みんなが大きく頷く。

 「ロジスティクスなんか、その典型ですよ。全社最適を目指すロジスティクスは、往々にして部門最適を否定することになるので、部門としては、容易には受け入れられない。それに変化を嫌うという風潮が加われば尚更です」

 「はい、当社もまったくそうでした。はじめの頃は、ロジなんかまず無理だろうと思ってました」

 企画課長が思わず相槌を打つ。大先生が続ける。

 「そんな中でロジスティクスを導入しようとしたら、まずトップの支持と支援があることが必要です。ただ、それだけじゃだめなんですね。実際に、その導入を先頭に立って行う人が必要です。仮にその人を先導者と呼べば、その先導者は当然、意思の強い人でなければなりません。他の部門とぶつかって、やり込められて帰ってくるということでは、いくらトップがやりたいと思っても、トップは支えきれません。各部門の担当役員からいろいろ言ってくるでしょうから、いくらトップでも孤軍奮闘には限界があります」

 「なるほど、逆に言うと、担当役員からトップに異論が出たとしても、その先導する人が確実に前に進んでいれば、トップも後戻りできないってことなんですね?」

 主任が納得顔で確認する。大先生が頷く。

 「そうなんです。トップがやると決めたことを後戻りさせないことが重要で、その要になるのが先導者です。この人が踏ん張って先に進み続けていれば、トップは支持し続けられるということです。逆に言えば、この人がへたると、結局うやむやに終わってしまいます。その例は結構多いです」

 「そうですね。まったくそのとおりだと思います。その意味では、その先導者は、前に進むために、攻略する部門に対して、できる手はすべて打つということが必要になりますね。トップにはそれはできませんから。業務課長の言う根回し、裏取引だな」

 企画課長が業務課長を見ながら話す。

 「それそれ、ロジの先導者は策士たれということだ。部長は適任だったな。おれにはとてもできない」

 業務課長が楽しそうに話す。それにはかまわず部長が大先生の見解に答える。

 「お話をお聞きしていて、なるほどそういうことかと思いました。私としては、常務からロジの導入をやってくれと言われたとき、受けたら後戻りできないなということを感じました。ロジについてもよくわかっていませんでしたが、これが頓挫したら、うちの会社にとって大きな損失だと直感しました。正直、不安もありましたが、常務の『コンサルの先生に入っていただく』という言葉を聞いて、受けることを決めました。コンサルの先生がおられれば、頓挫することなど、それこそ先生が許してくれないだろうと思ったからです。要するに『梯子を外されることはないな』という安心感はありました。あとは、とにかく前に進むだけでした」

 部長にしては、ちょっとしんみりした物言いに、みんな、神妙に聞いている。突然、業務課長が何か思いついたように声を出す。

 「そうか、ロジスティクスの導入は、部長のような策士で、ずうずうしい人間がいないと、決して進まないとなると、そんな人間は、同業にはめったにいないから、うちが先行しますね。同業他社に差をつける絶好のチャンスだってことだ。な、頑張ろう」

 業務課長に声を掛けられて、主任が「は、はい」と頷いて、「それにしても、業務課長はほんとに部長が好きなんですね」と唐突に言う。

 それを聞いて、二人が椅子から飛び上がり‥‥。





『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第114回(2011年10月号)「メーカー物流編・第25回」

「週次生産をやれというならやりますが、コストが上がってしまう可能性がありますよ」

 プロジェクトメンバーを中心として「ロジスティクス部」が正式に発足した。まずは生産部門との調整会議だ。ピリピリとした緊張感に包まれる会議室。いつもは歯に衣着せぬ物言いの業務課長もさすがに及び腰だ。いよいよ物流部長改めロジスティクス部長の出番のようだ。

 工場との会議が開かれた

 これ以上の秋晴れはないだろうと思われるほど清々しく晴れたある日の午後、大先生がコンサルをしているメーカーの会議室にその会社のロジスティクス導入プロジェクトのメンバーたちが集まっていた。

 「こんな天気のいい日は、どっか外の公園で会議するのがいいな」

 誰にともなく業務課長が声を掛ける。「たしかに」とみんなが頷く中、主任が「でも、こんな社外秘の資料を持ち出すわけにはいきませんよ」と律儀に異論を唱える。

 業務課長が白けた顔で「はいはい、ここでやろう」と答える。そこに、大先生一行が部長の案内で会議室に入ってきた。みんな、居住まいを正す。席に着くなり、大先生がみんなの顔を見て声を掛ける。

 「みなさんはもう『ロジスティクス部』のメンバーなんですよね?」

 「はい、そうです。今月の一日に辞令が出ました」

 主任が代表して答える。

 「そうか、主任も、もう経営企画室ではなく、ロジスティクス部のメンバーなんですね?」

 大先生の確認に部長が説明する。

 「そうなんです。本人にとっていいか悪いかは別として、いまは、私直属で、このプロジェクトの事務局長をやってもらっています」

 その言葉を聞いて、業務課長がすぐに反応した。

 「いいわけないでしょう。主任は経営企画室なんてエリートの部署からこんな裏方部署に強引に移されたんだから。それに部長の部下だよ。ほんとにかわいそうな主任」

 主任が笑って、「課長にそんなにご心配いただいて恐縮です。わが社で一番楽しい職場に移って私は喜んでます」と軽く受け流し、これ以上話題にされたらたまらないという風情で、慌てて会議を開始する。

 「それでは、会議を始めたいと思います。まず、先生方にご報告ですが、前回の会議以降、大きな進展としましては、生産部門との会議を工場でもったことです」

 大先生が興味深そうな顔で頷く。弟子たちも興味津々といった表情だ。主任が続ける。

 「私どもからは、部長と両課長、それに本社生産管理部から移られたこちらのお二人と私が出ました。工場側からは、工場長と次長、それに工場を仕切っている製造部長とその配下の課長や係長、調達部門の担当者など一〇人くらいが出てきました」

 「会議が始まる前はどんな雰囲気でした?」

 大先生が楽しそうに質問する。待ってましたとばかりに、業務課長が答える。

 「緊張感溢れる雰囲気でした。全員が揃うまで黙りこくって、決して打ち解けたという感じではなかったな?」

 業務課長に振られて企画課長が頷き、「そりゃそうだろう。向こうからすれば、作り方に注文を付けに来たというのはわかっていて、そんなことは前代未聞のことだから、それは警戒心のかたまりみたいなもんだよ」と思い出すように言う。

 「なるほど、それで、その会議はどんな手順で進んだのですか?」

 大先生に先を促されて、主任が続ける。実は、この会議については、会議のあと部長から大先生に電話で概要が報告されていた。詳しくはこの会議で報告するということなので、大先生としては、肉付けするような感じで質問をしているようだ。

 「はい、部長方針で、文字通り正攻法で臨みました。最初、こちらからロジスティクス導入の必要性について、在庫実態のデータをもとに説明しました。在庫の過不足などの数値はもちろん本社生産管理部が算定した必要量と工場での実際の生産量との差異、その結果として積み上がった在庫量についてのデータも提示しました」

 「営業だけのせいなのか?」

 「なるほど、それらの数字は、工場側では初めて見たんですか?」

 大先生の問いに主任が答える。

 「はい、いや、えーと、経営会議で報告していますので、工場長や次長くらいまではそのデータが回っていたかもしれませんが、製造部長以下は初めて見たような感じでした」

 「異論や反論は出ましたか?」

 「はい、製造部長は何も言いませんでしたが、工場で生産スケジュールなどを担当している課長から、営業サイドが勝手なことを言ってくるから、こういうことになってしまうんだというような意見が出ました」

 主任の話を引き取るように、業務課長が続ける。

 「その場逃れのような反論に、実は、どう対処するのがいいのかなって思ったんです。『営業はどんな勝手なこと言ってくるの』なんて逆質問しても、意味のある議論にならないなって思ったもんですから。そしたら、うちの部長が一言言ったんです。突き放すように‥‥」

 「別に突き放したわけじゃないよ。でも、あのとき、業務課長が対処に迷って躊躇してたなんて驚きだ。そんなこともあるんだ‥‥」

 部長と業務課長のやりとりが続いてはまずいと判断したのか、主任がすぐに説明に入る。

 「その、業務課長が躊躇していたときに、部長が、それなら営業からの勝手な要求を全部排除すれば、市場が必要とする量だけを作ってくれるということだねって穏やかに聞いたんです」

 「おれが躊躇しているときってなんだよ。それに穏やかというのはちょっと違うな。ほら、先生方には、雰囲気も含めて正確にお伝えした方がいいと思うから」

 「まあ、そのあたりの正確性はいいです。大体の雰囲気はわかりましたので。それで、その部長の確認に生産はどう答えたんですか?」

 大先生が、先を促すように聞く。主任が頷いて答えようとする前に、業務課長がまた口を挟んだ。

 「はい、よせばいいのに、営業の勝手な要求がなくなるなんて夢物語のような仮定に返事はできません、ときたんです。やれやれ、部長の雷が落ちるなと思ったら、なんと工場側の次長が雷を落としたんです。あれでしょ、部長はあの次長に事前に根回ししてたんでしょ?」

 「何度も、してないって言ってるだろ。まったくしつこいんだから」

 部長がしかめ面を作って業務課長を見る。また、主任が間に入る。

 「根回しがあったかどうかは別として、あの会議の早い段階での雷はその後の展開に効きましたね。両者の間にあった厚い壁が崩れ去ったように感じました」

 主任の言葉に両課長が頷く。怪訝そうな大先生の顔を見て、主任が慌てて言葉を足す。

 「あっ、済みません。工場の次長がこう言ったんです。『夢物語とはなんだ。在庫がこんな状態になっているのは、営業だけのせいなのかって聞かれてるんだよ。在庫を必要最小限にするために、生産側ではどうすればいいか、その際営業にはどうしてもらいたいかを議論してくれ。その一つの方向性として週次生産ということが提示されているんだ』というようなことをお話しされたんです」

 業務課長がすぐに続ける。

 「その次長の叱咤を受けて、なんと工場長が念押しをしたんです。『これまでこうしていた、こういう制約があったという事情は置いておいて、週次生産のためにはどうするかということを話し合ってほしい。いいですね、製造部長』って言ったんですよ。そしたら、製造部長がわかりましたって即答したんです。これで流れが決まりました。ねっ、先生、工場の上層部への根回しが絶対ありましたよね」

 部長は何も言わず、呆れた風に業務課長を見ている。主任もさじを投げたようだ。企画課長がバトンを受けた。

「責任はおれが取る」と工場次長

 「ただ、工場の課長たちを本気にさせたのは、その後のちょっとした展開だったように思います。その矢面に立っていた課長が『週次生産をやれというならやりますが、コストが上がってしまう可能性がありますよ』って言ったんです。そしたら、次長が即座に『上がってもいいよ。責任はおれが取るから、そんなこと気にしないでやってくれ』って言ったんですが、そこにいた課長たちは一様に『えっ?』という顔をしていました」

 企画課長が一息入れるのを受けて、主任がまた説明に復帰する。

 「なんか、いまの次長が来る前まで、とにかくコスト削減にうるさかったらしいです。腐るもんじゃないんだから、まとめて作れって言われ続けてきたので、それが彼らの頭にこびりついていたようです」

 「なるほど、コストが上がってもいいよという次長の言葉は、彼らにとっては新鮮な驚きだったってことだ」

 大先生が感想を述べる。主任が続ける。

 「そうなんです。次長が、『とにかく週次生産をやってみないと先に進まない。それをやってみて、どれくらいのコストになるのかをつかんで、削減が必要なら、それはそこから考えればいい。まず、やってみよう。やり方は任せるから』っておっしゃってから、雰囲気ががらっと変わりました」

 「そう、おれの印象では、彼らはいままでのやり方がいいと思ってたわけではなく、やらされてたんだな。新しい週次生産、小ロット生産に興味津々って感じだったもんな」

 業務課長の言葉にみんなが頷く。主任がまとめるような感じで話す。

 「まあ、そんなこんなで、その後の会議は、結構前向きに進みました。考えてみれば、たしかに、はじめに変なことを言った課長も工場サイドの人間として防衛的に対処するのが自分の立場だと思い込んでの発言だったってことですね。その立場から解放された後は、積極的にいろいろ意見を出してましたから。楽しそうに話すのが印象的でした」

 それを聞いて、大先生が呟くように言う。

 「ロジスティクスは、在庫だけじゃなく、人間もしがらみから解き放すってことだ。ねえ、業務課長?」

 「それそれ、先生もたまにいいこと言いますね。まさに、そのとおりでした」

 業務課長の言葉に部長が慌てて口を挟む。

 「おいおい、先生にそんな言い方はないだろう。先生、済みません。彼は解放され過ぎているようなので、ちょっと縛りを入れる必要がありそうです」

 部長の言葉に業務課長が隣の企画課長の後ろに隠れるような素振りを見せる。大先生が笑いながら、話題を戻す。

 「業務課長の縛りは部長に任せるとして、週次生産への移行のネックはあまりないということですね?」

 主任が頷いて答える。

 「はい、おっしゃるとおりです。その方向で具体的な取り組みを始めるということになりました。次回の会議日程も決まってます」

 「そうですか、それはよかった。上層部の理解を取り付けたのが勝因だったかもしれませんね。業務課長の言う通りかもしれない」

 次は情報システム部だ

 大先生の言葉に業務課長が嬉しそうに身を乗り出して、「そうでしょ」と言う。それに合わせ「実はね」と部長が身を乗り出す。業務課長が身を引きながら「やっぱり」と部長に言う。部長が「実は、やっぱり根回しはなかった」と思わせぶりに言う。「なんだ」と業務課長が口を尖らす。

 それを見て、「たしかに、楽しい職場です」と体力弟子が言う。美人弟子が、主任を見て、確認する。

 「出荷動向をベースにした拠点在庫補充や生産依頼のためのシステム構築は進んでいるのですか?」

 美人弟子に突然質問され、主任が「はー、それが‥‥」と口ごもる。「なんか、大変らしいんです」と業務課長が補足する。部長が、事情を説明する。

 「実は、システム作りは、主任に任せてたんですけど、情報システム部にシステム作りを依頼するという形になるため、こちらの思うとおりに動いてくれないことが多々発生しているようです。それで、主任も苦労しているというのが実情です」

 部長の言葉に主任が頷く。部長が続ける。

 「そこで、情報システム部から、これはと思うのを何人か引き抜いて、うちの部に持ってくることにしました。来月にはうちに来ますので、そこから一気に進むと思います。その際は、ご指導をお願いいたします」

 弟子たちが「はい」と頷く。主任が「強引に引き抜いたりして、情報システム部の方は大丈夫なんですか?」と心配顔をする。業務課長が、顔の前で手を振って、「心配することないよ」と言って、思わせぶりに、「実はね‥‥」と声を潜める。

 まだまだおもしろい話がありそうだ。





『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第113回(2011年9月号)「メーカー物流編・第24回」

「立派な物流センターが立ち上がった。センターは当然物流部門の所属になる。さて、そうなるとどうなる?」

 いよいよ物流部を廃止し、新たにロジスティクス部を立ち上げることになった。いやおうなくプロジェクトメンバーたちの士気は上がる。日本がロジスティクス黎明期を迎えた七〇年代に実務家として活躍した先人たちも、恐らく同じような高揚感を抱いていたはずだ。しかし、先人たちの努力は結局報われなかった。それだけ当時はまだ壁が厚かった。

■物流黎明期の主役たちに感動

 ようやく秋の気配が漂い始め、ほっと一息つける季節になってきた。そんなある日、大先生がコンサルをしているメーカーの会議室に大先生一行がいた。大先生がプロジェクトメンバーたちと雑談をしている。リーダーである部長が突然社長に呼ばれ、会議の開始を見合わせているのである。

 「そういえば、この前、ある会合で先生のお話を聞かせてもらいました」

 業務課長が思い出したように、大先生に話し掛ける。ある集いの総会で大先生の講演を聞いたそうだ。

 「えっ、あの場にいたの? それは気が付かなかった」

 「はい、前の方で顔をさらしては悪いと思って、後ろの方で小さくなって聞いてました。お話の後、先生はすぐにお帰りになってしまったでしょ。ですから、ご挨拶できませんでした」

 「そう言えばそうだった。あのあと学生時代の友達と飲み会の約束があって、終わったらそそくさと帰ったんだった。でも、あの講演は、講演というより、『語り部』として昔の話をしてくれと言われて、そうしたんだけど、その意味では、そんなおもしろいものではなかったんじゃないの?」

 「いえいえ、その、昔の話というのが非常に興味深かったです。とくに物流の黎明期に活躍した人たちの熱意というか熱い気持ちには感動しました」

 「へー、業務課長が感動した?」

 大先生の言葉に企画課長が言葉を挟む。

 「こう見えて、彼は意外と情にもろいタイプなんですよ。顔に似合いませんけどね‥‥」

 企画課長の言葉に反論しようと身を乗り出す業務課長を制するように、大先生が続ける。

 「なるほど、顔の話はいいとして、業務課長は先人たちのどんなところに興味を持ったんですか?」

 「はい、時代で言うと、一九七〇年代ですよね。黎明期というのは。企業の中では、物流なんてまったく認識されていない時代でしょ。そんな時に、トップから物流を何とかしろって言われて取り組んだ、その態度です。感心したのは」

 「真摯に真正面から取り組んだ、その態度?」

 「そうなんです、それです。先人たちは、そもそも物流とは何なんだというところから始まって、企業内の位置づけというか、生産や営業との関係をきちっと押さえて、物流のあるべき姿を求めていましたよね。それって、いまわれわれがやろうとしていることじゃないですか。いまこんなだってことは、黎明期のあと、どっかで物流はおかしくなったんですね。あんたらは、おかしくなったのはどこだと思う?」

 業務課長がほかのメンバーに向かって質問する。企画課長がにこにこしながら、みんなを見る。

 「企画課長は答を知ってるんだ?」

 業務課長の問いに企画課長が頷き、「以前、先生のお話を聞いたことがあるから」と答える。ちょっと首を傾げていた主任が「もしかして、それって物流センターおもちゃ説じゃないですか?」と業務課長に聞く。業務課長が驚いたような顔で頷く。そのやりとりを見ていた東京物流センター長が「そのおもちゃなんとかって何ですか?」と興味津々といった風情で聞く。

 「先生を前にしてなんだけど、それでは、おれが説明してやろう。いいですか?」

 大先生が「何を説明するのやら。まあ、ご自由にどうぞ」と了解する。業務課長が頷いて、話を始める。

■ 物流センターおもちゃ説

 「物流黎明期の主役たちが舞台を去り、新しい人種が物流担当者として舞台に登場する。時代は八〇年代ってとこかな。さあ、お立会い」

 「何に立ち会えっていうの?」

 業務課長が話し始めたところに部長が戻ってきて、声をかけた。

 「なんだ、もう帰ってきたの。これから、おもしろい話が始まるところだったのに」

 席に着いた部長に、主任がこれまでの経緯をかいつまんで伝える。部長が頷いて、業務課長に先を促す。

 「へー、それはおもしろそうだ。おれも聞きたいから、遠慮なく続けて」

 「そう? 部長に言われたんじゃ仕方ないな。それでは続けるか」

 そう言って、業務課長が物流センター長や若手の課員を見る。彼らが興味深そうに大きく頷く。その期待に、業務課長が鼻の穴を膨らませて話し始める。

 「その頃、多くの会社が、拠点集約などをして、新しい物流センターの構築に取り組んだ。立派な物流センターが次々と立ち上がった。その物流センターは当然物流部門の所属になる。さて、そうなるとどうなる?」

 業務課長に問われて、物流センター長が、思い当たることがあるように頷き、答える。

 「そのセンターの運営や管理が重要な仕事になりますね。業者との契約やセンターからの輸配送の管理を含め、現業の管理が仕事の多くを占めるようになるんではないでしょうか? 営業やお客さんからのクレームとか問い合わせへの対応なども含めて‥‥」

 「そうなんだよ、それそれ。知ってると思うけど、その頃、消費者ニーズの多様化に対応するという名目で多品種化が積極的に進められたんだ。何が売れるかわからない中で、お客側が在庫を持たなくなった。その結果として、お客が、短納期、多頻度小口などといったサービスを要求するようになった。お客の要求が高まると、それに応える方も大変だ。いかに、その要求に効率的に対応するかということが物流の大きな課題になっていった。幸か不幸か、売り上げが伸びてることもあって、物流コスト削減意識はどこかに行ってしまい、物流サービスの提供に関心が集まった」

 業務課長が、みんなの理解を確認するように、間合いを取りながら説明する。

 「その結果として、物流管理は物流センターや輸配送など現業の管理に限定化されていったってことだ」

 企画課長の結論に業務課長が「それそれ」と頷く。

 「物流センターなどというおもちゃを与えられて、物流部はそれで遊び呆けてしまって、本来やるべき物の流れの管理を放棄してしまったというのが、物流センターおもちゃ説ですよね?」

 主任が、確認するように大先生に聞く。

 「へー、そんな説があったんだ? そんな意地の悪い説を唱えたのは誰?」

 大先生がとぼけたように呟く。業務課長が、「またまたとぼけなさんな」という顔で大先生に念を押す。

 「つい最近、そんな話を先生から聞いた気がするんですが‥‥」

 大先生が、にっと笑う。それを見て、部長が言葉を挟む。

 「なるほど、たしかにおもしろい。誰が唱えた説かは別にして、その時代は、物流における失われた二〇年ってとこですかね? うちも同じかな、物流歴三〇年の業務課長?」

 「また、そういう言い方をするんだから、ほんとに部長は性格が悪いな」

 業務課長が口を尖らせる。それを見て、企画課長が笑いながら、業務課長をかばう。

 「業務課長は、長年にわたって、本来の管理に戻そうと、孤軍奮闘してきたわけだよね。おれは、後ろからついて行っただけだけど」

 「なるほど、業務課長の孤軍奮闘というのは、なんとなく想像がつくな。幸か不幸か、おれはそれに関わらなかったけど・・・」

 部長が、楽しそうに誰にともなく言う。

 「はいはい、いまは孤軍じゃなく、精鋭部隊だから一気呵成に行きましょう」

 業務課長の言葉を引き取るように、主任が会議の開会を宣言する。

■ロジスティクス部の設置が決まった

 「それでは、部長も戻られたので、会議を始めたいと思います。はじめに部長から一言お願いします」

 主任に振られた部長が、威儀を正すように座りなおして大先生に挨拶する。

 「中座しまして申し訳ありません。社長から呼ばれたのですが、話は、来月一日付けで物流部を廃止して、ロジスティクス部を立ち上げるということでした。ついては、現有メンバー以外に、どんな人材が必要かと聞かれましたので、情報関係や工場の生産計画担当など何人か名指ししてきました。現場は別として本社ロジスティクス部隊は十数名の規模になると思います」

 「たしかに精鋭部隊になりそうだ。来月から一気呵成ですね?」

 大先生の言葉に部長が頷く。

 「それで、担当する業務はどの範囲ですか?」

 大先生の質問に座の全員が固唾を呑む感じで、部長を見る。

 「はい、生産計画から顧客納品までのすべての供給業務です。工場に作らせるところから顧客への納品までです。物流サービスのレベル設定や顧客との交渉もわれわれの仕事です。当然、在庫責任はわれわれが負います」

 同席していたメンバーたちが「ほー」と感心したような声を出す。

 「社長の本気度がよくわかりますね。責任も重いけど、遣り甲斐がある」

 大先生が呟くように言う。部長はじめメンバー全員が大きく頷く。部長が代表するように答える。

 「はい、みんなそうだと思いますが、やる気満々です。気分的に高揚していますが、黎明期の先人たちも同じ気持ちだったんでしょうか?」

 「きっと同じだと思います。新しい仕事に挑戦するという、いわゆるチャレンジ精神に満ちていましたから。顔も輝いていました。でも、当時は壁が厚かったですよ」

 大先生が、ちょっと顔を曇らせる。そんな大先生に主任が聞く。

 「先人たちは、最初からロジスティクスを目指したんですよね? でも、結局できなかったわけですか?」

 大先生が頷き、説明する。

 「そうですね。物流サービスについては、当時すでにメニュープライシングのような形で、取引単位によって販売価格に差をつけるということをやっていたところもありましたが、厚い壁は生産でした。単品大量生産の壁は越えられませんでした」

 「それは、当時は売り上げが伸びている時代だったからですか?」

 主任の言葉に大先生が同意を示す。

 「そうです。当時は、とにかく売り上げを増やせ、製造原価を下げろ、そうすれば売上総利益つまり粗利ですね、粗利が大きくなる。粗利が大きくなれば、あとの販管費はほとんど固定費だから、営業利益が増えるというのが経営の論理でした。単品大量生産で製造原価を下げることが至上命題みたいなものでした。無駄な在庫がずいぶん積み上がってましたけど、誰も気にしなかったですね」

 「在庫を隠れ蓑にした架空利益の計上、といったところですかね?」

 主任が、ずばりと本質を突く。それを受けて、部長が決意を表明する。

 「その意味では、時代が変わって、それを悪とみなす経営の考え方が当たり前になってきた。われわれは、黎明期の先人たちの思いを受け継いで、徹底的にやるつもりです。経営計画業務を取り込みましたので、あとは生産効率とのバランスを調整するだけです。少なくとも、売れ残りの危険があるような作り方はさせません」

 「工場の評価基準を一新することも必要でしょうね?」

 業務課長が部長に提案する。

 「そう、社長から、それについて意見を出すように言われた」

 「へー、社長からそんな指示が‥‥たしかに社長は本気だ」

 業務課長が感心したように呟く。

 「常務の社長教育の成果ですかね?」

 企画課長が部長に確認するように聞く。

 「きっかけは常務だったろうけど、社長もすぐにロジスティクスの価値に思い至ったと思う。メーカーにとっては、極めて重要な管理領域だと認識していることは、日ごろの言葉の端はしからわかる」

 「なるほど、舞台は整ったから、あとは台本に沿って演じることが求められるわけだ。業務課長のアドリブはほどほどに」

 企画課長が業務課長を茶化す。業務課長が反論する。

 「何をおっしゃる課長さん。おれは主役の一人だし、元々アドリブなんか言うタイプじゃないから、心配無用」

 「えっ、いまから検討する台本に業務課長の出番はあったっけ?」

 部長の言葉に、業務課長が手に持ったペットボトルを投げる振りをする。部長が大仰に避ける仕草をする。それをメンバー全員が呆れた顔で見ている。




『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第112回(2011年8月号)「メーカー物流編・第23回」

「つまり現場が言うことを聞かない。いや、もう少し賢いか‥‥言うことは聞くけど、行動には移さないってことですか?」

 大先生の支援するロジスティクス導入プロジェクトは、営業部門との社内調整を済ませ、生産部門の改革に歩を進めている。やり手の物流部長がその根回しに乗り出した。どうやら工場にも、やっかいな部門最適が深く染みついているようだ。

工場の次長との秘密会談がもたれた

 雷を伴ったもの凄い夕立を大先生はタクシーの中から見ていた。「これで、少しは涼しくなるかな?」と大先生が運転手に話し掛ける。「そうですね、そう期待したいです」と答えて、信号待ちの隙に運転手がカーナビを覗き込む。

 昨日、コンサルをやっているメーカーの物流部長から突然電話があり、「ご都合がよろしければ、会っていただきたい人がいるのですが‥‥」と誘われたのだ。タクシーで、指定された店に向かっている途中で夕立に遭ったのである。

 店に着くと、奥まった個室に案内された。何となく秘密めかした雰囲気だ。大先生は「一体誰に会わせようというのか」と興味津々といった風情だ。

 部屋に入ると、物流部長と大先生が知らない人が並んで座っている。大先生を見ると、慌てて立ち上がった。物流部長が大先生の来訪に礼を言い、隣の人を紹介する。

 「ご紹介します。彼が、以前の会議で話題になったことがありますが、うちの主力工場の次長です。工場でのナンバー2です」

 工場の次長が「なに、話題にされてたの?」と言いながら、大先生に「おうわさはかねがね」などと言いながら、丁寧に挨拶する。ビールで乾杯をし、震災対応の話などしているうちに、打ち解けた雰囲気になった。部長が、「そうそう」と言って、大先生に内緒話のような仕草で話す。

 「あのー、今日の次長との会合は、メンバーでは主任にしか話してませんので、ご配慮よろしくお願いします」

 「はい、内緒にしろってことですね。特に業務課長には‥‥」

 大先生がそう答えると、次長が納得したような顔で、部長に小さな声で聞く。

 「業務課長ってあの有名な彼だな。たしかに、秘密の会合が知れると、いちゃもんをつけられそうだ」

 「そう、部長は策士だとか得意技は根回しだとか、一生言われそうだ」

 部長が、眉をしかめて、それでも楽しそうに答える。続けて、「それはいいとして、本題に入りたいと思います」と言って、大先生を見る。大先生が頷く。

工場内の風土は奇妙奇天烈です

 大先生が頷くのを確認して、部長が次長に向き直って話しかける。

 「実は、私が次長と直接お会いしてお話をさせていただくのは今日が初めてなんですが、おおよそのところは主任からお話しさせていただいたと思ってますが‥‥」

 「はい、主任さんからロジスティクス導入プロジェクトについて詳細に説明を受けました。それについて私自身、非常に興味を持ってます。あっ、それから、常務からもわざわざお電話をいただいて、協力要請を受けました。もちろん、喜んでお受けしました」

 次長が、素直に答える。部長が、すかさず本題に入る。

 「そこで、まず率直にお話しさせていただきますと、ロジスティクス導入のご支援を是非お願いしたいというのが、今日の会合の趣旨です」

 「そうだと思ってました。喜んでご支援させていただきます。主任さんからも言われましたが、ロジスティクスの要は作り方にあるというのは理解しています。そこで私に白羽の矢が立ったってことですよね。先生にもご同席いただいて、光栄に思います」

 さすが社内のトップランナーの一人というだけあって、話が早い。所属やしがらみなどにはこだわらないし、新しい取り組みに興味を示すタイプだ。大先生の好きなタイプでもある。主任から「積極的にご協力していただけると思いますよ」と事前に聞いていたが、改めて次長に快諾されて、部長はかなり気分を良くしたようだ。部長が次長にビールを注ぐ。それを見ながら、大先生が次長に話し掛ける。

 「次長は、工場に来られて、まだそれほど経っていないようですが、工場に対してどんな印象をお持ちですか?」

 次長が、「興味深い話になります」と言いながら、工場の実態を話し出す。

 「工場に来て、いろいろ見聞きしましたが、正直驚きました。なんというか、守旧派といったらそれまでなんですが、とにかく、これまでのやり方を変えることに抵抗感が極めて強いという風土が明らかにあります。まあ、それだけなら、よくあることなんですが、それだけじゃないんですよ、これが。奇妙奇天烈としか言いようがありません」

 次長のちょっと勿体ぶったような言い方に部長が興味深そうに聞く。

 「奇妙って、単に守旧派なんてものじゃないってことですか?」

 次長が頷いて話を続ける。

 「工場を見ていただけるとわかりますが、工場内は整然としていて、どこにもゴミひとつ落ちていません。ゴミを見つけたら、率先して拾うという習慣ができてます。素晴らしいでしょ?」

 「整理整頓、つまり2Sはできているってことですか? でも、それはちょっと意外ですね。2Sができてるような現場なら、もう少しちゃんとした作り方をすると思うんですが‥‥」

 大先生が首を傾げながら、確認するように聞く。部長も同感という感じで頷き、次長を見る。次長が頷いて続ける。

 「でしょう? ところが違うんです。うちの現場は、なんと工具や部材の置き場所を変えることさえ嫌うんです。驚くべきことに、もう使わなくなった工具や部材を処分することさえしません。それどころか、置き場所を変えることもせず、ずっとそのまま置いてあるんです」

 「へー、整然としてるけど、2Sとは逆のことをやってるってことですか? どうしてそんなことを?」

 部長が、半信半疑の顔で確認する。次長が苦笑する。大先生が「まさか、そのうちまた使うかもしれない、なんてことじゃないですよね」と聞く。

 「はい、実は、それが答えです」

 次長の返事に部長がわざとらしく「絶句」と答える。それを聞いて、次長がおかしそうに笑う。

 「なるほど、工場内は、見た目はきれいで、床も磨き上げてある、ゴミなど落ちていない。工具や部材も整然と置かれている。ところが、その中にはもう使われないものが結構ある。さらに、作業効率などを考慮せず昔から同じ場所に置かれ続けているってことですか。たしかに奇妙だし、始末に悪い」

 大先生の言葉に次長が大きく頷き、「そうなんです。まったく始末に悪いです」と嘆息する。その次長の顔を見て、部長が率直に質問する。

 「そういう奇妙な実態に対して、次長は、当然その改善を指示するなり、促したりしたわけですよね?」

やれない理由が次々に

 その質問は当然予期していたかのように、次長が「はい」と頷き、ビールのグラスを手に取る。残り少ないグラスに部長がビールを注ぐ。それを見ながら、大先生が独り言のように呟く。

 「次長が指示しても、いまだ改善されていないということなら、現場が言うことを聞かないということですね。いや、もう少し賢いか‥‥言うことは聞くけど、行動には移さないってことですか?」

 ビールを口に運んで、次長が大きく頷く。

 「ご賢察です。そうなんです、現場の連中、とくに班長とか係長クラスの、まさに中堅の連中なんですが、一体どういう育て方をしてきたのか、文字通り面従腹背と言わざるを得ません。私の考えを伝えているときは、それは素直ににこやかに応じてます」

 「でも、結局何もしない?」

 部長が腹立たしそうに言葉を挟む。次長が頷き、話を続ける。

 「あとで、指示したことはどうなったかと聞くと、やらない理由が次々出てきます。やろうとしたけど手が空かない、もう少し時間をくれ、現場に指示したけどまだやっていないようだ、現場のコンセンサスを得ることがまだできていない、などなどいろいろです」

 「そのとき、おまえら何してるんだ、おれの言うことが聞けないのかって怒るとどうなります?」

 部長が、腹立たしさを通り過ぎて呆れたような口調で聞く。

「黙りこくってしまいます。そのあと何を言っても下を向いたまま頷くだけです。彼らの頭越しに私が現場に直接指示しても、現場はまったく動きませんから、結局どうにもなりません。これまでも、そうやって工場に来た管理職を手なずけてきたようです」

 「まさか、次長はまだ手なずけられてはいませんよね。あっ、愚問でした」

 部長の言葉に次長が笑いながら、大きく頷く。

 「はい、私はそれほどやわじゃありません。それは工場長も一緒です」

 「えっ、工場長も、ですか?」

 部長が意外そうな声を出す。次長が苦笑しながら説明する。

 「はい、工場長は、社内では、どちらかというと守旧派と思われています。たしかにそういう傾向はありますが、さすがに、いまの工場内の風土には納得できないようで、私が来てから、私に何とかさせようと思っているようです。先日も『何とかなりませんかね』と言ってました」

 「そうですか、工場長がそういう思いなら安心しました。後ろから鉄砲を撃たれる心配はないってことですね」

 部長が安堵したように言う。

 「その心配はまったくありません。私が保証します」

 次長の太鼓判に大先生が頷いて、確認するように質問する。

 「その風土を突き崩すきっかけにロジスティクスを使おうというわけですね?」

 次長が頷いて、身を乗り出すようにして答える。

 「はい、そのつもりです。これまでは、私も、思いつきというか、場当たり的に指示してきましたので、うやむやに終わって仕方ないという状況でしたが、会社の方針としてロジスティクスの導入を目指すわけですから、工場としてきちんとした対応をする体制を作ります」

利益を考えない営業も大企業病

 部長が頷き、自分の考えを披露する。

 「わかりました。そういうことなら、工場を巻き込んだ大袈裟なプロジェクト体制を作りましょう。名目的にでも常務を委員長に、工場長を副委員長にして、われわれで事務局を担当しましょう。その下に班長や係長を位置づけましょう」

 「はい、そうしてください。もっとも、このプロジェクトでは不作為があった場合、工場では厳重に処罰するという強い態度で臨みますので、もう馬耳東風にはさせません」

 次長が強い意思表示をする。部長が「よろしくお願いします」と言い、「それにしても、今日はおもしろいお話を聞きました」と次長に微笑みかける。

 「うちの会社は、それほど大企業とはいえませんが、病気だけは大企業です。もっとも、工場だけですかね?」

 次長の言葉に部長が「いやー、どうでしょうか、私がいた営業でも、似たようなことは起こってましたよ」と思い当たることがあるような顔をする。

 「でも、営業は売上目標といった個々人に対する明確な評価基準があるので、それほど病状は重くないでしょう?」

 次長の言葉に部長が首を振る。

 「いや、実は、その売上目標というのが曲者なんです。売り上げさえあげていれば文句ないだろうとか売り上げに影響することには何でも反対するといった風土がまかり通ってます。在庫はロジが管理するというと、欠品が出て売上を減らしたらどう責任を取るんだとか馬鹿なことを言うやつが出てくるんです。ロジに任せた方が欠品は少なくなるのにですよ。売上至上主義で何が悪いかと言えば、利益を考えないことです。支店長のくせに営業現場の親分どまりで、経営者の発想ができない輩がわんさといます‥‥あっ、つまらない愚痴を言いました。とにかく、ロジスティクス導入よろしく頼みます」

 「はい、こちらこそ。非常に楽しみにしています。先生とご一緒できることも楽しみです」

 大先生が頷く。

 「まあ、お二人がタッグを組んだら、こわいものなしですね。叱咤激励のし甲斐があります」

 大先生の言葉に二人が同時に「お手柔らかに願います」と声を出す。大先生がグラスを持って乾杯という仕草をする。二人が慌ててグラスを合わせる。こうして、また一人ロジスティクスの仲間が加わった。




『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第111回(2011年7月号)「メーカー物流編・第22回」

「うちはどうだ? 社内でさえ厚い壁があるし、情報共有などない。各部署が勝手に動いてる。サプライチェーンどころじゃないだろう?」

 東日本大震災でサプライチェーンが無惨に寸断されたことから、事業継続計画(BCP)を見直す動きが広がっている。大先生のコンサル先メーカーも例外ではなかった。そのおかげでロジスティクス導入プロジェクトの若手メンバー、企画部主任が役員会に駆り出され、居並ぶ経営陣を相手にSCMを講義することに。

若手主任が役員相手にSCM講義

 連日暑い日が続く中、コンサル先のメーカーの担当者から大先生に「暑気払いでもやりませんか」という誘いがあった。日本庭園の美しいビアガーデンだというので、大先生は喜んで出かけて行った。体力弟子は用事があるというので、美人弟子が同行した。

 指定された時間に行くと、部長と主任、業務課長と企画課長の四人が待っていた。若手の二人は社内研修で研修所に缶詰めになっているそうだ。

 何はともあれということで、生ビールで乾杯が行われた。部長が「いやー、うまいな」と言いながら、大先生に話し掛ける。

 「まだ六時前だというのに、混んでますね。サマータイムの会社が多いんでしょうかね?」

 「ここは人気のスポットだそうですから、出足が早いんじゃないですか。彼女の受け売りですけど‥‥」

 大先生がそう言って、美人弟子を見る。美人弟子が頷いて、補足する。

 「はい、ここには何度か来たことがありますけど、いつも早いうちから席を取ろうと並んでました。皆さんが来られた時もそうではなかったですか?」

 主任が頷いて同意する。

 「そうでした。私が並んだんですが、結構行列になってました」

 業務課長が、ビールを一気に飲み干して、言葉を挟む。

 「なるほど。ということは、節電などに関係なしに賑わっているということだね。日本経済の活性化にとっていいことだ。おれも大いに貢献しよう」

 主任が苦笑しながら、追加注文をする。そんな主任を見て、業務課長が急に何か思い出したように、目をくりくりさせて大先生に思わせぶりに話し掛ける。

 「そうそう、先生、うちの主任ですけどね、先月、うちの役員連中にSCMの講義をしたんです。すごいでしょ? 部長情報によると、大変好評だったそうです」

 主任が「またまた」と言って、業務課長を制する仕草をする。それを見て、「そうなんです」と部長が補足説明をする。

 「いまは下火になりましたけど、あの震災の後、サプライチェーンという言葉が連日飛び交っていたじゃないですか。そこで、常務が、役員会議で議論する必要があるのではと社長に持ち掛けたんです。常務は、いまやってるロジスティクス導入の後押しをしようというねらいだったんですが、社長もすぐに了解して、報告をうちに指示してきたんです」

 大先生が頷き、「なるほど、それで主任に白羽の矢が立った?」と聞く。業務課長が頷き、経緯を説明する。

 「そうなんです。なんたって、そのあたり一番勉強しているのは主任ですから。それに、部長は何でも我関せずですし、私は煙たがられてますし、企画課長は何考えているかわからんって思われているわけですから‥‥」

 「おいおい、おれたち三人はもともと候補にもならんから、余計な解説はいらんよ。主任が最適任だと思って行かせただけだ」

 部長がたしなめる感じで補足する。笑いながら、話を聞いていた企画課長が改まった感じで主任に話し掛ける。

うちに「事業継続計画」なんてあった?

 「そうそう、その話を聞きたいと思ってたんだ。どんな話をしたのか聞かせて?」

 主任がちらっと部長を見る。部長が「暑気払いには恰好なテーマだから、二人に話してやったら」と言う。二人の課長が、「うんうん」と頷く。主任が「はい」と言って、「それでは、酒の肴としての話題提供ということで‥‥」などと言いながら話し始める。

 「役員会報告という、せっかくの機会でしたので、時流に乗った話ではなく、そもそもSCMとは何かという原点の話をしようと思いました」

 「なるほど、それはいい。つまり、新聞などで取り上げられたサプライチェーンの寸断は横に置いてってことだ」

 企画課長が納得顔で確認する。主任が続ける。

 「はい。ただ、そうはいっても、それも大きなテーマですので、当然、最初に持ってきました。サプライチェーンの最大のリスクがサプライチェーンの寸断で、これまではあり得ないと思われてきましたが、それが現実化した。これからは、リスク対応という点で、サプライチェーンまで視野を広げておく必要があるということを指摘しました」

 「リスク対応って、うちはそんな準備してあったっけ?」

 業務課長が、誰にともなく聞く。主任が即座に答える。

 「いまと似たような質問が営業担当役員から出ました。事前に勉強したようで、うちの『事業継続計画』はどうなっているか、と聞いてきました」

 「それで?」

 「誰も答えないので、私の上司が答えようとしたら、部長がずばりと指摘しました」

 「はー、経営企画室長の答えを横取りしたんだ」

 業務課長の妙な感想に部長が苦笑する。主任が、笑いながら説明する。

 「いえ、私の上司だと建て前的な返事になったと思いますんで、部長にお答えいただいてよかったです」

 「部長は何て答えたの?」

 業務課長が部長に聞く。部長は笑いながらビールを傾けているだけだ。主任が代わりに答える。

 「事業継続計画なるものは存在しますが、ほとんど役に立たないと思う、適任者を集めて実質的な議論をした形跡はないし、サプライチェーンは視野に入っていない、というようなことを指摘されました」

 「へー、わかりやすい返事ですね。そしたら、どうなった」

 企画課長が先を促す。

 「結論から言いますと、常務をリーダーにリスク対応の実際的な検討をすることになりました。生産継続を確保するということが柱ですので、生産部門と調達部門の連中がメインになります。事務局はうちです。あっ、ロジのメンバーも必要だということで、常務の要請で部長もメンバーになりました」

 「今回の震災を契機に事業継続が大きなテーマになり、その対応策が企業評価の一つの柱になりそうですから、それはきちっとやっておいた方がいいですよ」

 大先生がコメントする。部長が頷き、「すでに、うちの部材関係については取引先からリスク対応について問い合わせが入ったりしています。魂の入った計画を作ります」と真面目な顔で答える。

 業務課長が「それは必要だ」と独り言のように言い、「その後どうなった?」と聞く。主任がビールを口にして、「はい」と話し始める。

 「SCMの本質は、サプライチェーン最前線の販売動向に同期化させてサプライチェーンを動かすことにある。そのために、販売情報を共有することが必要になる。当然、サプライチェーンを構成する企業群が同じ利害の中で動く必要がある。まあ、そんな当たり前の内容を詳しく話しました。うちの会社の実態からみれば、ちょっと浮いてるなって感じがしましたが、でも、それで結構議論を呼んだんです」

 「どんな議論になったんですか?」

 美人弟子が興味深そうに聞く。

 「はい、どの範囲でやるかということが話題になりました。うちなんかでも、調達先を辿っていけば、結構な数になりますし、うちが調達している先の会社とは普段付き合いがありませんので、一気にそこまでいくのは難しいとなりました。たしかに、そのとおりです。そこで、まずは直接取引のあるところとSCMをやったらどうかということになりました」

あたかも一つの企業であるかのように

 主任が一息入れたところで、部長が口を挟んだ。

 「付き合いがないといっても、リスク対応という点では放っておくわけにもいきませんので、まずはずっと遡ってみるつもりです。各社の事業継続計画を検証するという作業になります。場合によっては、その策定の支援をするということも必要になるのではと思ってます」

 「そんなことは初めての経験ですよね?」

 大先生が、感心したような顔で聞く。部長が大きく頷く。

 「はい、私はもちろん会社としても初めての経験です。私自身、非常に興味を持ってます」

 部長の言葉に業務課長が、これまた感心しきりといった風情で声を掛ける。

 「その部長の興味にはおれも興味がある。何だったら、その手伝いやらせてくださいな」

 「えっ、業務課長が手伝うって‥‥絶句」

 部長の「絶句」という言葉にみんなが大笑いする。業務課長の言葉を無にしてはいけないと思ったのか、部長が真面目な顔で「業務課長に限らず、みんなにも手伝ってもらうかもしれない。そのときはよろしく頼む」と言い、思い出したように別の話題を振る。

 「そう言えば、その役員会で、主任がおもしろい投げ掛けをしたんだよ。SCMで盛り上がった場に水を差したというか、なあ?」

 部長に振られた主任が、「あー、あれですか」と言って、一人で笑い出す。業務課長が驚いたように主任を見る。企画課長が、興味深そうに「えっ、何があったの?」と聞く。言いづらそうな主任に代わって、部長が説明を始めた。

 「いやね、SCMの議論が終息しそうになったとき、主任がこう言ったのさ。『サプライチェーン・マネジメントとは、サプライチェーンをあたかも一つの企業であるかのようにマネジメントすることです』って先生がおっしゃってますよって」

 企画課長が「なるほど、あのー、先生の前でこんなこと言うと笑われてしまいそうですが、ちょっと聞かないことにしてください」と言う。大先生が「どうぞ遠慮なくやってください」というのを聞いて、主任に確認する。

 「それって、主任はもしや奥深い意味を持たせてる? うちの会社は、そこで言う一つの企業には値しないんだよってこと」

 「へー、さすが企画課長だ。読みが鋭い。驚いた」

 部長が本気で感心したような声を出す。業務課長が怪訝そうな顔をし、美人弟子に聞く。ちょっと酔いが回っているようだ。

 「一体何の話をしてるんでしょうかね? 関係者しかわからない話ですかね? 何のことかわかります?」

 「えー、こういうことでしょうか。先ほど言われたように、SCMは、企業間の壁を取り払い、販売動向などの情報を共有して最適な行動をとることをねらいとしている。それはあたかも一企業の中で行われているようにやるんですよ‥‥ところで、うちの会社は、その一企業になってますかって展開するということでしょうか?」

 「ピンポーン」

 部長が、嬉しそうに、ビールのジョッキを掲げて言う。それを見て、業務課長が仲間入りをする。

 「なーるほど、わかりましたよ。あたかも一企業というけど、実は、そこでいう企業は、社内の壁などなく、顧客に向かって各部署が最適な行動をとっている会社なんだぞ。その意味で、うちの会社はどうだ? 社内で厚い壁があるし、情報共有などない。各部署が勝手に動いてる。サプライチェーンどころじゃないだろうっていうことだ」

部長がまた感心したような声を出す。

 「へー、業務課長もすごいな。よく読んだ。まだ酔っぱらってないってことだ」

 「なーに、それくらい、酔っぱらったって読めるさ。そうそう、それで、そういう話をしたら、連中はどんな反応だった?」

 部長が、楽しそうに答える。

 「誰も何も言わなかった。でも、社長がこう言った。『取引先とのSCMの前に、社内でSCMが必要なようだ。それがロジスティクスの導入だな。ロジスティクスは、全面的に君に任せるから、どんどん進めてくれ。困ったことがあったら常務に相談するように』って」

 それを聞いて、主任が補足する。

 「その後があります。社長は『もっとも、君が困るとは思えんがね‥‥』とも言ってました。

 「たしかに、社長の言うとおりだ。部長が困ることなどありえない。困った存在だ」

 業務課長の言葉に座がどっと沸く。

 「役員会でSCMを議論しましょうという常務の思惑がどんぴしゃり当たりましたね。やっぱり、主任は策士だ」

 大先生の感想に部長が「はい、頼もしい存在です」と応じる。照れてる主任にみんなが「乾杯」とビールを掲げる。





『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第110回(2011年6月号)「メーカー物流編・第21回」

「計画は月次で作っているんですが、実際の生産は月次では行っていないというのが、うちの生産の特徴です」

 震災でいったん中断したロジスティクス導入プロジェクトが再開した。今度の相手は生産部門だ。本社の生産管理部から新たに二名がプロジェクトメンバーとして加わり、これからどうやって工場を攻略していこうか、作戦会議が開かれた。

プロジェクトが再開した

 だんだん蒸し暑くなり、そろそろ電力需給が心配になり始めた頃、大先生がコンサルをやっているメーカーでロジスティクス導入のプロジェクト会議が開かれた。大先生一行の到着を待って、プロジェクトリーダーである物流部長が大先生を見ながら、開会の挨拶をした。

 「まだ元通りというわけにはいきませんが、私どもでは、ようやく震災の影響から脱しつつあるところです。震災対応でしばらく間があいてしまいましたが、今日の会議からプロジェクトを再開したいと思います。先生にはご迷惑をお掛けしてしまいましたが、改めてご指導よろしくお願いいたします」

 「別に迷惑など掛かっていません。それより、震災対応お疲れさまでした。大変な事態を乗り越えられたようで、皆様の努力に敬意を表します。また、ロジスティクス会議を再開することになったのは喜ばしいことですが、しばらく間があいて、前回までのことを忘れていなければいいのですが‥‥」

 返事を期待していない大先生の投げ掛けに業務課長が即座に反応した。

 「はい、任せてください。部長はともかく他の連中はばっちしですから」

 「何がばっちしなのか知らんけど、おれは、少なくとも業務課長の発言内容については全部覚えているから心配ない」

 早速、部長と業務課長の掛け合いが始まった。いつものペースだ。主任が苦笑しながら、部長に話し掛ける。

 「部長、新メンバーの紹介を‥‥」

 「あっ、そうか、君たちは、今日初めて先生にお会いするのか?」

 そう言って、部長が大先生たちに二人の新しいメンバーを紹介する。本社の生産管理部に所属している二人で、彼らは、製品別の月次生産量を策定して、工場に提示する役割を担っている。ロジスティクスにおいては、これから要になる立場だ。

 本来、社長としては、この二人を加えてロジスティクス部を立ち上げ、本格導入にもちこむ腹積もりであったが、大震災の影響で、それが先送りになっている状況であった。

 二人の挨拶に大先生が興味深そうな顔で応じる。

 「よろしくお願いします。そうですか、月次の生産計画を作っている方々ですか」

 「そうです。ただし、工場では月次の生産はしていません‥‥」

 大先生の言葉を受け、業務課長が楽しそうに答える。さすがの部長も苦笑しながら弟子たちに話す。

 「お聞き及びでしょうが、計画は月次で作っているんですが、実際の生産は月次では行っていないというのが、うちの生産の特徴だと、このチーム内ではなぜか楽しんで話してます。まあ、何カ月、何十カ月にも相当する在庫が存在するのも当然です。さすが温厚な私でも、その特徴には、ちょっと呆れてます」

 「部長が温厚かどうかはさて置くとして、たしかに、営業の連中が怒るのは無理ないと思う。あれば売れるはずの製品が倉庫にないなんて事態が日常茶飯事なんだから。何が売れてるか、いま何を優先して作るべきかなんてお構いなしに、自分たちの都合で作ってるんです、うちの生産は。それも自分たちで作れる範囲でしか作らないんですよ。外注など活用して生産能力を高めるってことなどまったく考えてないんです。まったく‥‥」

 主任に「まあまあ」と宥められて、ようやく業務課長が矛を収めた。

 「まあ、業務課長の言うとおりだ。君たちも実は、生産に対しては思うところがあるんじゃないの?」

 部長に矛先を向けられ、生産計画担当の年長者が答える。

 「はぁ、何とお答えしていいかわかりませんが、私らは一体何をしてるのかという忸怩たる思いがあったことはたしかです。いくら販売実績を踏まえた数字を提示しても、結局のところ参考程度にしか扱われないんですから。ただ、生産との関係は、どこでもそんなものかなという諦めに似た気持ちもありました。でも、これからは何かおもしろくなりそうなので、大いに頑張ろうと思っています。なぁ?」

 「はい。僕も同感です」

 年長者に同意を求められ、若い担当が大きく頷く。二人とも、新たな舞台にやる気十分のようだ。

生産とは正攻法でやりとりする

 ここで、それまで様子を眺めていた主任が、会議の進行を促すように口を挟んだ。

 「生産に対してどう持ち掛けるかなんですが、現状の延長線上で、ああしろ、こうしろと言っても、抜本的な改善にはつながらないと思うんです。そこで、思い切って、たとえば現状の月次の生産を週次生産に変更するというような抜本的な投げ掛けもありかなと思いますが、どうでしょう?」

 主任の提案に業務課長がすぐに同意を示す。

 「たしかに、そのとおりだ。賛成!」

 業務課長の言葉に、ちょっと心配そうに、生産部門にいた経験のある東京の物流センター長が意見を言う。

 「まあ、意識改革のためにはそういった思い切った投げ掛けも必要だと思いますが、最初からそれを押し付けると反発が強く、抵抗のカベを作られてしまいかねないんじゃないでしょうか。そこで、どう攻めるかという作戦を立てることも必要だと思いますが‥‥何たって、なるべくまとめて作りたい、同じ製品の生産は月に一度しかしたくないというように、まとめ作り志向が強いですから、彼らは」

 センター長の言葉に生産計画担当の年長者が同意を示す。

 「私が見る限り、実質的に、月次生産を週次に替えるといっても、さほど大きな支障はないと思います。ただ、いまご指摘がありましたように、まとめ作り志向が極めて強いですから、あまり売り上げの大きくない製品については、それこそ月次レベルで、つまりまとめて作ることを許容するといったような逃げ道も必要なのではないでしょうか」

 「それに、週次の計画数値だけでなく、何週間か先までの生産見込み量も提示してやる必要があると思います。原材料等の手配もありますが、それ以上に生産調整の余地を残してやることも必要な気がします」

 年長者の意見を受けて生産計画担当の若手が補足する。

 「計画は週次だけど、月次の生産も認めるよってことだ。まあ、それでも、いまよりはいいな」

 業務課長が、合いの手を入れる。部長が苦笑しながら、意見を述べる。

 「主任が言う思い切った投げ掛けをするというのには賛成だ。ただ、生産の連中の気持ちをあまり事前に慮らない方がいい。正攻法で行って、ぶつかり合う中で、現実的な打開策を見出せばいい。まあ、少なくとも、彼らを悪者扱いしないという配慮は必要だな。おそらく、彼らもわれわれが何を言ってくるか、およそ想定しているだろうし、週次生産はその想定内に入っていると思うよ」

提案を計画に落とし込む

 「なるほど、週次生産を彼らの想定内に入れるように事前に手を打つのか、あるいは、もう打ってるのか、やっぱり部長は策士だ」

 業務課長が感心したような声を出す。部長がちょっとむきになって反論する。

 「何言ってるんだ。策を弄するのはやめようと言ってるだけだ」

 「だから、策士だと言うんです‥‥」

 業務課長のわけのわからない物言いに部長がさらに反論しようとする寸前に主任が割って入った。

 「そういうやり取りは、あとで、お二人だけでやっていただくとして、話を進めましょう。先生もおいでですから」

 主任の言葉に部長が苦笑しながら「あっ、済みません。お騒がせしまして」と大先生に謝罪する。大先生が頷き、楽しそうに話す。

 「いえいえ、禅問答みたいでおもしろかったです。それはいいとして、私の経験では、正攻法で向かい合うというやり方に賛成です。在庫実態を提示して、とにかく市場への出荷の動きに合わせて作ってもらいたい、それが全社最適につながる、ついては週次で生産してほしいがいかがか、生産側はどう思うか‥‥というような真っ当な投げ掛けがいいと思いますが、どうですか?」

 大先生の問い掛けに全員が頷く。企画課長が手を挙げる仕草をする。大先生に促され、話し始める。

 「そういう手順でやるのがいいと私も思います。その場合、先ほどいくつか出ていましたが、生産側の主張を想定して、落としどころを見つけておく必要がありますよね。それも、初年度はここまででいいけど、二年度目はここまでやってもらう、三年度目は‥‥というように、計画の形に落としておくことがいいのではないでしょうか。もちろん、ロジスティクス導入計画の一環として」

 企画課長の提案に主任が大きく頷き、即座に賛同の意見を述べる。

 「そうですね。それがいいと思います。いまの時点では無理だというなら、それではいつの段階でなら可能なのかという約束を取り付けて、全社計画としてオーソライズしてしまうという手もあるんではないでしょうか?」

 業務課長が胸の前で小さく拍手して、主任をかまう。

 「なーるほど、生産の連中にその場限りの言葉で逃げられないように、計画としてオーソライズしてしまうのか、それはいい。しかし、主任も部長に劣らず策士だな」

 「何言ってんですか、策を弄しているわけではありません。先生のおっしゃる正攻法で行こうとしてるだけです」

 今度は主任がむきになって反論する。部長が「ほらな」という顔で主任を見ている。それを見ながら、大先生が発言する。

 「いまの意見に異論はありませんが、実際話し合ってみると、結構前向きな対応をしてくるかもしれませんよ、生産は。そういうケースを多く見てきました」

 大先生の意見に生産計画担当の年長者が即座に反応した。

 「はい、実は私もそう思います。ご存知だと思いますが、工場でナンバーツーのあの次長ですが、あの人は、きっと、みなさんの考えに近いと思います。現状の生産のやり方に必ずしも納得しているとは思えません。着任してまだ半年くらいなので、敢えて波風を立てないようにおとなしくしているようですが、こちらの提案には結構興味を示すと思います。そんな気がします」

 話を聞いて、主任が思い当たることがあるような素振りで「あー、あの人」と言って大きく頷く。業務課長が主任に「知ってるの?」と聞く。

 「個人的に知り合いというわけではありませんが、部長と同じように、トップランナーの一人という評判です。部長のちょっと先輩のはずです。人伝ての話ですが、行く先々で革新的なことをやっていて、守旧派の連中からは煙たがられているようです」

ロジスティクスの導入は堂々と

 「なるほど、それはおもしろい。その彼がどう出るかだな。そうそう、言っておくけど、工場長は守旧派だぞ。たしか‥‥なぁ?」

 業務課長がそう言って、工場に詳しい物流センター長に確認するように聞く。

 「はい、たしかに、そうです。工場長は変化を嫌がるタイプです。ただ、正確に言うと、みずから変化を起こすことは面倒くさがって嫌いますが、周りが変えたいということには拒否しないタイプだと思います。あっ、自分のようなものが推測で勝手なこと言って済みません」

 主任が、「いえいえ」と言いながら、安心したような顔で結論を出す。

 「それなら、工場長と次長で意見が割れるということはありませんね」

 「そうなると、キーマンは次長だな。次長を対象に一点突破全面展開を図るという作戦だな。その次長に事前に根回ししておく必要はないですかね?」

 業務課長が誰にともなく聞く。部長がにこっと笑って答える。

 「策を弄するのが嫌いなおれとしては、そんな根回しはしたくない。正攻法で真正面から攻めればいい」

 部長の言葉にみんなが頷く。何を思ったか、主任が大きな声を出す。

 「そうです。ロジスティクスは、堂々と導入しましょう」

 その言葉にみんなが驚いたように主任を見る。突然、業務課長が「さすが主任」と言って、手を叩く。主任の意気を感じたかのように、みんなが大きく頷き、業務課長に合わせて拍手する。




『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第109回(2011年5月号)「メーカー物流編・第20回」

「これまではピンと来なかったんですが、いまは何となく、サプライチェーンという視点がなぜ必要なのか理解できます」

大震災が話題になった

 大先生と親しくしている関西の物流業者の社長が大先生を訪ねてきた。突然の来訪だが、大先生は事務所で暇を持て余していた。

 「突然で申し訳ありません。お忙しい先生にはお会いできないだろうなと思って来ましたが、お会いできてよかったです。いやー、運がいい」

 たしかに、大先生は暇だが、そもそも事務所にいる時間帯が少ないので、会えることは運がいいのかもしれない。一人で喜んでいる社長氏に大先生が声を掛ける。

 「おたくはどうでした? 震災の影響は‥‥」

 「あっ、そういえば、震災後初めてお会いするのでした。先生は大丈夫でしたか?」

 「私は、あの日、地震が起こったとき浜松町にいて、結局事務所まで二時間掛けて歩いて帰り、その日は事務所に泊まった。特に被害はなかったので大丈夫」

 「それはよかったです。私の方は、東北には拠点がありませんが、北関東に二カ所ありまして、一カ所は棚から商品が落ちて被害が出ました。もう一カ所は、そこは震度六強の地域だったようですが、不思議なことに建物も中の商品も何ともありませんでした。特に大変な状況ではありませんので、ご安心ください。ご心配いただきまして、ありがとうございます」

 大先生が安心したような顔で頷き、続けて聞く。

 「ところで、救援物資の輸送にはかかわったんですか?」

 「はい、積極的に協力させていただきましたが、はじめのうちは、ご存じのように、道路事情とか燃料不足などでなかなか大変でした。でも、あれですね、いま振り返ると、被災者の方々へのロジスティクスが、まったくと言っていいほど機能しなかったですね。避難所に必要なものを必要なだけ届けるのがロジスティクスだと思うんですが、あの状況では現実的に無理ですかね?」

 「そうね、本来なら、ロジスティクスの司令塔になる組織があって、そこが、どこに何カ所避難所があるか、それらの避難所でどんな物資がどれくらい必要とされているか等の情報を把握して、物資の調達を一元的に行い、各避難所への輸送手段を確保し、輸送指示を出すという役割を果たすことが必要なのだけれども、今回は予期せぬ大震災ということだから、難しかったことは否めない」

 大先生が、ため息をつくように、一息入れる。そこに社長氏が言葉を挟む。

 「避難所の数をつかむこともままならず、また避難所との連絡手段が存在しないというところも少なくなかったですからね‥‥まさに暗中模索です。たしかに、暗中模索ではロジスティクスは無理ですね。あれですか、突然ですが、軍隊の場合は、やはり衛星通信ですか?」

 「そう、通信機器を常に持っていて、衛星で連絡するから、前線部隊がどこにいようと、後方のロジスティクス部隊が状況を把握するのは難しくない」

 大先生が通り一遍の説明をする。社長氏が知っていることをわざわざ確認したようだ。社長氏が苦笑いしながら、また確認する。

 「企業の物流でも、情報不在のままやっているところが結構ありますよね。在庫を見込みで物流拠点に送り込むということになりますが、今回の救援物資も結局見込みで送り込まざるをえなかったようです。それにしても、道路などのインフラが破壊されてトラックが走れなかったのが痛かったです」

 大先生が小さく頷く。社長氏がしんみりした風情で続ける。

 「今回、物資が届かない状況を見て、いかに物流が重要かということが改めてわかりましたが、同時に、物流がスムースに行われている状態がいかに価値あることかということも実感しました」

 「たしかに、いまさらだけど、物流は、間違いなく、経済や国民生活を支えているってこと‥‥」

サプライチェーンは「一蓮托生」

 大先生の言葉を聞きながら、社長氏が、何か思い出したように、話題を変える。

 「そういえば、あの震災の後、サプライチェーンという言葉がたびたび登場したように思いますが、そんな感じはしませんか?」

 「たしかに、かなり頻度高く登場した。メーカーとしては、原材料や部品、資材などが調達できなければ製品は作れない。その調達が震災の影響でできなくなってしまったというところが結構あったからね。まあ、いまでもあるけど‥‥」

 社長氏が頷いて、勢い込んで話す。

 「聞くところによりますと、ある大手メーカーでは、基幹部品の調達先をリスク対応ということで、一社に絞らず、二社にしていたそうなんですが、その二社が原材料を東北の同じ工場から調達していたそうで、その工場が被災して生産ができなくなり、供給が止まってしまったんです。そのため、基幹部品の調達ができなくなって、結局、その大手メーカーでも生産が止まってしまったらしいんです。これに似た話がたくさんあります」

 「たとえ、関西のメーカーでも、サプライチェーンの中に東北の企業があれば、生産は止まってしまう。サプライチェーンを日本語で言うと何と言うか、知ってる?」

 大先生の突然の質問に、社長氏が恐る恐る「供給連鎖ではないんですか」と答える。それを聞いて、大先生が笑いながら言う。

 「違う。日本語では一蓮托生って言うんだ。こっちの方が本質をついているだろ」

 社長氏が「たしかに」と言いながら、大きく頷く。続けて、大先生が何か言おうとするのを遮るように社長氏が話し出す。

 「あっ、こんな話も聞きました。あれだそうです、一言で調達先といっても、それは四次、五次というように多段階化していて、サプライチェーンの全貌をつかむこと自体、かなり難しいらしいです」

 大先生がわかってるという顔で、先ほど言いたかったことを言う。

 「だから、いよいよこれから本格的なサプライチェーンのマネジメントが要求されるってことさ」

 「なるほど、例のSCMですね? かつては、SCMといっても、ピンと来なかったんですが、いまは何となく、サプライチェーンという視点がなぜ必要なのか、理解できます。でも、多段階にわたる構成企業を全部管理するというのも大変なことですね」

 社長氏がちょっと顔をしかめる。それを見て、大先生が説明する。

 「いや、一社がサプライチェーン全体を管理するというのではなく、自社をしっかり管理できる企業群でサプライチェーンを構成するっていう考え方だと思う。サプライチェーンを構成する個々の企業がそれぞれの調達先の管理をしっかりやるっていうイメージ‥‥そうなれば、サプライチェーン全体が管理されることになる」

 「なるほど、私の好きな話に鎖の強度の話があります。鎖全体の強さは鎖を形作っている、あの一個ずつの輪っかの中で最も弱い輪っかによって決まってしまうという話です。構成する輪っかを次々強くすることで鎖の強度が高まるってわけです」

 社長氏のまどろっこしい話に頷きながら、大先生が話す。

 「そう、サプライチェーンを構成する企業群のうち、ある一社が機能不全を起こすと、サプライチェーン全体が機能不全に陥ってしまう。それがサプライチェーンの本質。機能不全とまではならなくても、ある企業の機能が弱体化すると、サプライチェーン全体が弱体化してしまう。つまり、最終段階で製品を販売するメーカーの競争力はサプライチェーンの強さで決まるというわけ。言いたいことはそういうことだよね?」

 「そうです。今回の震災で、それについて実感したということです」

 大先生が「たしかに」と同意して、続ける。

 「改めて、この理解をしっかり持つことが必要だと思う。とにかく、サプライチェーンを構成する企業群をパートナーとして共通のマネジメントの土俵に乗せることが重要。何たって一蓮托生なんだから‥‥」

在庫回転期間を一定に維持する

 「なるほど、そうですね。SCMでは、さらに、そのパートナー間で、需要に関する情報などを共有して、無駄な在庫を生み出さないという取り組みも重要な課題ですね」

 勉強家の社長氏が熱弁をふるう。大先生が大きく頷く。それを見て、社長氏が「あっ、そうそう」と言いながら、カバンの中から雑誌を引っ張り出した。大先生と話をする題材がそこにあるらしい。その雑誌を見て、大先生が興味深そうな顔をする。

 「この『ロジビズ』の先月号なんですが、ご覧になってます‥‥よね?」

 大先生が「もちろん」と言って頷く。安心した顔で、社長氏が続ける。

 「これ、在庫特集なんですが、この中に、在庫回転期間と売り上げの一〇年間の推移を示した図があるんです。これです」

 そう言って、社長氏がその図を示す。その図では、売り上げが〇七年度まで伸び続け、リーマンショックを受け、その後低下しているのに対し、在庫回転期間は売り上げの伸びに伴って、期間が短くなり、売り上げの低下に伴って期間が長くなっている様子が描かれている。それを見て、大先生が「その解説は簡単だよね?」とわざとらしく聞く。社長氏が頷き、解説を始める。

 「売り上げが伸びているときに在庫回転期間が短くなり、売り上げの低下に伴って期間が長くなるというのは当たり前の動きのように思えますが、要は、売り上げは変化しているのに在庫金額はほとんど変化していないという、そういうことだと思います。これって、実は在庫管理上大きな問題をはらんでいるんじゃないでしょうか? 欠品や過剰在庫の同時多発というような‥‥」

 大先生が感心したような顔で、社長氏を誉める。

 「さすが、よく勉強している。そのとおり。在庫を管理するという取り組みはまだ一部にとどまっているってこと。もったいないよね。在庫を管理すると大きな経営効果が出るんだけど、その認識が広まっていない。その結果がその図に端的に現れている」

 「やっぱり、そうですか。間違ってなくてよかったです。先生の在庫管理論を展開すれば、一番望ましい姿は、在庫回転期間の線が横ばいか下に向かっているってことだと理解していますが、それでいいですか?」

 「正解。説明の必要はないかもしれないけど‥‥」

 大先生がもったいぶると、社長氏が「説明してください」と即座に要求する。頷いて、大先生が続ける。

 「わかった。えーと、たとえば、在庫回転期間を一・二カ月に維持すると決めて管理するとしよう。その場合、売り上げがどうなろうと、回転期間は一・二カ月をずっと維持することになる。具体的に言うと、ある製品の売り上げが月一〇〇〇個だったとすると、持つ在庫は一二〇〇個になる。その売り上げが月五〇〇個になったら、在庫は六〇〇個維持すればいい。いずれも回転期間は一・二カ月。このように在庫回転期間を一定水準に維持することが在庫管理。あなたの言うように、在庫回転期間が変動するってことは在庫管理がなされていないということ。当然、欠品や過剰・不良在庫が発生している」

 大先生の説明をメモを取りながら聞いていた社長氏が嬉しそうに頷く。

 「なるほど、やはり、そういう理解でいいんですね。よくわかりました。安心しました」

 「別に安心するようなことでもないと思うけど、それだけ在庫管理に詳しいんだから、あなたのとこで預かっている在庫の管理を代行してやったらいいんじゃないの。3PLの一つの方向性だと思うけど」

 「いえいえ、私のは頭の中だけの知識です。在庫の管理は、実務的にいろいろ課題が多いでしょうから、実際は難しいですよね?」

 「それなら、経験を積むという意味で、毎月、在庫品目別に、その在庫回転期間を情報として荷主に提示するということからやってみたら。それで、御社が儲かることになるかどうかはわからないけど‥‥」

 「そうですね。私自身、興味がありますので、サンプル的にやってみましょうか。儲かるかどうかは後の話です。荷主企業にどのような貢献ができるかという視点から検討してみます」

 そう言って、社長氏は満足そうな顔で帰って行った。大先生は、なぜかさわやかな気分に包まれていた。




『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第108回(2011年4月号)「メーカー物流編・第19回」

「月次生産なのに在庫日数が一カ月を大幅に上回っている製品が少なくありません。原因としては二つが考えられます」

 ロジスティクス導入を進めるプロジェクトチームは、営業部門との調整を一段落させて、今度は生産部門と対峙することに。月次で生産しているのに、在庫日数が二カ月以上、ものによっては半年にも達している理由は何なのか。生産部門における在庫管理の実態解明が始まった。

生産計画担当者との会議がもたれた

 ようやく春めいてきたある日の午後、本社生産管理部とプロジェクトチームとの間でミーティングが行われた。物流部長が生産管理部長に呼び掛けたもので、生産管理部から部長と二名の生産計画担当者が参加した。

 本社の生産計画担当は、製品別の月次の必要量を工場に提示する役割を担っている。営業部門との協議を経て販売見込み量を確定することが主たる仕事である。実際の製造ライン別の生産計画は各工場の計画担当者の役割であるが、ロジスティクスという点では工場の担当者よりも本社の計画担当者の方がかかわりが大きい。

 「また、そっちは随分大人数だね。数で負けそうだ」

 会議室に入るなり、生産管理部長が、待ち構えているような風情の物流部の連中を見て呟く。物流側は部長をはじめセンター長も含めた七名のプロジェクトメンバー全員が揃っている。

 「いえいえ、体力勝負なら負けませんが、頭脳勝負だと少数精鋭のおたくには敵いませんよ」

 生産管理部長より少し後輩の物流部長が穏やかに答える。「またまた」と言って、生産管理部長が二人の部下を紹介する。プロジェクト側はそれぞれ自己紹介する。こうして生産計画関係の検討会が始まった。最初に主任が口火を切った。

 「型通りの質問になって申し訳ありませんが、話のとっかかりとして、まずお聞きしたいのですが、うちの場合、基本的に在庫責任の所在はどうなっているんでしょうか?」

 主任のストレートな質問に生産管理部長が「うーん」と言って、言葉を選ぶように話し始める。

 「本音で話をさせてもらいます」

 生産管理部長の言葉にみんなが頷く。物流部長が「もちろん、それでお願いします」と答える。生産管理部長が頷いて、話を続ける。「在庫責任の所在は、あるような無いようなものです。あるようなというのは、在庫を切らすと、営業からわれわれのところに文句が来ますんで、在庫は原則われわれの責任かなと、まあ感じるということです。もちろん、営業がわれわれに伝えなかったイベントなどで欠品が出たり、誰も予想しえなかったような突発的な需要増の場合などは免責になります」

 ここまで話して、生産管理部長が一息いれる。みんなが納得したように頷く。

 「在庫責任が無いようなというのは、たとえ欠品が出たからといって、組織的にペナルティが課せられるということはないということと、欠品とは逆の過剰在庫については実質的に何のお咎めもないわけで、その意味で、責任がないということです。私の言いたいこと、おわかりですよね?」

 「わかる、わかる」

 業務課長が大きく頷き、確認するように聞く。

 「でも、上の方から在庫を減らせとか言ってくるでしょ。その筋からは責められないんですか?」

 「はい、たしかに、これまでは毎期末になると、そんな話が出てました。ただ、大きな声では言えませんが、期末対策で力づくで、それなりに在庫を減らしてきましたんで、上の方の要望には形だけですが、何とか応えてきました。正直なところ、一過性の在庫削減です。でも、これからはそういうわけにはいかないんですよね。今日の会議はそういう話し合いと理解していますが‥‥」

 生産管理部長の正直な答えに、なぜか座が和んだ雰囲気になる。物流部長が答える。

 「はい、期末に力づくで在庫を減らすなんてことはしないで、一年を通して適正な在庫水準を保っていこうということをやろうとしています。そのためのカギを握っているのがみなさんだと思ってます」

 生産管理部の三人が頷く。計画担当の二人はちょっと不安そうな表情をしている。その二人に主任が質問する。

在庫が膨らむ要因は二つある

 「お二人は、毎月の必要生産量を工場に提示しているんですよね?」

 主任の突然の名指しの質問に二人がどきっとした顔をし、すぐに頷く。それを見て、主任が続ける。

 「初歩的な質問で済みませんが、必要生産量はどのように策定するんですか?」

 二人のうち年長の担当者が頷いて、説明を始める。

 「基本的には、現状の売れ方とこの先の営業の売り方をベースに決めています」

 生産管理部長と違って、建て前的な返答だ。業務課長が噛み付こうとするのを主任が制して、二人の前に在庫関連の資料を置く。

 「ちょっと、これを見てください。うちの製品を売り上げの大きい順に並べてあります。見ていただきたいのは、そこの在庫日数の欄です。ずっと後ろの方まで見てください」

 主任に促されて、二人が顔を寄せ合うようにして、資料を見る。途中までページを繰ったところで、主任が発言する。

 「見ればおわかりのとおり、在庫日数が二カ月を越えるような製品が少なくありません。ものによっては三カ月とか半年にもなるものもあります。うちは月次生産ですから、安全在庫を含んでも、平均で一カ月分くらいに収まっていればいいんですが、それとは程遠い実態です。必要生産量の策定が、いまおっしゃったようなやり方で貫徹されていれば、本来そんな結果にはならないはずです。ところが、そうなってないということは、そこに何かがあるということになります。そうですよね?」

 主任の問い掛けに生産計画担当の二人が小さく頷く。警戒しているのか、返事がない。主任が改めて確認する。

 「在庫が一カ月を大幅に越えているものが少なくないという原因としては二つの要因が考えられます。一つは、あなた方が策定している月次の必要生産量が大きすぎるか、生産側が一カ月分を越えて作っているかです。二つが複合的に作用しているかもしれません。いかがですか?」

 主任の質問に年長の担当者が意を決したように答える。

 「はい、おっしゃるとおりだと思います。私どもが提示する必要生産量は、たしかに多めに策定しています。先ほど部長からお話がありましたように、欠品を出すと営業から責められますので、どうしても安全を見越して多めになってしまいます。生産の側も、作る段になりますと、いろいろ都合があるようで、私どもの提示以上の量が作られているようです。ただ、これについては、私どものコントロールが及ばないところですので、どうしようもないというのが正直なところです」

 年長の担当者が、今度は正直に答える。主任が頷いて、続けようとするところに業務課長が割って入った。

 「うちの営業はいい加減だし、生産は勝手だから、その間に入って、あんたらも大変だよ。うん、わかる。生産はあれだよ、月次計画はやってるけど、月次生産はやってないってことだよ。先生の受け売りだけど‥‥」

 業務課長の物言いに二人が驚いたような顔をする。それにはかまわず、物流部長が興味深そうな顔で業務課長に聞く。

 「なに、先生の受け売りって、業務課長は先生にお会いしたの?」

 「いや、そうそう、たまたま先生の事務所の近くに行ったものだから、ちょっとご挨拶にお寄りしただけ‥‥」

 「たまたまねー」

 物流部長が業務課長の顔を覗き込む振りをする。業務課長が嫌そうな顔をする。企画課長が助け舟を出すように、業務課長に聞く。

 「それで、その受け売りって、どういうこと?」

 業務課長がほっとしたような顔で元気に答える。

計画は週次でも生産は週次じゃない

 「それそれ、えーと、あっ、週次生産の話なんだけど、この前、ある会社の話を聞いていたら、生産計画は週次で立ててるって言うんだけど、在庫は一カ月分くらいあるのさ。おかしいだろ。そのときは質問できなかったんで、たまたま先生にお会いしたとき、それを先生に聞いたわけ。そしたら、先生が『計画は週次だけど、生産は週次じゃないのさ』ってお答えになったわけ」

 物流部長がおもしろそうに『お答えになった』と確認するように復唱する。プロジェクトのメンバーが一斉に噴き出す。生産管理部側は事情がわからず、きょとんとしている。業務課長が照れ臭そうな顔で続ける。

 「はいはい、先生はそのあと、こうもおっしゃいました。『週次生産というのは、本来一週間分の必要量を生産することと理解すべし』だそうです。その意味で言うと、うちの生産は月次で生産計画を作っているのに、生産は月間必要量以上のものを作っているってことじゃないですか? だから月次生産じゃないってこと」

 「はい、たしかに、そうです。製品にもよりますが、生産ロットですとか段取り替えがどうだとか持ち出して私らの提示する以上の量を作ってます。たしかに、その意味では、月次生産ではありません」

 業務課長の話に思い当たったのか、若い方の計画担当者が、突然口を挟んだ。年長の担当者も同意するように頷いている。物流部長が独り言のように呟く。

 「なるほど、計画は月次だけど、生産は月次でない‥‥か。言いえて妙だし、本質を突いている」

 部長の言葉にみんなが同意を示すように頷く。部長が続ける。

 「そのあたりは、生産とのミーティングでやるとして、営業対策としての多めの量の策定は、これからは必要ない。現状の出荷量をベースに必要生産量は決めればいい。それを越える出荷が想定されるなら、営業からその情報をもらう。もちろん、しかるべき責任者を通して。そういうルールについては、いま営業側と打ち合わせをしている」

 物流部長の言葉に計画担当の二人は安堵したような顔で頷く。この場で自分たちが責められるわけではないという安堵のように見える。そんな二人に、突然、物流部長が「ところで、二人にやってもらいたいことがある」と声を掛ける。二人がぎくっとした顔で部長を見る。

ロジスティクス部発足へ

 「ちょっと事前に知りたいので、君たちが作った製品別の計画値と実際に生産された数量とを比較可能な形で表にしてくれ。それと各製品の一日当たり生産能力も一緒に示してほしい」

 二人の計画担当者は、他部門の部長からの突然の指示に戸惑ったような表情を見せ、生産管理部長の顔を見る。生産管理部長が大きく頷き、二人に静かに話す。

 「昨日、常務に呼ばれて、お達しを受けた。二人をこのプロジェクトのサブメンバーとして、日常業務に支障がない範囲でということだけど、基本的に物流部長の指揮下に置いてくれということだった」

 二人が驚いたような表情を見せるが、嫌そうな気配はない。むしろ、興味津々といった風情だ。そんな二人を見ながら、生産管理部長が物流部長に声を掛ける。

 「近々、正式にロジスティクス部というのが発足し、君が部長になるって聞いている。そのとき、この二人も異動になるんじゃないかな? まあ、いまの時点で、本人たちを前に人事の話をしてはいかんかもしれないけど、その可能性があることくらい彼らも知っておいた方がいいと思って」

 「はい、その可能性は否定できないとだけ言っておきます」

 物流部長が率直に考えを述べる。それを聞いて、年長の担当者が「先ほどご指示いただいた件は、早急にやります」と返事をする。それを聞いて、業務課長が突然、同席している物流センター長に声を掛ける。

 「センター長は、数年前まで工場にいたんだよな。生産計画やってたんじゃなかった?」

 「はい、その一員でした。済みません。当時を振り返ると、たしかに、まとめて作りたいという意識が強かったといえます。そのあたりに根源があるんでしょうね」

 センター長の話を聞きながら、部長が迂闊だったという顔をする。

 「そうだった。身近に関係者がいたんだ。それでは、センター長も加わって、うちの生産の実態を解剖してみてくれないか。日常業務で忙しいかもしれないけど、頼むよ」

 「わかりました」

 物流部長の指示に、計画担当の二人とセンター長が同時に返事をする。こうしてプロジェクトはまた一歩前に踏み出した。



『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第107回(2011年3月号)「メーカー物流編・第18回」

「物流というフィルターを通せば、生産や営業の建前やきれいごとは簡単にあぶり出せます。物流に嘘は通用しません」

 プロジェクトチームのメンバーと中堅営業担当者による調整会議終了後、懇親の席が設けられた。仕掛け人の物流部長は、やはり欠席。同じ社内とはいえ、ほとんど面識のないもの同士の宴席では、営業担当者たちの元上司でもある物流部長が格好の話題に。その人物像がだんだんと見えてくる。

【登場人物】
大先生 物流一筋三〇有余年。体力弟子、美人弟子の二人の女性コンサルタントを従えて、物流のあるべき姿を追求する。
物流部長 営業畑出身で数カ月前に物流部に異動。「物流はやらないのが一番」という大先生の考え方に共鳴。
業務部課長 現場の叩き上げで物流部では一番の古株。畑違いの新任部長に対し、ことあるごとに反発。コンサルの導入にも当初は強い拒否反応を示していたが、大先生の話を聞いて態度が一変。
経営企画主任 若手ながらプロジェクトのキーマンの一人。人当たりは柔らかいが物怖じしない性格のようで、疑問に感じたことは素直に口にする。

営業担当との会合を部長がセットした

 営業部門との公式な会議のあと、その会議に出席していた中堅の営業担当たち五人とプロジェクトチームのメンバーたちとの間で懇親の場が設けられた。営業の連中に声を掛けたのは物流部長である。営業担当たちは喜んで馳せ参じたが、部長は、自分がいると自由なやり取りができないかもしれないと気遣って、この懇親会も欠席した。

 全員が集まったところで、ビールで乾杯が行われ、その後、自己紹介に移った。前回の会議では、所属と名前が書かれた名簿が配られただけだった。もちろん、営業担当たちとプロジェクトチームのメンバーたちとの間には、これまで接点はない。

 自己紹介までは経営企画室の主任が仕切ったが、その後は例によって業務課長が主役になった。早速、業務課長が切り出した。槍玉に上がったのは物流部長だ。

 「うちの部長は、今日も欠席なんだよ。おれがいると自由に話し合えないだろうからなんて言っちゃって。何たってかっこつける人だから。別にいたって気になんかならないよな?」

 まだ始まったばかりなのに、業務課長はもう酔っ払っているような話し方だ。業務課長に同意を求められた営業担当が苦笑しながら答える。

 「はぁ、いや、やっぱり、部長がおられると結構意識してしまいます。われわれにとっては、憧れの存在というか、尊敬の的というか、そういう方ですから‥‥」

 別の営業担当が続ける。

 「部長には、早く営業の責任者として戻ってもらいたいと思ってます」

 「いまの、あの営業担当役員ではだめか? そうだろうな」

 「いや、だめだなんて、そんなことは言いません。でも、なんというか、われわれは部長に育てられたという関係でもありますので、早く戻ってもらいたいだけです」

 業務課長の言葉に、ちょっと戸惑いながらも、営業担当が正直に答える。業務課長が楽しそうに続けて聞く。

 「それでは、部長が営業を出て、物流に行くって聞いたときはびっくりしたろう?」

 営業全員が大きく頷き、一人が代表するように答える。

 「はい、それはもう驚きました。部長は、『日頃の悪事が祟って左遷させられた』なんておっしゃってましたが、けろっとしてました」

 別の営業担当が続ける。

 「一体何があったんだろうって、みんなで噂してたんですが、部長が常務に呼ばれて、社長と三人での会談があったという話を聞いて、会社は部長に何か思い切ったことをやらせる考えなんだなと納得しました。物流を梃子に会社を変えようというんですよね? そこで、恐いもの知らずの部長に白羽の矢が立ったんでしょ? そのあたりは、皆さんの方がご存知ですよね?」

 営業担当から逆に質問され、業務課長が主任を見た。これに答えるのは主任が適任だと思ったようだ。業務課長も意外に謙虚なところがある。主任が頷いて、プロジェクトのねらいについて説明を始めた。

 「はい、おっしゃるとおりです。簡単に言いますと、工場での生産段階からお客さまへの納品までの供給活動を作り直そうという取り組みです。この取り組みで大きな障害になると思われるのが、生産と営業です。あっ、済みません。障害なんて言っちゃって‥‥」

 「いや、いいです。たしかにそうだと自覚してますから。続けてください」

 主任の謝罪の言葉に営業担当の一人が先を促す。

 「はい、別に批判するわけではありませんが、生産も営業も、これまでは自分の都合というか利害を優先させて行動してきたことは事実です。まあ、それぞれの部門にとっては、それでいいんですが、全社的にみると、そこに大きな無駄が生まれていました。そこで、全社最適という視点から、これまでの生産や営業のやり方を是正していこうというわけです」

物流は社内の無駄の隠れ蓑

 主任が一息つくのを待って、一人の営業担当が聞いた。

 「それをやるには、やっぱり物流を中心とするのがいいってことですか?」

 「そうですね。もちろん、そのためのプロジェクトチームを作って取り組んでもいいんですが、それだと建前というかきれいごとで終わってしまう危険性もあります。その点、生産や営業の活動はすべて物流に反映されますから、物流というフィルターを通せば、建前やきれいごとは簡単にあぶり出せます。そうそう、業務課長にかかったら、生産や営業のやり様はすべてお見通しですよ」

 主任の言葉に営業担当の全員が「へー」と言って、業務課長を見る。業務課長が満更でもなさそうな顔をするが、ちょっと照れ臭そうに言う。

 「いやいや、別に大したことではないって。物流はずっと生産や営業の勝手な言動に悩まされてきた。物流は社内の無駄の隠れ蓑って言われるんだけど、ほんとにそうだよ。作り方や売り方のまずさはすべて物流にしわ寄せが来る。だから、物流に嘘は通用しない」

 営業担当たちが頷く。一人が独り言のように呟く。

 「なるほど、そうでしょうね。わかります。いずれにしろ、部長には、その仕事を早く仕上げて、営業に戻って欲しいと思います。そのために、われわれにできることがあれば、何でもしますので、言ってください」

 「へー、すごいな。営業担当者の発言とは思えない。それだけ部長は慕われてるってことだ。ふーん、驚いた」

 業務課長が本気で驚いたような声を出した。営業担当たちがちょっと照れ臭そうな顔をする。それまで黙って聞いていた企画課長が「ちょっといい」と言って、営業担当たちに質問した。

 「みなさんがというより、営業一般の考えということでいいんだけど、物流とか、それから在庫については、普段どう考えているんですかね?」

 突然の企画課長の質問に営業担当たちがちょっと困ったように顔を見合わせる。一人が思い切ったように頷いて答える。

 「そうですね、それこそ、ここで嘘言ってもすぐにばれますので、正直に言いますが、私たちは、普段、物流についてはまったく何も考えていないというのが実際のところです。物流の方々には申し訳ないんですが、あまり重要な仕事だとも思っていませんでした」

 「おれたちを下に見てたというのが正直なところだろ?」

 業務課長の率直な問い掛けに、その営業担当はちょっと首を傾げて、小さな声で答える。

 「同じ会社の者同士として、下に見るという意識はありませんが、そう受け取られる言動があっただろうとは思います」

 業務課長がさらに何か言おうとするのを遮るように企画課長が口を挟む。

 「答えづらい質問をして済まない。それでは、在庫についてはどうかな? これなら答えやすいんじゃない?」

 この質問には別の営業担当が答えた。

 「在庫は、もうお見通しだと思いますが、われわれ営業としては、とにかく欠品を出さないために持つという考えです。そんなに売れるわけないと思いながら、売れたらどうしようとついつい多く手配しがちです。在庫を手配する連中には、絶対欠品を出すなよって言ってました」

 「その結果、在庫が余っても、特に責任を問われるとかいうことはないですよね?」

 主任が確認するように聞く。営業担当たちが頷き、一人が答える。

 「はい、そうなんです。欠品を出すと、お客さまとの関係でいろいろ面倒な対応が必要になりますが、在庫はいくら抱えても、特に何もありません。先日の会議で、みなさんから在庫責任不在という指摘がありましたが、たしかに、そこは大きな問題だと思います」

在庫を手配はしても管理はしない

 企画課長が納得したように頷きながら、さらに聞く。

 「欠品を出したくないというのはわかるけど、実際は、結構欠品が出てるよね? もちろん売れ筋の商品ではないけど、それ以外の商品では例外とはいえないくらいの頻度で出てると思うよ」

 「そうなんです。われわれは、結局、在庫の手配はしているけど、管理はしていないってことです」

 営業担当が自嘲気味に言い、さらに続ける。

 「それで、前回の会議のときに、在庫の手配は物流に任せてもいいと主張したのです。いや、むしろ物流に任せた方がいいということです」

 企画課長が頷き、姿勢を正すようにしてまとめる。

 「わかった。それでは、在庫についてはわれわれに任せてもらうとして、在庫に関連することで、もう一つ確認しておきたいことがある」

 企画課長の改まった物言いに営業担当たちが、これまた姿勢を正して頷く。

 「それは、出荷に関することなんだけど、月末とか期末に出荷が増える傾向がある。それは、市場の動きではなくて、営業の都合つまりノルマのせいだよね?」

 「はい、ひとえにわれわれ営業の都合です。おっしゃるようにノルマのせいです。当然のことですが、営業ですから、毎月ノルマに追われてます。そこで、月末にノルマの達成ができていなければ、頑張って営業攻勢をかけます。それが月末の出荷増につながるわけです‥‥」

 営業担当の話が終わらないうちに、業務課長が食いついた。

 「ノルマの達成ができていなければっていうけど、いつもそうだよな。月末になると、決まって出荷がぴょんと伸びる。これがあると、在庫の持ち方で困ることが出るんで、何とかしてもらいたいんだ。大体、月末だけ営業やることないだろう。月初からちゃんと営業やってれば、月末に慌てて営業攻勢など掛けなくてもいいと思うけど‥‥」

 業務課長の言葉に営業担当全員が顔を見合わせて、苦笑しながら大きく頷いた。一人が営業の心情を説明する。

 「たしかに、ご指摘のとおりです。ただ、営業の妙な習い性というのでしょうか、月の半ば過ぎないと、やる気が出ないんです。勝手言って済みません」

 主任が興味深そうに聞く。

 「それって、お客さまに無理に売り込むわけですよね。そうなると、やはり、値引きなんかもさせられることになるんですか?」

 ここでも営業担当全員が頷く。それを見て、業務課長が突き放したように言う。

 「もう、そろそろ、そういう売り方はやめた方がいいんじゃないの。いいことないよ、その売り方は。若手の営業マンたちがかわいそうだよ、それじゃ」

 「はい、たしかに、昔ながらの売り方ですから、うちでは、いまだに古参の営業が幅を利かせています。その意味では、若手の士気を落としていることも否定できません。別に幅を利かせるような立派な売り方ではないんですがね‥‥」

 それを聞いて、業務課長が呆れたように大きな声を出した。

 「だめだよ、若手の士気を落とすような営業なんぞやってちゃ。そんな営業じゃ会社の将来はないぞ。部長は何をやっていたんだ。ロジスティクスなんかやってないで、営業の改革を先にやらなければだめだ」

 業務課長がそう言ったとき、座敷の襖が開いて、声がした。

 「おれに何を先にやれって?」

 突然現れた部長の顔を見て、営業担当たちが弾かれたように立ち上がった。プロジェクトメンバーたちもびっくりした顔をしている。業務課長が独り言のように言う。

 「話が終わった頃を見計らって酒を飲みに来た?」

 「そのとおり。業務課長は何でもお見通しだな。この人、恐かったろう?」

 問い掛けられた営業担当が「はい」と答える。業務課長に睨まれて、「済みません」と下を向く。すぐに主任が部長に報告する。

 「おかげさまで、今日は率直な話し合いができました。まだ話し足りないところもありますが、これから営業関係で何かあったら、すぐに相談できる関係になれたと思います。それは有難いです。あっ、業務課長は何か部長に言いたいことがあるようです」

 「また、そういう振り方をする。主任も部長と付き合っているうちに段々人が悪くなってきた。やだやだ」

 業務課長がそう言って、ビールのグラスを勢いよく空ける。部長がビール瓶を持って「どうぞ」と注ごうとする。業務課長が嫌がってグラスを隠す。その様子を営業担当たちが楽しそうに見ている。

『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第106回(2011年2月号)「メーカー物流編・第17回」

「それなら、これからは在庫については一切合財あんたら物流に任せて、おれたち営業は一切かかわらないでいいんだな」

 ロジスティクス導入に関する営業との意見交換会に、物流部長が欠席。若手の経営企画主任がその代役を務めることに。在庫がらみの営業の言い訳はすべて叩き潰せ。妥協せずに徹底的にやりあってこい。そう物流部長に肩を押され、決戦場に臨んだ。

営業との調整会議が開かれた

 朝から小雪のちらつく寒い日の午後、コンサル先のメーカーの本社でプロジェクト会議が開かれた。大先生一行が到着するなりコーヒーが出てきた。業務課長が「まずは、からだを温めてください」と声を掛ける。雑談が一段落したところで、主任が口火を切る。

 「本日は、新年に行いましたプロジェクト会議以降の私どもの取り組み経過につきましてご報告させていただきます。ロジスティクスの導入につきましては、昨年、一応経営陣の承認は得ていますが、導入に向けては当然各部門との調整が必要ですので、それをやりました‥‥」

 主任の言葉に大先生が頷く。業務課長が早速割って入った。

 「まずは、うちの営業と意見交換をやったんです。おもしろかったですよ」

 業務課長の物言いにプロジェクトメンバー全員が苦笑する。そのとき何か閃いたのか、美人弟子が咄嗟に質問する。

 「その営業さんとの意見交換会には部長もご出席なさったんですか?」

 「さすが鋭い質問ですね。やっぱり、そこんとこが気になるでしょ。答えは欠席です。正確に言えば、ドタキャンです」

 部長が苦笑しながら事情説明をする。

 「いえね、出るつもりだったんですが、常務がらみで急用が入りまして、やむを得ず欠席しました。もっとも、営業との会議に私など居ても居なくても同じですから」

 「部長が居られると、営業の方々も意見を出しづらいんじゃないかと思いまして‥‥そうですか、配慮されたんですね」

 美人弟子の解釈に主任が頷き、続ける。

 「配慮されたかどうかわかりませんが、たしかに部長がおられたら、みんな遠慮してしまうでしょうから、その意味では、出られなかったおかげで活発なやりとりができました。業務課長の活躍もありましたが‥‥」

 「何言ってんの。あのときの主役は主任だったじゃない。部長から悪知恵吹き込まれて、部長の代理を務めたんだから大したもんだ」

 「別に悪知恵など吹き込まれてませんよ。ただ、『妥協はするな。合意できなければペンディングにしてこい』とは言われました」

 「なるほど、それで強硬だったんだ、主任は」

 話を聞いていた企画課長が頷きながら言葉を挟む。体力弟子が待ちきれないといった感じで聞く。

 「それで、営業の人たちとの間でどんな意見交換が行われたんですか?」

 主任が頷いて説明を始める。

 「お手元に当日の議事録のようなものを資料として準備しておりますが、要は、一番議論として白熱しましたのが在庫手配についてです」

 「営業側が在庫手配に固執したんですか?」

 体力弟子の質問に企画課長が答える。

 「そうなんです。自分たちも売りの状況を見ながら在庫の手配をしているんであって、売れないものをわざわざ手配するなんて馬鹿なことはやっていない。ただ、売れるかどうかは売ってみないとわからないので、結果として売れ残りの在庫が出るのは仕方ないことだ、という自分たちを正当化する言い訳がまずありました」

 「なるほど、よくある展開だ。それに同意を示すと、そのあと議論にならない」

 大先生が独り言のように呟く。それを聞いて、主任が大きく頷き、説明を続ける。

 「はい、私どもプロジェクトチームとしましては、『営業は一切在庫などに関わるな。営業は売り上げを増やすことに専念すればいい』というスタンスを貫徹するという合意ができてましたので、在庫がらみの言い訳はすべて叩き潰すという方針で臨みました」

 「へー、懐柔型ではなくて、叩き潰し型ですか? それはおもしろい」

 大先生の感想に部長が説明する。

 欠品が出たら責任を取れるのか?

 「別に喧嘩腰というわけではなく、最初の話し合いですし、営業本部長も出ないということでしたから、遠慮せず徹底してやりあってこいと送り出しました。この会議で合意に至る必要もありませんし、われわれの本気度を見せるいい機会だと思いました」

 「そうか、あとの収拾も考えて、あの場に部長は出てこなかったんだ。ドタキャンじゃなくて、作戦だったんだ」

 業務課長が納得したような声を出す。主任が思い出したように話を再開する。

 「あっ、それでですね、先ほどの営業の言い訳に対しては、『売りの状況を見ながら』って言うけど、それはどんなデータを見てるんだって突っ込みました。データなどないことはわかってましたから。案の定、売りのデータなどなく、根拠のない補充を掛けていたということをしぶしぶ認めました」

 主任が一息つくのを見計らって、業務課長が説明を引き取る。

 「それから、『結果として売れ残りの在庫が出るのは仕方ない』なんて言ってましたが、過去一年分の在庫データを見せてやりました。仕方ないじゃ済まないだろってことも認めさせました」

 「へー、それで、会議の雰囲気としては険悪な感じでした?」

 大先生が興味深そうに聞く。

 「それがですね、ぶすっとしている連中もいれば、われわれの話に頷いている連中もいるという妙な感じでした。特に険悪という雰囲気ではなかったな?」

 大先生の質問に業務課長が答え、隣の企画課長に感想を求める。

 「はい、たしかに、営業本部の部長クラスや支店長や支店の営業責任者クラスはぶすっと派で、それ以外の営業担当クラスは頷き派って具合に区分できるかな?」

 企画課長らしくない大雑把な区分に主任が苦笑しながら答える。

 「当たらずとも遠からずってとこですね。数で圧倒しようとしたのか、向こうは十数名という大人数でした。でも、実際のとこ、勢い込んでいたのは営業本部長に近い人っていう印象でした。彼らは営業本部長の意を受けていたんでしょうね。どうでしょう?」

 主任に振られた部長が「さぁー」と言いながら、業務課長を見て、「営業本部長の業務課長への反発だろうな」とにこにこしながら言う。業務課長が何か言おうとするのを主任が止めて、報告を続ける。

 「そのあとですが、『在庫をあんたらに任せるのはいいとして、もし欠品が出て売り上げを逃したらどうするのか、責任を取れるのか』とある支店長から迫られました」

 「それで?」

 体力弟子が先を促す。主任が続ける。

 「そうなれば、当然、私どもの責任になりますって答えました」

 「そしたら、よせばいいのに、その支店長が『責任を取るってどう取るんだ』ってたたみかけたんです」

 業務課長の言葉にプロジェクトメンバーたちが思い出したように頷く。部長が「余計なお世話だ」と呟く。

 「それです、それ。主任も同じ答をしてました」

 「えっ、私はそんなこと言いませんよ。どう責任を取るのかは会社が決めることで、ここで私どもが答えることでも、支店長から問われることでもないと思いますがって言っただけです」

 「同じじゃない。余計なお世話だってことだろ‥‥」

 そう言って、業務課長が突然口をつぐんだ。部長の視線を感じて、やばいと思ったようだ。部長がわざとらしく横を向いている業務課長に声を掛ける。

 「そう言えば、ある筋から聞いたんだけど、そのとき課長は、何か言ったらしいね。責任の取り方で?」

 部長の首でも差し出しますか

 業務課長を除くプロジェクトメンバーたちが下を向く。笑いをこらえているようだ。業務課長は何も言わない。部長が続ける。

 「うちの部長の首でも欲しいんですかって言ったんだって?」

 「いやいや、ちょっと険悪になりそうだったんで、座を和ませようと思って、冗談で言ったんです」

 業務課長の言い訳に企画課長が突っ込む。

 「でも、和むどころか、『おれはそんなつもりで言ったんじゃない』って支店長を怒らせてしまった。まあ、どう責任を取るんだなんて愚問を発して、主任にたしなめられた腹いせもあったんだと思うけど‥‥」

 「そうそう、まあ、その話はいいじゃないですか。それより、そのあとの展開がまたおもしろかったんですよ」

 業務課長がそう言って、弟子たちを見る。弟子たちが頷くのを見て、急いで話を続ける。

 「そのあとですね、営業本部のある部長が、『それなら、これからは在庫については一切合財あんたら物流に任せて、おれたち営業は一切かかわらないでいいんだな』って念を押してきたんです」

 「責任は負わないとしても一切かかわらないってわけにはいかないですよね?」

 体力弟子が言葉を挟む。業務課長が頷き、続ける。

 「そうですよね。そう言おうとしたら、主任がすぱっと言ったんです。はい、一切かかわらないで結構ですって。あんまり毅然としてたので、私は口をつぐんでしまいました」

 「へー、そしたらどうなりました?」

 体力弟子が主任に聞く。主任は照れ臭そうな顔をしている。それを見て、企画課長が引き取る。

 「一切かかわらないでくれって言ったきり、主任は何も言わなかったんです。そしたら、営業の連中がざわざわしだして、ある支店の営業責任者が代表する形で、『通常出荷以外にたとえばイベントとか特売のような形の出荷もある。それらにも対応してくれなきゃ困る』って言い出したんです」

 「へー、向こうから言い出した? 主任の狙い通り?」

 大先生の言葉に企画課長が続ける。

 「だと思います。向こうがそう言い出したので、主任が『そういう特別な出荷については時間的余裕を持って事前に連絡してくれれば準備します。事前に連絡がなければ、そういう出荷には対応できませんので、その点ご了解ください』って言ったんです。いや、見事なやりとりでした。肝心なことをこちらから頼むのではなく、向こうから言わせたんですから。部長直伝ですか?」

 企画課長が興奮気味に一気に話す。部長が苦笑しながら顔の前で手を振る。主任が「想定問答の中にあったじゃないですか」と言う。めずらしく企画課長が引き下がらない。

 「いや、特別な出荷の情報を営業からもらうことという話は出ていたけど、それを向こうから言い出させるというシナリオはなかったはずだ」

 ここで大先生が割って入った。

 「まあ、主任は意外と策士だったってことにしておきましょう。それはそうとして、その会議で営業との間の在庫問題はほぼ決着したということでいいんですか?」

 大先生の問い掛けに、主任が確認するように二人の課長の顔を見る。課長たちが主任を見て同時に頷く。主任が頷き返して答える。

 「はい、ほぼ決着したといっていいと思います。実は、議論が出尽くして、そのあと、ちょっと沈黙の状況になってしまったんです。そのとき、こちらから『そういうことでよろしいでしょうか』って聞いても返事がないかもしれないと思って、黙っていたら、営業側から声が出たんです。神の声でした」

 「神の声?」

 弟子たちが同時に聞く。主任が頷く。

 「ある中堅の営業担当から『在庫にかかわらなくていいということは、われわれにとっていい話だと思います。在庫の心配をせず、営業に専念できるのですから。少なくとも、いままで以上に悪くなることもなさそうだし。私は在庫手配を物流に任せることに賛成です』って声が出たんです。それが引き金となって、他の営業担当からも賛成の声が上がりました。第一線の営業担当の人たちが賛成したので、結局、本部の部長が『わかりました。今日の提案について前向きに検討させてもらいます』と言って、お開きとなりました。部長の根回しがあったのかもしれませんが」

 部長は黙っている。その部長に業務課長が思い出したように聞く。

 「そうそう、それでどうなったんですか? 営業から部長に何か話がありました?」

 部長が「それがな」と言い辛そうに答える。

 「昨日、社長室に常務と営業本部長が集まって三者会談があった。そこで、在庫については今後うちの責任で行うことが決定した」

 「なんだ、そうだったんですか。そういうことは早く教えてくださいよ」

 「責任が重くなるだけで、決していい話とも思えなかったんで、言いそびれてた」

 部長の言葉に業務課長を除く全員が笑いながら、大きく頷いた。


『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第105回(2011年1月号)「メーカー物流編・第16回」

「要りもしないものが山ほど物流センターに送り込まれてきます。営業が勝手に在庫を手配しているからです」

 並み居る役員たちを前にして、叩き上げの業務課長が吠えた。ロジスティクス導入の必要性をプロジェクトチームが役員に説明する報告会。普通なら尻込みしてもおかしくない正念場で、業務課長が持ち前の反骨精神を発揮する。果たして吉と出るのか。

新年のプロジェクト会議がスタートした

 新年会を兼ねたプロジェクト会議をやりたいというので、大先生一行は年明け早々に、メーカーの本社に出かけて行った。玄関まで迎えに出ていた業務課長が「今日は、まず会議室で簡単にプロジェクトの会議をやって、その後、新年会場に流れ込みますから」と楽しそうに言う。

 会議室に入ると、物流部長以下メンバー全員が待っていて、部長が代表して新年の挨拶をする。大先生が挨拶を返す。全員が席に着くと、部長が今日の会議の趣旨を説明する。

 「ご存知のように、昨年末の押し詰まった時期に、ロジスティクス導入に向けた役員への報告会がありました。その後、先生には簡単にご報告いたしましたが、今日は改めて、当日の状況についてご報告したいと思います」

 大先生が頷き、業務課長をちらっと見て、言葉を挟む。

 「はい、その節はお疲れ様でした。なにか業務課長が大活躍をされて、ほぼ思い通りの結果を得たようなことを伺っておりますが、そのあたりも含めてお話を聞きたいと思います」

 「またー、そういうことを言って。あっ、部長がまた、あることないことおもしろおかしくお話ししたんでしょう? まったく‥‥」

 業務課長が、鼻の穴を膨らませて、早速部長に文句を付ける。なかなかいい出だしだ。部長がすました顔で「別に、あったことだけお話ししただけだよ。おれはほんとのことしか言わないから。あのとき業務課長が活躍したことは間違いないよね、課長?」

 部長に問われた企画課長が、大きく頷き、業務課長を見て続ける。

 「はい、あのときは業務課長の独壇場でした。私も主任も出番がほとんどなかったですもんね」

 企画課長の言葉に主任がすぐに反応する。

 「そうでした。私は説明しただけで、質疑に入ってからは出番がありませんでした。業務課長がお一人で対応して、ときどき、課長が言い過ぎたり、本筋から逸れそうなときに部長が修正しておられましたね‥‥」

 主任の言葉に弟子たちが興味深そうな顔をする。美人弟子が待ち切れないといった感じで質問する。

 「その業務課長のご活躍についてお聞きしたいですね。役員の方たちとどんな丁々発止があったんですか?」

 「またまた、そういう挑発的なことを言うんだから。別に大したことはなかったんです」

 業務課長が苦笑いする。それを見て、主任と企画課長がその会議の様子を再現し始めた。業務課と企画課の若手社員たちも身を乗り出した。

 

──役員報告会・会議室

 「それでは、次にロジスティクスの導入に関してプロジェクトチームからご報告をいただきます」

 主任の直属の上司である司会役の経営企画室長の言葉を受け、説明役の主任が資料をもとに報告を始めた。

 資料は、ロジスティクスの概念と導入の必要性、ロジスティクスにかかわる当社の実態、ロジスティクス導入の経営効果という三本の柱から構成されている。

 主任のロジスティクスの概念と必要性についての説明が終わった途端、総務担当の役員がおどけた調子で発言した。経営会議のテーマとしてロジスティクスなど重要度が低いと思っているのか、この役員に限らず他の役員たちも気楽な風情だ。

 「ロジスティクスというのは、兵站だよね。『坂の上の雲』で出てくる日露戦争の、えーと、そうそう二〇三高地の争奪戦は海上の兵站線を確保するための戦いだったんだよね」

 総務担当役員の知ったかぶりの発言に他の役員たちが頷く。隣の役員と気楽に小声で言葉を交わしている役員もいる。そのような反応を見て、総務担当役員が満足したような顔で続ける。

兵站線を確保しただけでは意味がない

 「たしかに、その意味では兵站、君らが言うロジスティクスが重要なことは言うまでもないことだけど、企業では兵站線を奪い合うなんてことはないし、いまの時代、ものが届かないなんてこともないだろ?」

 この言葉に他の役員たちが、また大きく頷く。そのとき、他の役員から、これまた茶化した感じで声が発せられた。

 「そうか、競合企業に勝つために、競合の兵站線を断って、補給を止めてしまうという戦略もあるわけだ。ロジスティクスのチームはそれで経営に貢献しようってわけか。がっはっは」

 大きな笑い声につられて、他の役員たちも笑う。業務課長がむっとした顔で、身を乗り出して何か言おうとするのを部長が止めた。そして、笑っている役員たちに部長が言う。

 「なるほど、いいお考えですね。うちの営業がにっちもさっちもいかなくなったら、その手を考えましょう。そんなことしないで済むことを祈ってますが‥‥」

 部長の言葉に営業担当役員が渋い顔をするが、何も言わない。物流部長が苦手のようだ。他の役員たちも同じようで、部長の発言に笑い声は一気に静まった。静かになったところで、部長が続ける。

 「兵站線を確保しただけでは戦争に勝てないんですよ」

 部長の一言に役員たちに怪訝そうな表情が浮かぶ。考えれば当たり前なことなのに、真意に思い至らないようだ。このような認識不足がロジスティクスの理解を妨げている一因だ。部長の発言を受け、怪訝な顔をしている役員たちに業務課長が説明する。まったく物怖じしないのは業務課長らしい。

 「兵站線が確保されて、ものが届けられても、届けたものが必要ないものだったら意味ないでしょう。弾薬が足りないのに銃器を送っても意味ないし、薬が欲しいという部隊にトイレットペーパーを届けても怒るだけですよ、前線の部隊は。違いますか?」

 何人かの役員が頷いている。それを見て、業務課長が調子に乗って続ける。

 「必要のないものはその場に放置されます。そして、すぐに必要なものを持って来いと怒り狂った要請を出します。それが来ないと戦えないというんで前進はストップします。一方で不要なものは廃棄されます。こんな意味のない、無駄なことはやってはいけない。それくらい、あなたがたでも‥‥」

 「そういう意味のないことをしないためのマネジメントがロジスティクスです」

 業務課長が口を滑らせそうになったのを止めるように部長が割り込んだ。みんな頷きながら、黙っている。業務課長が部長に小声でささやき、部長が頷くのを見て、発言する。

 「軍隊だけでなく、企業も同じです。この後、うちの実態を報告しますが、たしかに先ほどどなたかがおっしゃったように、きょうび、届かないことはありません。ただ、そのおかげで、要りもしないものが山ほど物流センターに送り込まれてきます。肝心の必要なものがないというのは日常茶飯事です。ロジスティクスというマネジメントがない中で、営業が勝手に在庫を手配しているからです」

 業務課長のこの言葉に、さすがに営業担当の役員が噛み付いた。

 「勝手にやっているわけではない。お客さまのために欠品を出さないように、一生懸命在庫の手配をしている‥‥」

 「でも、現実には欠品が出てますよ。例外どころではなく、日常茶飯事です」

 営業担当役員の言葉の途中に業務課長が割り込んだ。役員が怒って、声を荒げる。

 「そんなに欠品が出てるわけないだろう。そんな報告も受けていない」

 業務課長は怯まない。負けずに大きな声を出した。

 「当たり前でしょ。欠品の報告なんか誰がしますか。みすみす怒られるようなことを報告するほどうぶな営業なんか、うちにはいませんよ。お客に謝って待ってもらったりしてるんです。失注も結構ありますよ。あなたが知らないだけです」

 「何を言うか、一体君はなんなんだ‥‥」

 「ちょっと待ちなさい。そんなこと言い合っても、それこそ意味がない。この後、当社の実態についての報告があるようだから、それを聞くことにしようじゃないか」

 顔を真っ赤にした営業担当役員が業務課長に噛み付こうとするのを常務が止めた。常務の言葉に社長が「そうしよう」と言って、プロジェクトチームの方を見る。部長が頷き、主任に合図をする。主任が頷き、「それでは、当社のロジスティクスにかかわる実態という資料をご覧ください」と言って、説明を始める。

「君の部は今日からロジスティクス部だ」

 在庫の過不足・偏在、顧客からの注文の来かた、営業の売り方、生産の仕方などロジスティクスにかかわる現状についての報告が数字の裏づけを伴って行われた。主任が「以上で報告を終わります」と言った後、しばらく沈黙が続いた。

 今度は、誰も茶化したような発言はしない。あちこちでページを繰る音がするだけだ。社長が隣の常務に何か質問をし、常務が答えている。常務には事前に報告してあるので、報告内容については十分に理解している。

 誰も何も言わないのを見計らって、社長が「まあ、これまでこういう実態だったというのはよしとしよう。報告にもあったように、市場との同期化など誰も考えていなかったし、それができるような組織体制にもなっていなかったんだから仕方がない。それで、このような無駄を省くと、どれだけのメリットが出るのかというのが最後のページのこれだな?」

 社長の質問に、主任が慌てて「はい、そうです」と言って、「えーとですね」と説明を始めようとするのを社長が止める。

 「いや、説明は要らない。見ればわかる。三割在庫が削減されると、これだけのキャッシュが生み出されるのか‥‥半減するとこれだけか。なるほど、ばかにならん額だな。それで、ここで、こういう削減率を上げているということは、在庫半減も実現可能ということだな。やりようによっては?」

 社長の質問に部長が答える。

 「はい、おっしゃるとおりです。やりようによってはですが‥‥」

 部長の言葉が終わらないうちに、また業務課長が口を挟んだ。

 「生産と営業の理解とやる気次第ではそんなに難易度の高い課題ではありませんが、やる気になるかどうかが難易度の高い課題です」

 業務課長の言葉に社長が苦笑する。生産担当の役員がおもむろに口を開く。

 「これを持ち帰って、内部で検討をして、たしかにそのとおりだとなれば、われわれは積極的に取り組むつもりだ。余計な心配はしないでいい」

 営業担当役員も続ける。明らかにむっとした口調だ。

 「そのとおりだ。まずは検討させてもらおう」

 役員たちの言葉に業務課長が何か言おうとする前に、部長が言い放った。

 「いや、持ち帰って検討など勘弁してください。きちんと説明しているんですから、意見があれば言ってください。いまここで議論して、ロジスティクスに取り組むかどうか結論を出してください」

 部長の言葉に生産と営業の担当役員は苦虫を潰したような顔をする。「そうは言っても、急に報告されて、答えを出せと言われても‥‥」などとぶつぶつ言っている。それを聞いて、社長が結論を出した。

 「わかった。持ち帰って検討するのは結構だ。ただし、その検討はロジスティクスを導入するという方向性の中でやってほしい。ロジスティクスをやるという中で何か課題があるなら、それを出してくれればいい。その課題は、いいかね、解決すべき課題であって、ロジスティクスの導入をやめる要因には決してならないからな。このことはよく頭に入れておいてくれ」

 社長の言葉に二人の役員が頷く。それを見て、社長が物流部長に「ロジスティクス導入の準備を進めてくれ。君の部門は今日からロジスティクス部だ。人員の補強が必要なら、常務に相談してくれ。この効果を期待している」と言って、経営効果を記したペーパーを掲げた。物流部長が大きく頷いた。

 

──プロジェクトチーム新年会

 経営会議の様子を聞いていた企画課の女子社員が感動したように「へー、すごかったんですね。たしかに、課長の活躍のおかげですね」と声を詰まらせる。業務課の若手課員も頷く。弟子たちも大きく頷く。美人弟子が「部長も格好いいですね」と言う。体力弟子が「ほんと、ほんと」と同意する。

 部長が「いやいや」と顔の前で手を振り、「それにしても、大活躍のおかげで、課長は出世の目は完全になくなったな」と楽しそうに業務課長を見る。業務課長は「はいはい、じゃ、宴会に入りましょう、ロジスティクス部長」とおどける。物流部長が答える。

 「そうだな、これからが勝負だから。飲みながら、前途多難なこれからの取り組みについて検討しよう。先生、よろしくお願いします」

 部長の言葉に大先生が大きく頷いた。

 




『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第104回(2010年12月号)「メーカー物流編・第15回」

それについては可視化されていないため、誰も問題として認識していないというのが実態ではないでしょうか?

 戦略とロジスティクスは、果たしてどのような関係にあるのだろう。経営においてロジスティクスは戦略に従うことが当たり前とされている。しかし軍事の世界では必ずしもそうではないらしい。酒の勢いも手伝って、メンバーたちの議論はいよいよ哲学味を帯びてきた。

軍事では「戦略は兵站に従う」
 大先生を囲む飲み屋での検討会がまだ続いている。主任と業務課長、企画課長がメンバーだ。わいわいがやがやの検討の結果、「経営幹部会にはロジスティクスによる具体的な経営効果を『ROA』をベースにして提示する」という結論に達した。たとえば在庫に関しては「いくら在庫を削減できるか」ではなく、「在庫削減によってどのような経営効果がどれくらい出るか」を具体的に示そうというねらいだ。
 一つ結論が出て気をよくしたのか、業務課長が焼酎の水割りのグラスを片手に主任に上機嫌で聞く。
 「そうそう、経営効果といえば、たしか、部長が、経営戦略への貢献も検討しろとか言ってたように思うんだけど、それについても主任の担当だよね?」
 主任が、気乗りしないような顔で頷く。企画課長が主任の気持ちをおもんばかるように口を挟む。
 「経営戦略への貢献といっても、結構難しいよね。いや、貢献が難しいという意味ではなく、それをアピールすることが難しい、と思うけど‥‥」
 「それは、戦略によって貢献の仕方がいろいろだからってこと?」
 企画課長の言葉に業務課長が確認するように聞く。その問いに企画課長が首を傾げ、「うーん、ちょっと違うな。戦略とロジスティクスとの関係というのは、わかりきってるといえばそうなんだけど、なかなか一言では説明できない‥‥」と煮え切らない風だ。 その言葉を聞いて、業務課長が「何も一言で説明しなくてもいいんじゃないの」と口を尖らす。そして、突然何か思い出したような顔で、大先生に向き直って質問する。
 「あのー、いま話題になってる、戦略とロジスティクスとの関係なんですが、どっかで小耳に挟んだ話では、軍事の世界では『戦略はロジスティクスに従う』という有名な言葉があるようですね?」
 大先生が頷き、「へー、いい言葉を知ってるね」とにこにこしながら言う。業務課長が続ける。
「それってすごい言葉ですよね。戦略よりもまずロジスティクスが大事だって言ってるわけでしょ。経営でもその考えを使って、ロジスティクスの重要性を訴えればいいんじゃないですか?」
 大先生がちょっと首をひねって、解説する。
 「戦略よりもロジスティクスが重要だっていうわけではなく、もちろん戦略が重要なんだけど、ロジスティクスが追いつかない戦略では、その戦略は実行不能だから机上の空論にすぎない、つまりロジスティクスが可能な範囲で戦略は意味を持つってことかな・・・」
 「なるほど、それは経営ではどうなんですか?」
 「業務課長はどう思う?」
 業務課長の問い掛けに大先生が逆に質問する。業務課長が「うーん」と唸り、主任や企画課長の様子を窺いながら、自分の考えを述べる。
 「えーとですね、いままでのところ、ロジスティクスが追い付かない事態というのは、実際のところ経験していないです。なぁ?」
 業務課長に同意を求められた企画課長が頷き、同意する。
 「たしかに、ロジスティクスが追い付かず、経営戦略が不可能になったということはないと思います」
 主任が続ける。
 「はい、同感です。もちろん、経営戦略が思い通り行かなかったということはありますが、ロジスティクスが原因ということはないです。計画がお粗末だったとか、担当者の能力が不足していたとかいう理由です」

経営においてロジスティクスは?
 大先生が頷き、一つの結論を出す。
 「そうでしょうね。御社に限らず、経営においては、戦略とロジスティクスとの関係は、言うまでもなく『ロジスティクスは戦略に従う』ということになります。もっと言えば、ロジスティクスは戦略を支え続けて当たり前というのが企業の常識と言っていいんでしょうね」
 「ロジスティクスが戦略の足を引っ張る事態など想定できないということですね」
 業務課長の相槌に企画課長が「でもね」と異論を挟む。
 「いま、そこで言ってるロジスティクスというのは、実際は物流のことですよね‥‥」
 企画課長の言葉に大先生が「ご明察」と親指を立てる。業務課長と主任が「たしかに、そうだ」と頷く。主任が考えを整理するようにゆっくりと話す。
 「企画課長がおっしゃるように、たとえば海外に工場を新設したりした場合、物流という点ではそう大きな支障なく運営されていますが、それでは海外工場で適時適量の生産ができているか、在庫配置が市場の動きに合わせる形でできているかとなると、大いに疑問があるのではないでしょうか」
 企画課長が主任の言葉を受けて、続ける。
 「そういう意味では、軍事のロジスティクスでも、物流ができるかということと適品が適時に適量送り込まれているかということとは区別しなければならないということなんでしょうね。米軍が『戦場のカンバン方式』なんて言ってるのも、物流という点では問題はないけれども、必要なものを必要なだけ必要とする場所に送り込むということはまだまだの状態にあるということではないでしょうか?」
 その話を業務課長が引き取った。一気に座が盛り上がってきた。大先生は静観モードだ。
 「そうそう、おれも聞きかじった程度だけど、軍事のロジスティクスにおける最大の課題がそれだって聞いたことがある。軍事の場合は、生死にかかわるので、とにかく欠品を出せない。そこで、最前線の使用状況を軍事衛星でつかんで、その情報をメーカーとも共有して、途絶えることのない供給体制を構築しようとしているらしい。欠品もそうだけど、必要のないものを作ったり、動かしたりする無駄は徹底的に排除することも大きな目的だそうだ」
 「へー、すいぶんいろいろとご存知なんですね。勉強になります。そういう意味では、企業もまったく同じですね」
 業務課長の話に主任が感心したように感想を述べる。それを企画課長が受ける。
 「そういう意味では、グローバル展開を柱とする戦略においては、物流ではなく、市場への同期化をねらいとするロジスティクスの役立ちはかなり大きいと思う。間違いなく、これまでうちでは、それができていなかった。在庫にかかわる無駄はグローバルでは相当なものじゃないかな?」
 主任が頷く。
 「その無駄は、数字では取れていませんが、間違いなくあります。ただ、可視化されていませんので、誰も問題として認識していないというのが実態じゃないでしょうか」 静観していた大先生が、新たな問題提起をする。
 「M&Aや選択と集中がらみでは、ロジスティクスの役立ちはどうですか?」

 「それなんですが、これまでの経験ではあまりうまく対応できていません」
 企画課長が、そう言って、業務課長を見る。業務課長がちょっとしかめ面をして頷く。
 「それはどうしてですか?」
 大先生の問いに企画課長が考えを整理するように頷き、答える。
 「突き詰めれば、そのような戦略への対応に誰が責任を負うのかということが明確になっていなかったということになると思います。M&Aの結果、いつまでも複数の物流が存在したままですし、不採算事業を廃止しても、物流拠点の再編は行われないままという実態です。廃止した事業の在庫もいまだに残っているというお恥ずかしい事態です」

物流のプラットフォーム化

 企画課長の言葉に主任が「へー、そうなんですか」と不思議そうな顔をする。それを見て、業務課長が「そうなんです」と強調し、「物流部は日々の業務に追われてるだけだったから」と付け足す。
 「部長が、経営戦略への対応を考えろと指示されたのは、そういう実態を踏まえてのことなんでしょうかね?」
 大先生の質問に、業務課長が頷きながら答える。
 「そうだと思います。あの部長は、ああ見えて結構見るところは見てますから」
 「ああ見えて、ですか」
 主任が苦笑するのを見て、業務課長が続ける。
 「会社に来ても、あまり席にいないし、席にいると思えば、眠っているし‥‥まあ、営業や生産の連中のところに行って、くだをまいているのは物流部長としていいことだけどね」
 業務課長の言葉に頷きながら、企画課長が何か思い出したように言う。
 「そう言えば、この前、部長と話していて、うちの物流を全面的に見直して、物流のプラットフォーム作りをしたらどうかと言われた」
 「へー、プラットフォームですか?」
 主任が興味深そうな顔で呟く。
 「なに、部長がそんなこと言ってた? おれは聞いてない」
 業務課長がちょっと不満げな顔をする。企画課長がフォローする。
 「正式な打ち合わせではなく、この前、たまたま喫煙室の前を通ったとき、中から部長に呼ばれて、そんな話が出た。煙もうもうだったから、適当に相槌打って逃げ出してきた」
 「そう言えば、課長は、たばこは吸いませんよね?」
 主任の言葉に業務課長が「部長はそういう人さ。相手の都合など頓着しない。この前なんか、物流センターに行きたいって言うんで、車で連れて行ったら、センター長に話を聞いたら、あとは直帰するから、あんたは帰っていいよだって、おれは部長の運転手かっつーの」と苦虫をつぶしたような顔をする。
 企画課長が、笑いながら業務課長をかまう。
 「部内であんたが一番暇そうに見えたんじゃないの‥‥」
 話が横道に逸れたのを引き戻すように、主任が企画課長に質問する。
 「それはそれとして、プラットフォーム作りとはどういうことなんですか?」
 企画課長が、「それそれ」という顔で答える。
 「まあ、話としては簡単で、社内共同化みたいなものかな。たとえば、M&Aで買収した事業があったとすると、その工場で作られたものを、うちの物流のネットワークに乗せてしまえば、物流はそれで済むというように、すべてをカバーできるような国内物流の基盤を作れということだと思う」
 業務課長が続ける。
 「まあ、たとえば五つの事業を買収したとしたら、五つの物流を個別にやるんじゃなくて、一つの仕組みに乗せてやれるような物流の基盤を作れということだな。話としては簡単だけど、実際はいろいろ課題はある。でも、たしかに望ましい方向性ではあるので、これも戦略への対応として考える必要がある」

拠点再編の機会を逃すな
 主任が具体的なイメージが湧かないらしく、「なるほど、なんとなくわかりますが、それについてはお二人にお任せします」と言い、さらに二人の課長に聞く。
 「いま拠点の再編という話が出ましたが、それに、そのプラットフォームとも関係するのかもしれませんが、うちの物流拠点の配置はまだ再編の余地があるんですか?」
 「あるある。一応、東西二拠点にしてるけど、営業などの都合もあって、在庫を置いたデポが結構ある。まあ、北海道と九州のデポは仕方ないとして、それ以外のデポは必要ないと思う。いままでは、営業がうるさいので、放置しておいたけど、ロジスティクスという視点から、この際見直しをするべきだろうな。どう思う?」
 業務課長が企画課長に尋ねる。
 「うん、私もそう思う。この機会を逃す手はない」
 「営業対策は部長に任せよう。それくらいやってもらわないと」
 業務課長が、なぜか楽しそうに言う。大先生が笑いながら頷き、話を引き取る。
 「戦略とのかかわりでどう対応するかという一つの結論が出たのではないですか。プラットフォーム化をベースに物流の仕組みを考え、そこに在庫をどう乗せていくかということを今後詰めていきましょう」
 三人が頷く。主任がほっとしたような顔で
 「おかげさまで、ロジスティクスの経営への貢献という点で何とか方向性が見えてきました。ありがとうございました」と大先生にお礼を言う。
 「いや、とんでもない。皆さんの活発な議論は楽しかったです。また呼んでください」
 こうして、飲み屋での検討会が終わった。




『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第103回(2010年11月号)「メーカー物流編・第14回」

「ロジスティクスの導入効果として、いったいどれくらいの在庫が削減できるのかという推計のところで行き詰ってしまったんです」

 ロジスティクスの重要性を社内に認知させるために、プロジェクトチームはその導入効果を数値で示すことにした。しかし、その算出方法をめぐってメンバー内から異論が噴出し、なかなか議論がまとまらない。非公式な飲み会の席に大先生を呼び出して、知恵を借りることにした。

飲み屋で検討会が始った
 前回のプロジェクト会議からしばらくして、経営企画室の主任から大先生に電話があった。「堅苦しくない打合せをしたいんですが、一杯飲みながらというのはいかがでしょうか」というようなことを恐縮しきりといった感じで依頼してきた。酒が飲めない主任の奇妙な依頼に興味を持った大先生は快く応じた。
 指定された場所に行くと、店の入り口で業務課長が待っていた。大先生を見つけると、「先生、先生」と大きな声で手招きする。苦笑しながら大先生が近づくと、「ようこそいらっしゃいました」とおどけた口調で挨拶する。
 「主任と課長と、あとは‥‥」
 大先生の確認に業務課長がすぐに答える。
 「企画の課長の三人だけです。嫌ですか?」
 「嫌だなんてとんでもない。そうか、なるほど、この会合は課長が仕組んだんだね。そして、主任に電話させた‥‥」
 「仕組んだなんて人聞きの悪い‥‥ほら、一応、主任がリーダーですから」
 業務課長の案内で部屋に入ると、慌てて主任と企画課長が立ち上がり、大先生に挨拶する。二人とも恐縮して「お忙しいのに済みません」と何度も言う。大先生が挨拶を返して席に着くと、すぐに瓶のビールが運ばれてきた。主任の音頭で乾杯する。
 業務課長が一気に飲み干し「ふー、うまい」と声を上げる。酒に弱い主任が、ちょっと口をつけただけでグラスを置き、業務課長の様子を頼もしそうに眺める。グラスを一気に空けてしまったのを見て、慌ててビール瓶を取り上げて注ごうとする。業務課長が「いやいや、自分でやるよ」と言って、主任からビール瓶を取り上げ、自分でどぼどぼと注ぐ。泡がこぼれるのを口ですくう。企画課長がやや呆れ顔に、それでも、にこにこしながらその様子を見ている。
 しばらく雑談をした後、主任が「それでは、これから本番」といった感じで座り直す。それを見て、二人の課長も同じように座り直す。ちょっと緊張した雰囲気が漂う。その緊張感を打ち破るように主任が恐る恐る切り出す。
 「実は、ロジスティクスの経営的な効果について、いま、私たち三人で検討しているところなんです。でも、何と言いますか、何か基本的なところで空回りしているような気がしてなりません」
 主任がそう言って、確認するように、二人の課長を見る。二人が促すように頷く。主任が安心したように続ける。
 「そこで、先生にご指導をお願いして、そんな状況を打破できればと勝手に思った次第です。済みません。お忙しい中、お出でいただいて感謝申し上げます」
 「そんな遠慮は無用ですよ。そのためのコンサルなんですから、心配しないでいいです」
 大先生が気遣って、やさしく答える。それでも、主任は遠慮がちに言う。
 「はい、ありがとうございます。でも、きっと、私ら、馬鹿みたいなことを言い出すかもしれません。その点はご容赦願えればと、そう思ってます‥‥」
 「いいですよ。私も議論は好きだから、好き勝手なことを言い合いましょう。そんな中から、きらっと光るものが見つかるかもしれないし‥‥ねえ、課長?」
 大先生から突然声を掛けられ、業務課長が「えっ」と言って、わざとらしくのけぞる振りをする。
 「はい、私も先生と同じ考えです。思ったことを言い合っていれば、答えに辿り着くんじゃないかな。そうだろう?」
 業務課長に振られた企画課長が「うーん、われわれだけじゃだめだけど、先生に加わっていただければ、辿り着くかもね」とかわす。
 そのとき大先生がみんなの顔を見ながら、質問する。
 「それで、どんな議論をしていたんですか?」 

在庫削減額をどう推計するか
 大先生のストレートな質問に主任が「はい」と言いながら、ちょっと間を置いて、ゆっくり答える。
 「えーと、まず、基本的なことなんですが、ご存知のように、必要以上に在庫があることは調査でわかりました。ロジスティクスの導入効果として在庫削減がよく言われますが、それでは、一体どれくらいの在庫削減になるのかという推計のところで、ちょっと行き詰ってしまったんです」
 大先生の質問に主任が答える。大先生が質問を続ける。
 「なるほど。それで、どんなやりとりがなされたんですか?」
 大先生の質問に企画課長が答える。
 「えーと、在庫目標を決めてですね、たとえば一カ月分の在庫に抑えようと決めて、現状の出荷量から本来的な在庫の必要量を求めて、それをいまの在庫残高と比べて何割減るはずだという形でやったらどうかという案がまず出ました」
 「はー、なるほど、考え方としては筋が通っている。ただ、それで行こうとならなかったということは現実的には受け入れられないという危惧が生まれたというわけですか?」
 「へー、筋が通ってるのに、どうして受け入れられないってわかったんですか?」
 大先生の言葉に業務課長が妙な感心をする。
 「だって議論が収束しないって、さっき言ってたでしょ? 答がまとまらなかったんで、私を呼んだんですよね?」
 「あっ、そうでした、そうなんでした」
 企画課長が「何を言ってんだ」という顔で業務課長を睨み、大先生に答える。
 「先生のご推察の通り、一カ月分に抑えればなんて言っても、うちの場合、現実的ではないのです。製品によっては、一度ラインを動かすと、場合によっては何か月分もの在庫を生んでしまうものが少なからずあるんです‥‥」
 企画課長が説明を続けようとしているのにかまわず業務課長が割り込む。
 「そうなんですよ。われわれが一カ月分なんて言っても、『それは無理だろう、そんな想定は非現実的だ』って言い掛かりを付けられるのが落ちです。本質以外のとこでいちゃもん付けて相手の言うことを潰すというのはうちの社風ですから。実は、それが得意なのがうちの部長なんです」
 「課長、ちょっと話が脇に逸れてますよ‥‥へー、そうなんですか、部長はそれが得意なんですか?」
 たしなめに入った主任が、つい話に乗ってしまった。企画課長が手を上げ、主任の顔を張る仕草をする。大先生が楽しそうににこにこ笑っている。ビールを口にして、グラスを置きながら主任に聞く。
 「それで、その代替案としてはどんな案が出たんですか?」
 「はい、一つは、現状の生産の仕方を与件とすると、これだけ減らすことができますという試算を製品ごとにしたらどうかという案が出ました。製品によって一カ月分にできるものがあったり、三カ月分にせざるをえないものが出たりと製品によって多様に分かれます。でも、これをやるとなると、実は、大変な作業が必要になります」
 「たしかに。あまり現実的とはいえない。それで別の案は?」
 大先生がその案には興味がないといった風情で先を促す。主任が慌てて答える。
 「は、はい。現状の生産与件をそのままにしたのでは在庫があまり減らないから、生産の仕方を変える、たとえば週次生産にできるものはそうするとか、ラインの最低ロットを小さくするとかですね、そういうところまで踏み込むべきではといったような話になってきてしまったんです。答えは出てません」
 主任の説明に二人の課長が頷き、大先生を見る。大先生がわざとらしく「うーん」と考える振りをする。そんな大先生に業務課長がおどけて声を掛ける。
 「また、先生、そんな悩んだ振りをして。いいんですよ、私らに気を遣っていただかなくても。おまえらあほか、何でそんな無意味な議論をしてるんだって罵倒してくれて結構ですよ。そう思ってるんでしょ?」
 「へー、さすがに業務課長は鋭い。見抜かれたか?」
 「えっ、そうなんですか? 無意味な議論でしたか‥‥やっぱり」
 大先生の言葉を真に受けて、主任がうなだれる。大先生が慌てて励ます。
 「業務課長にちょっと合わせただけで、無意味なんて思ってませんよ。そんなに落ち込まないで‥‥ただ、たしかに議論が空回りしていることは否めない。でも、そういうやり取りの中から答えは出てくるって言ったでしょ。もう少し議論を続けましょうか?」 「はい。でも、それ以上なかなか展開しないんです。実際のところ」
 主任が大先生を真っ直ぐに見て、答える。でも、言葉に力がない。それを見て、業務課長が大先生に率直に質問する。
 「そこで、お聞きしたいんですが、先生は、この状況をどう打開したらいいと思いますか?」 

重要なのは経営効果
 「どう思いますかって言われても‥‥」
 めずらしく大先生が口ごもった。三人が意外そうな顔で大先生を見ている。みんなの視線を受け、大先生が独り言のように答える。
 「うーん、まず、いちゃもんを付けられたくないという点では、いちゃもんが付きやすい数字は使わないことですよ。在庫についての制約が多い場合、その制約を盾に、どんな数字を出しても、いちゃもんはつくでしょう」
 大先生の話が終わらない内に、業務課長が「あっ、うちの部長と同じこと言ってる」と口を挟む。主任が頷き、大先生に説明する。
 「実は部長にも意見を求めたんですが、こう言われました。『そんな、わざわざ突っ込まれるような数字なんか出すな。みんなが納得する削減額なんか出ないよ』と‥‥」
 それを聞いて、大先生が確認する。
 「重要なのは、在庫削減額じゃないぞって言ってませんでした?」
 「あっ、そんなことも言ってました。やっぱり、そう考えますか?」
 業務課長がすぐに答える。大先生が頷いて、みんなに聞く。
 「ロジスティクスで重要なのは在庫削減ですか? 大事なのは、在庫削減がもたらす経営効果でしょ? その効果を中心に展開したら、どうですか? 要は、ロジスティクスへの関心を高めてもらえばいいわけですから。そこで聞きますが、在庫が減るということになれば、経営者は何を思うでしょうか?」
 「それは、やっぱり、それでいくら資金が浮くかって考えると思います」
 主任がすぐに答える。
 「そう、それがロジスティクスによる経営効果の一つです。具体的に、その効果を数字で示せれば、インパクトの強い主張になるんではないでしょうか」
 企画課長が頷き、独り言にように呟く。
 「なるほど、たとえば在庫を三割減らせれば、資金をこれだけ生み出すことができますというように、生み出せる資金の方に関心を引いて、社長から『それで実際のところ、どれくらい在庫を減らすことができるんだ?』と問われたら、こうすればこれだけ減らせますって在庫削減の方法と条件を提示するというやり方がいいってことですね」
 それを聞いて、業務課長が思い出したように口を挟む。
 「なるほど、実は、部長が、社長が身を乗り出すような数字を示せばいいんだよって言ってたんですが、それはそういうことですね」
 「でしょうね、きっと」
 大先生が相槌を打つ。主任が頷き、まとめる感じで自分の意見を言う。
 「はー、なんか出口が見えてきたような気がします。私たちが議論していたのは、在庫削減の方法であって、それは、社長から在庫を減らせという指示が出たあとで、提示すればいいことなんですね。その前に、社長が関心を持つような経営効果を具体的に示すことが必要だったんですね。うーん、そうか」
 続いて業務課長が勢い込んで自分の意見を言う。
 「そうそう、在庫を減らすという社内合意のうえで議論する段になれば、こっちで何を言っても、いちゃもんは出ないな。よし、そうしようよ。在庫を社内の資金源と位置づけて、資金を生み出すために在庫削減に取り組む。そのためにロジスティクスを導入するという段取りで行こう」
 企画課長も続く。
 「そうしよう。そうなると重要なのは、在庫削減でどれくらいの資金が浮くのかという試算と、それ以外の経営効果も提示するということだね。それこそ、前に主任が言っていたロジスティクスがいかにROAを向上させるかを数字で示すということだよ。うん、是非、これをやってみよう」
 みんな元気になってきた。業務課長がグラスを手に取り、「乾杯」と言って、一気に空ける。飲み屋での検討会はまだ続きそうだ。



『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第102回(2010年10月号)「メーカー物流編・第13回」

愚かなコストの発生を抑えることで利益貢献ができると同時に不要な資産の圧縮も可能になるんだ

 物流センターにある在庫の「アイテム別出荷対応月数」の一覧表を作るように、大先生はプロジェクトチームにアドバイスした。簡単な計算で在庫実態を表すことができる。その分析結果を見てメンバーたちは奮い立った。ロジスティクス導入が会社に何をもたらすのか、実感することができたからだ。

予期どおりの分析結果が出た
 「なるほど、思ったとおりの結果が出たな。うん、見事な結果だ」
 物流部の若手課員が出した東京物流センターの在庫分析結果を見て、物流部長が嬉しそうな声を出した。部長が見ているのは、集約した結果表で、そこには、個々の在庫アイテムごとに出荷対応月数が小さい順に並んでいる。物流センターに置いてある個々の在庫アイテムの直近一カ月の出荷実績を出し、その平均値で直近の在庫量を割ったものである。適正な在庫配置ができているかどうかを判断する、簡単だが実態を率直に表す指標である。
 「そんなー。平然と感心してる場合じゃないでしょ」
 同じ資料を見ていた業務課長が自分の席から部長に向かって文句を付けた。
 「いや、たしかに、喜ぶべき結果ではないけど、予期したとおりの結果というのは、何かほっとするな。そうだろ?」
 物流部長が、分析資料を持って来て、そのまま机の前に立っている業務課の若手課員に同意を求める。若手課員が、首をすくめる。
 「それで、今日の午後、先生がいらっしゃるんだったよな?」
 「はい、そうです。午後一番からです。会議室は確保してあります」
 若手課員と一緒にデータ分析をやった企画課の女性課員が自席から言葉を挟む。それを聞きながら、業務課長が部長席に近づく。つられるように女性課員、それに企画課長も部長席に近づいた。みんなが集まるのを待って、業務課長が話し出す。
 「先生たちも、当然この結果はお見通しで、特にご指導いただいたお二人の先生はこの結果をご存知なわけだよな?」
 「はい、もちろんです。わかりやすい結果だことっておっしゃってました」
 「そうなると、この結果を見て、先生は、さっきの部長と同じように嬉しそうな顔をするんでしょうね」
 部長が頷き、業務課長にプレッシャーを掛ける。
 「そうだろうな。ただ、きっと先生は、この結果を見て、『さて、それでどうする?』って聞いてくるぞ。その答えは業務課長に任せるから、よろしく頼むよ」
 「えっ、は、はい。いいですよ。任せてください‥‥」
 そう言って、業務課長が「ちょっといい?」と企画課長を誘って、部屋を出て行った。どうやら二人で作戦を練るようだ。それを見て、部長が「それじゃ、またあとで」と若手課員に声を掛け、たばこでも吸いに行くのか、席を立った。

売り上げと無縁のコストの発生

 大先生一行が到着し、会議が始った。まず、部長が口火を切った。
 「先生方のご指導のおかげで、在庫分析の結果がまとまりました。ありがとうございました。当然といえば当然ですが、思ったとおりの結果が出ました。トップや社内の関係する者たちには、この結果を詳細に説明し、事態を正確に把握してもらうつもりでいます。当然、この結果を受けて、これからどうするかという計画を提示するつもりでいます。本日は、そのあたりを含めてご指導いただければと思います。はじめに、念のためという程度で、結果について説明することから始めたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
 物流部長の言葉に大先生が「どうぞ」と頷く。「それでは簡単に」と部長から指示され、若手課員が立ち上がり、分析結果を説明し始めた。
 「皆さまには説明の必要はないと思いますが、確認のため総括表をご覧ください。直近の在庫アイテム別の出荷対応月数を示しています。日数ではなく、月数というところがみそです。約千アイテムを月数の小さい順に並べてあります。右端にアイテムの累積構成比を示してありますが、たとえば対応月数が一カ月以下あたりをご覧いただくと明らかですが、一カ月以下のアイテムは全体の二割強程度しかありません。そしてですね‥‥」
 「いや、もう表の説明はいいんじゃない。出荷対応月数が何カ月にもなってしまう在庫アイテムがごっちゃりとあるってことだ。結論として、出荷動向に同期化させた在庫保持になっていないという、そのみっともない状況が一目瞭然だということだよ。大体、おまえ、そんなこと説明するのって恥ずかしいことだぞ。呂律が回らなくなるかもしれないから、やめたほうがいいぞ」
 自分の部下の若手課員が説明を始めようとした途端、業務課長がそれを制し、「そうですよね?」と大先生に投げ掛ける。
 「はい、わかりやすい、なかなかいい結果が出ましたね。課長がおっしゃるように一目瞭然ですから、とくに数字についての説明はいりません」
 「はー、やっぱりだ。先生のコメントも予想したとおりだ。たしかに、よきにつけ悪しきにつけ、思ったとおりの結果になるというのは気分的に高揚しますね、部長?」
 大先生の返事に業務課長が楽しそうに部長に声を掛ける。部長が呆れたような顔をする。
 二人のやりとりを怪訝そうな顔で見ていた大先生が誰にともなく質問する。
 「市場動向に同期化していない在庫が、えーと、課長の言葉を借りれば、そうそう、ごっちゃり物流センターに置かれているという実態がわかったとして、なぜ、それがいけないことなのか、それでは、どうしたらいいのかという点では、どうお考えになりますか?」
 「はい、先生。それについては業務課長が一家言あるようですので、彼に答えてもらいます。いいね、課長?」
 大先生の質問に、今度は部長が、「わが意を得たり」といった顔で頷き、楽しそうに業務課長に振る。業務課長が、ちょっとしかめっ面をし、それでも、自信ありげに説明を始める。
 「なぜいけないかという点では、先生のお言葉を借りれば、それが売り上げと無縁のコストを発生させることになるからです」
 業務課長の言葉を聞き、部長が「ほー、そうきたか」と小さく呟く。大先生が笑みを浮かべる。それを見て、業務課長がさらに勢い込んだ様子で続ける。
 「この分析結果でも明らかなように、使うかどうかわからない在庫が事前にどっさりと物流センターに配置されていますが、もしそれらを使わなかった場合、つまり、ずっと物流センターに置かれ続けた場合、それらの輸送費やセンターのスペース費、あるいは製造原価そのものもそうですし、さらには売れ残って最後に処分や廃棄をした場合の費用など、いろいろな形でコストが発生しますが、これらはすべて『売り上げと無縁のコスト』ということになります」
 ここまで一気に話して、業務課長が一息つく。みんなが、頷きながら業務課長の顔を見る。それに気をよくした感じで、さらに楽しそうに業務課長が続ける。
 「言うまでもないことですが、コストは常に売り上げで回収するというのが企業の鉄則ですよね。大常識です。この鉄則に反したコストの発生は、回収する売り上げがないわけですから、結局利益を食うことになってしまいます。利益を食うだけのコストの発生は、企業における最大の罪です。そうは思いませんか?」
 業務課長が乗ってきた。鼻が膨らんでいる。やや興奮気味の証だ。業務課長の質問にみんなが一斉に頷く。
 「そうですよね、罪です。そんな罪深いことやってはいけません。つまり、売上と無縁のコストが発生しないように、誰かが管理すべきです。なぜいけないのかという先生のご質問については、以上が私どもの回答です。いかがでしょうか?」
 「はい、それで結構だと思います。大変わかりやすい答えでした」
 大先生の言葉に業務課長が嬉しそうに頷き、企画課長を見る。企画課長と相談した答えなのか、ちょっと小難しいが、肝心要の指摘ではある。企画課長が頷く。

ROAへの貢献も大事
 それまで総括表を見ながら、業務課長の話を聞いていた経営企画室の主任が、「ちょっとよろしいでしょうか?」と手を上げる。部長が、「おっ」という顔で、興味深そうに「どうぞ」と発言を促す。これまでもそうだが、主任の発言は会議の進行にとって有効な働きをしてきたとの思いが部長には強い。部長にとって主任の発言は大歓迎なのだ。
 「えーと、ただいまのお話しですが、大変よくわかりました。たしかに、言われてみればご指摘のとおりです。普段余り気がつかなかったというか、気にしていないことをずばりと指摘され、私にとって目からウロコという感じでした」
 こう言って、主任が業務課長を見て、頷く。
 「あれ、それだけ? 何か鋭い指摘はないの? ずばっという‥‥」
 部長が主任に発破を掛ける。主任が苦笑いをし、座り直す。何か言おうとする態勢だ。
 「えーと、私としては、こういう視点も入れたらと思います‥‥」
 「何? 遠慮なく言いなさいな」
 部長に促され、主任がつぶやくように話し出す。
 「私としては、これは前にも出ていたかとも思いますが、『ROA(Return On Asset:総資産利益率)」を悪化させているという問題もあるのはないかと、そう思います」
 「あるある」
 部長が即座に相槌を打つ。業務課長が大きく頷き、意見を述べる。
 「それはいえる。結局同じことになるかもしれないけど、いろんな視点から問題を指摘することは重要だ」
 「へー、いいこと言うね」
 業務課長の言葉に部長が茶化すような口調で感心する。主任が続ける。
 「財務諸表を見ても明らかなんですが、棚卸資産は間違いなく多いです。その回転日数を出すと、五〇日くらいになってます。資金の回収に五〇日も掛かるという実態です。棚卸資産の圧縮だけでなく、在庫を減らせば物流センターのスペースも減りますよね?」
 「減る減る」
 業務課長が即座に同意する。その軽妙な答えに主任が苦笑し、続ける。
 「つまり、ロジスティクスを導入すれば、先ほど課長がおっしゃったような愚かなコストの発生を抑えることで利益貢献ができると同時に不要な資産の圧縮も可能になるんだということを実際の数字で示すことが有効なのではないかと思いますが、いかがでしょう?」
 主任の問い掛けに部長が答える。
 「もちろん異論はない。ロジスティクスをわかっている者にとっては当たり前なことだが、社内全般にはそのあたりについての理解がない。原材料や部品、半製品の調達にまで管理を広げてそれらの在庫もこれくらい減らすことができるということも示したい。それから、無駄な生産をしないということで、生産の人員の削減も可能になるはずだ。それについても検討していこう。このあたりは生産出身のセンター長に任せるので、よろしく頼むよ」
 黙って議論の推移を見守っていた東京の物流センター長が、突然名指しされ、慌てて「わかりました。何とかやってみます」と返事をする。大先生が総括するように話し出す。
 「そうですね。これからどうするかの第一歩としては、そのような方向でいいと思います。それをすべて数字で表すことが必要なことは言うまでもないですね。ところで、これは新聞情報程度の話ですが、御社は、いま、不採算事業の撤退売却、コアとなる事業の生産の増強、それも海外生産拠点の設置などを進めていますよね? あっ、それから多角化の一環でM&Aにも取り組んでいますね。それらをロジスティクスとしてどう支援するかという視点からの検討も必要だと思います」
 「そうですね。たしかに先生のおっしゃるとおりです。その社内の検討にロジスティクスも加わるべきです。うん、たしかにそうです。経営戦略とロジスティクスということだ。これについては企画課長と、戦略はお手の物の主任に検討を頼みたいと思うけど、いいかな?」
 「はい」と二人が同時に返事をし、企画課長が嬉しそうに答える。
 「そのテーマは、私にとっても大変興味あるものです。頑張ってやらせていただきます」
 企画課長の言葉を受けて、主任が「私も同感です」と言う。業務課長が遅れを取ってはいけないといった感じで続ける。
 「そのテーマについては、おれも興味あるので参加させてほしいな。もちろん、コストを中心にした実態の解明は彼らと一緒におれがやるけど、そっちもやりたい」
 「うん、みんな前向きで結構だ。もちろん、一応担当を分けたけど、担当だけで答を出すというものではない。担当中心にみんなで議論していこうと思ってる。よろしく頼むよ」
 部長の言葉にみんなが「はい」と元気よく返事をする。こうして、ロジスティクス導入のステップが一歩進んだ。



『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第101回(2010年9月号)「メーカー物流編・第12回」

「在庫アナリストの連中は、もちろん生産量の決定に関与しています。というか、アナリストの言うとおりに生産しているんです」

 ロジスティクス先進企業として名高い某メーカーでは、出荷データの分析結果を営業部門や生産部門に提供する「在庫アナリスト」が活躍している。市場の動きと日々向き合っている物流現場には、貴重なビジネス情報が手付かずのまま眠っている。それを在庫アナリストが、利益を生む宝に変える。

■「在庫アナリスト」の登場
 まだまだ残暑が厳しい中、大先生はある雑誌の座談会に出席した。ロジスティクスをテーマにした座談会で、スピーカーにメーカー、大手卸、物流業者の部長クラスの人たちを集め、大先生が司会役を務めた。座談会が無事に終わった頃には、外はもう薄暗くなり始めていた。 会場のビルの玄関で時計を見たメーカーのロジスティクス部長が「もうこんな時間なんですね。よろしかったら、せっかくの機会ですから、そこらで軽く打ち上げなどいかがですか?」とみんなを誘った。こんなメンバーで一杯やることなどめったにないことでもあり、大先生を含め全員が賛同した。こうして、四人で近くの居酒屋に繰り出した。
 大先生の音頭で乾杯をしたあと、メーカーの部長が「座談会はあんな話でよかったんでしょうか?」と大先生に不安そうに尋ねた。物流業者の業務部長や大手食品卸のSCM担当部長も不安げに大先生の顔を見る。「いやー、なかなかおもしろかったですよ。何の心配もいりません」と大先生がこともなげに返事をする。
 物流業者の部長が「そうですか、それならよかったです」と大先生に頭を下げる。メーカーの部長もほっとしたような顔をする。その顔を見て、物流業者の部長が、興味深そうな顔で、メーカーの部長に声を掛ける。
 「部長の先ほどのお話にはびっくりしました。ほんとにロジスティクスをやってる会社があるんだ、という驚きです。大きな声では言えませんが、うちの荷主さんでそんなことやってるとこは一社もありません」
 「そんなこともないでしょうけど、あれですよ、私どもなど、まだまだロジスティクスの真似事をやってるに過ぎません。そうですよね、先生?」
 「いやー、立派なロジスティクスをやってますよ、御社は。製販調整に力を入れているのは昔からの御社の伝統ですね?」
 遠慮気味の部長の言葉に大先生が話を促すように質問する。メーカーの部長が、満更でもなさそうな顔で答える。
 「はい、ただ、かつては、やったりやらなかったりという感じでした。変な言い方をすれば、流行り廃りがあったということです。まあ、簡単に言えば、売り上げが伸びているときは、全社的に製販調整などあまり関心を持たれないという感じです」
 「そうですか、それがいまは定着しているということですか?」
 「そうですね。特にリーマンショックの後、トップの強い意向もあり、定着した感があります」
 メーカーの部長の妙に自信ありげな物言いに大先生が興味深そうな表情で続けて聞く。
 「それは部長の部隊が生産や営業という活動に深く食い込んでいるということですか?ロジ部隊がないとそれらの業務に支障を来たすくらいに‥‥」
 大先生の質問に「それほど大それたことではないですが、まあ、それに近い状況になっているといえば言えます」と遠慮気味に答える。ただ、表情は自信ありそうだ。
 それまで黙って聞いていた大手卸の担当部長が膝を乗り出すような風情で質問する。大いに興味を持ったようだ。
 「へー、すごいですね。具体的にどういう関わり方をしてるんですか?」
 「えーとですね、先ほどの座談会ではお話ししなかったんですが、実は、うちの部に製販調整室というところがあって、あっ、これについてはお話しましたが、実はそこに在庫アナリストという人間を三人置いているんです。三〇代の中堅社員です」
 「在庫アナリストですか?」
 物流業者の部長が思わず口を挟む。メーカーの部長が頷き、続ける。
 「そうです。まだ、あまり一般的ではないかもしれませんが、うちではそう名づけて、社内的に存在感をアピールしています。在庫アナリストを置いてから、もう二年になりますが、いまでは当社にとって欠かせない存在になってます」

リアルなデータは物流にある
 そこまで話してメーカーの部長がビールを空ける。大手卸の担当部長がビールを注ぎながら、「その方々がどんなことをなさっているか詳しくお聞かせ願いますか?」と話の先を促す。
 メーカーの部長が「こんな話をしてもいいんでしょうか?」と大先生に確認する。大先生の「私も非常に興味があります」という言葉を受け、部長が頷いて続ける。
 「在庫アナリストの役割はまだ一般的ではないと思いますので、うちなりの仕事という点でお話しをします。先ほど三人いると言いましたが、当社の製品は大きく三つの製品群に分けられますので、それぞれに一つの製品群を担当させているということです」
 「へー、でも、御社の場合、一つの製品群といってもかなりな製品数になると思いますが‥‥」
 大手卸の担当部長が独り言のように呟く。メーカーの部長がたしかにといった顔で頷き、続ける。
 「はい、もちろん、全製品ではなく、いまのところ売上上位二〇%程度の主力製品を主に対象にしています。これだけで売り上げの九割以上になります。彼らが何をやっているかというと、簡単に言えば、在庫管理システムで把握できる在庫データ、というよりはむしろ出荷データですね、この分析をやってるということです。主力製品の各地域別の出荷状況を営業の連中が興味を呼ぶ形に加工して、営業に情報提供しています。主力製品といえども地域によって売り上げに結構差が出るんです。その実態を数字だけでなく、彼らなりの原因分析を加えて提示しています」
 「へー、その分析というところがポイントなんでしょうね?」
 大手卸の担当部長が感心したような顔で感想を口にする。メーカーの部長が頷く。
 「そうなんです。売れている地域と売れていない地域との比較分析までやりますから、営業にとっては貴重な情報源というか、まあ助っ人ですね。ですから、うちでは毎月の定例の営業会議に彼らは主要メンバーとして参加しているくらいです」
 「そこまでやるんですか?」
 思わず大手卸の担当部長が声を出した。
 「在庫アナリストの範囲を超えているかもしれませんが、そもそもは出荷に応じた在庫を維持するというねらいから出荷分析を行っているんです。それが、実は営業にとって貴重な情報だったってことです。出荷状況を論理的に説明するんですから、それは営業に対して説得力があります」
 「となれば、営業が行う、在庫に影響を与えるイベント関係の情報などは当然というか、必然的というか、その在庫アナリストのところに入ってくるということですね?」
 また大手卸の部長が口を挟む。
 「もちろんです。今度こういう売り方をしよう、販促を掛けようという取り組みを在庫アナリストと相談しながら決めるという関係になってます」
 ここで大先生が確認するように質問する。
 「そもそも論でいうと、やはりリアルタイムで取っている出荷データの威力ということでしょうかね?」
 「はい、実はそうなんです。うちだけかもしれませんが、日々の製品別の販売データというのが存在しないんです。もちろん、売っているわけですからその実績データはありますが、それが出てくるのは何週間も後なんです。リアルな販売データは私らロジが持ってるということなんです。これを新鮮なうちに加工して提供したということがポイントです。在庫アナリストという専門職をその任にあたらせたということが成功要因だったと思います」
 「出荷データの背景を論理的に解明できる能力を持った専門職の存在ということですね?」
 大先生の言葉に物流業者の部長が独り言のように反応する。
 「なるほど、出荷データとその出荷の背景を分析するわけか。そうか、物流の現場では当たり前に存在する出荷データは実は宝だったってわけだ‥‥いままで宝だなんて誰も思わなかったものを、その原石を掘り出し磨き上げて宝にするという職人が登場したってことなんだ。そうなると、その磨き上げる技術というか、出荷データの背景を含めた分析能力が極めて重要だということですね?」
 物流業者の部長が、やや興奮気味に自分なりの整理をする。メーカーの部長が頷く。それを見て、大先生がさらに質問する。

市場と供給を同期化させる役割
 「その在庫アナリストの人たちは、もちろん生産ともかかわりを持っているわけですよね?」
 「おっしゃるとおりです。主力製品については、在庫管理システムが推奨する生産依頼数をベースに在庫アナリストの連中が営業側の動きを加えて生産必要量を決めます。出荷が伸びていないときは営業がてこ入れをしますので、欠品を出さないように、そのてこ入れ要素を在庫に加味する必要があります」
 「たしかに、出荷実績にそれを加味しないと欠品が出てしまう」
 大先生が呟く。
 「はい、うちは週次生産をしているんですが、在庫アナリストの連中は、もちろん毎週の生産計画会議にも参加して生産量の決定に関与しています。というか、アナリストの言うとおりの量を生産するということです。営業の取り組みと出荷に関するデータを基にして、なおかつ生産効率まで考えて必要生産量を提示しているわけですから、生産側から異論を挟む余地などありません」
 「なるほどー、御社で製販調整を仕切っているのは、在庫アナリストの彼らなんですね?うちもたくさんのメーカーさんの在庫を預かってますが、そういう人の存在は聞いたことがありません。でも、それはかなりおもしろそうな仕事ですね。専門職として価値の高い仕事だし、もっと広まってしかるべきですね」
 物流業者の部長の言葉に大手卸の担当部長が大きく頷き、何か決心したように呟く。
 「たしかに、そうですね。そういう専門職、うちも設置する方向で検討してみようかな。売り上げにも貢献するし、うちの場合は仕入れにも貢献するということだな。主力商品の在庫量を適正に維持できれば在庫圧縮にてきめんに効いてくるし‥‥これはたしかに価値が高い仕事だと思います」
 大先生も感心したように頷く。
 「在庫アナリストというのは、営業の動きを含む市場動向と生産や仕入を結びつける役割を担っているわけだ。いままで言葉では、市場と供給を同期化させるということが言われていたけど、それでは実際誰がどうするんだという点では曖昧だったというのが実態だと思います。その意味では、それを実践する専門職という存在はロジスティクスの進展にとって興味深いですね。ロジスティッシャンという言葉があるけど、役割的には、御社で言う在庫アナリストを指すと言えますね?」
 「そんな立派なものかどうかわかりませんが、たしかに、うちの場合、在庫アナリストを置いて、彼らが活動を始めてから社内的にロジスティクスへの理解が深まったように思います」
 「なるほど、定着したというのはそういう意味なんですね‥‥」
 最初に、定着の意味を問い掛けた大先生が納得したように呟く。

3PLへの期待
 「いやー、今日はおもしろい話を聞きました。改めて乾杯しましょうか?」
 そう言って物流業者の部長がグラスを掲げる。それにみんなが合わせる。突然、大先生が物流業者の部長に質問する。
 「ところで、御社は3PLとか標榜してるんでしょ?」
 大先生の突然の質問に部長がぎくっとした顔をし、小さく頷く。それを見て、大先生が続ける。
 「3PLをやろうというなら、いまの話をただおもしろいで済ませてもらっては困るな。ねっ?」
 突然、大先生に同意を求められ、大手卸の担当部長がつい頷き、「御社もメーカーのロジスティクス支援を積極的に展開したらいいじゃないですか? 3PLとして在庫管理システムを提供し、そのデータをベースに在庫アナリストを育てたらどうですかって売り込むのもおもしろいかもしれませんよ」と大先生の意を汲むような発言をする。
 「はぁー、そうですね。荷主の物流を代行するというのが3PLの本来的な役割だと思いますから、その方向性もありですね‥‥そうだな、在庫アナリストというのをキーワードに3PLを考え直してみます。はい、おっしゃるように、おもしろいだけではもったいないお話でした。ありがとうございました」
そう言って、三人に深々と頭を下げる。その仕草がおかしいと三人がどっと笑った。まだまだ楽しい話が続きそうだ。   (続く)


『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第100回(2010年8月号)「メーカー物流編・第11回」

「その壁を乗り越えることができるかどうかによって、物流に留まるかロジスティクスにまで展開できるかが分かれるってことなんだ」

■物流の道はロジスティクスに至る
 じりじりとからだが焦がされるような日々が続いている。このところ、大先生は毎日「夏ってこんな暑かったかな」と誰にともなく呟いている。今年は特に暑さが堪えているようだ。
 この暑い中、弟子たちはコンサル先であるメーカーにデータ分析の指導に出掛けている。業務課と企画課の若手課員がデータ分析を手掛けるというので作業場に衣替えをした会議室でパソコンを前に直接指導をしているのだ。ときどき業務課長が顔を出し、「どんな按配?進んでる?」などと声を掛けたり、物流部長が飲み物やお菓子類を差し入れたりしている。結構楽しくやっているようだ。
 大先生事務所は女史と二人で静まり返っていたが、そこに突然来客があった。元業界誌の記者で、いまはフリーライターをしているそうだ。大先生との付き合いは長い。大先生より二回りほど年下であるが、年の差を超えた親しい付き合いが続いている。大先生が嬉しそうな顔をする。
 「いやー、先生、お久しぶりです。やっぱり事務所におられましたね? 暑いので、きっと事務所に篭っておられるに違いないと思ってお訪ねしました」
 「そう、冬篭りならぬ夏篭りさ。ところで、おたくは元気そうだね?」
 「はい、おかげさまで。何とか生きてます」
 「それはいい。おれは、いまのところ死んでる」
 「ありゃ、それでは、いま、お仕事は開店休業ですか?」
 「おれは休業だけど、弟子たち二人は開店してる。今日は、コンサル先に出掛けて行って、留守だ」
 「そうですか。お二人にもお会いしたかったのですが、それは残念です。ところで、いまは、どんなコンサルをなさってるんですか?」
 「ずばりロジスティクス導入支援‥‥」
 「お相手はメーカーさんですか?」
 「そう、中堅のメーカー」
 元記者氏が頷きながら、何か言おうとしたときに、女史が冷たい麦茶を持ってきた。「ありがとうございます」と女史に言葉をかけ、美味しそうに麦茶を飲む。一息ついたという感じで話を続ける。
 「でも、あれですね、私も仕事柄、いろんな企業を回ってますが、ロジスティクスという点ではまだまだという印象を受けてます。そもそも物流とロジスティクスの違いがわからないという企業も少なくないように思います」
 大先生が苦笑しながら頷き、麦茶に口をつける。

■物流部長の意気込みが出発点
 「うん、そうかもしれないけど、実務的には、物流をやってる人間が次の一歩を踏み出すかどうかが分かれ道ってとこじゃないかな。物流の無駄、というかより正確に言えば、物流が抱える不合理さをなくしたいと突き詰めていけば、必ずロジスティクスに至る。つまり、物流としてやるべきことを徹底してやれば必然的にロジスティクスの世界に入る」
 「なるほど、物流管理の延長線上にロジスティクスはあるってことですね。ただ、その延長線上には、その大きさは各社によって違うでしょうが、いずれにしろ何らかの壁が立ちふさがっているということですね?」
 「まあ、そうだな。いわゆる物流部の範囲内では済まないという意味で、そこに壁は存在する」
 「つまり、生産とか営業など他の部門と必然的にかかわってくるということですね。その壁を乗り越えることができるかどうかによって、物流に留まるかロジスティクスにまで展開できるかが分かれるってことなんだ。そうなると、やっぱり物流部長の意気込みがロジスティクスの出発点になるわけか‥‥一部門の長が頑張らないとだめだということは、やっぱり企業の中にロジスティクス・マインドがないせいだな」
 元記者氏が独り言のように呟いている。そして、思いついたように大先生に妙な質問を発した。
 「やっぱりロジスティクス・マインドがないのは、軍隊の有無と関係するんでしょうか? 日本の自衛隊は国外に出て戦うということがないですよね。アメリカの軍隊は海外で実際に軍事展開をしてますでしょ。当然、現実的に軍事物資の補給などロジスティクスが存在します。それらを国民が目の当たりにするかどうかでロジスティクス・マインドに差が出てくるのではと思ってるんですが‥‥どうでしょう?」
 さすがの大先生も妙な仮説の提示に答が曖昧になる。
 「うん、まあ、そうとも言えるかもしれないな。だからって、自衛隊も海外に出ろなんて言うんじゃないだろうね?」
 「とんでもない。そんな本末転倒なことは言いませんが、軍事のロジスティクスの存在が企業の管理マインドに与える影響はあるように思うんですが、どうでしょうか?」
 大先生が「あるかもしれないけど、実証はできないな」と小さく頷く。大先生の顔を見て、元記者氏が話を切り替える。
 「あれですよね、軍事の場合は、いわゆる欠品は許されませんよね。ですから、常に物資の不足状況を把握して事前手配をしています。同時に、米軍なんかにその傾向が顕著なんですが、無駄は徹底して省くということで、まさに必要なところに必要なものを補給するというJITみたいなことをやってます。そのために前線の物資の状況を軍事衛星でリアルタイムに捉えていますよね‥‥」
 「へー、詳しいね。軍事のロジスティクスに」
 「はい、実は、ひょんなことで興味を持ちまして、いろいろ調べたんです。暇なものですから‥‥」
 「そこで、そういう軍事のロジスティクスが存在する国と存在しない国とでは企業内のロジスティクス的感覚に違いが出ると思ったわけだ?」
 「はい、まあ、ただそれだけの話です。残念ながら、その先の発展性はない話です」
 「うん、そうだけど、そういう話はロジスティクスの理解には有効だ。生死がかかっている前線にいかに的確に必要物資を届けるかという仕組み、体制は企業の人も興味を持つと思う。まあ、戦争なので話し方に注意を要するけどな‥‥」
 「はい、わかってます。人に言うときは注意して話しますが、私は、前線への物資補給という必死な取り組みは研究する価値があるように思いますので、ちょっと続けてやってみようと思ってます」
 「うん、そうするといい。研究成果をまとめて何らかの形で発表するといいな。物流学会なんかいいんじゃない」
 元記者氏が、「えっ」と仰け反りながら、また何か思い出したように大先生に質問する。
 「そう言えば、この前、ある会社の物流部に行ったときなんですが、そこの部長が先生のご本を読んだと言って、そこに書かれていることで何か妙に納得したところがあったようなんです」
 「ふーん、何に納得したって?」
 大先生が興味深そうな顔で聞く。元記者氏が思わせ振りに「それがですねー」ともったいつけるように言う。
 「日本の物流における最大の悲劇は、物流部に物流センターというおもちゃを与えたことだっていう先生のご指摘にいたく納得したって言うんです」
 「えっ、おれは、そんな過激な発言をした覚えはないよ」
 「はい、わかりやすく、先生の思いを私なりに翻訳しました」

■ロジスティクスと無縁の会社とは?
 「それは意訳し過ぎだ。おれは過去を振り返って、あるとき物流センターが登場したことで、その管理が物流部の主要な役割になってしまい、本来物流部としてやるべき『物の流れ』のコントロールがなおざりにされてしまったのでは、と苦言を呈しただけ。まあ、この話は、さっきの軍事のロジスティクス以上に発展性がないことではある」
 「いや、発展性があるかどうかは何とも言えませんが、話としてはおもしろいご指摘ですよ。その話をした物流部の人も『たしかに、よくよく考えてみれば、うちも物流センターの管理とトラック業者の運賃管理に限ったことしかやってこなかった。そこに逃げ込んだわけではないけど、物の流れのあり方は横に置いてきてしまった』と正直な告白をしていましたよ」
 「うん、そういうところが少なくないというのはたしかだな」
 「そうですよね。いえね、私が思うのは、そういう物流の活動にどっぷり浸かって、それで物流管理をしていると思ってるようでは、物流の不合理さをなくすというところに思いを致すこと自体、ありえないように思ったんです。つまり、ロジスティクスとは無縁の会社ということです」
 「うん、たしかに、その指摘は当たってる。物流が抱える不合理さに悔しい思いをしたり、歯噛みしたりしないような物流部だと、ロジスティクスに展開するということはないと言っていいな。残念だけど‥‥」
 「やっぱり、そうなると、物流部の姿勢というかスタンスというか、毅然さというか、うまく言えませんけど、なんかロジスティクスはそういうものと隣り合わせの存在って感じがしますね。うん、そう考えると、何かおもしろいな」
 元記者氏が一人で盛り上がっている。大先生が興味なさそうに元記者氏の顔をぼんやりと見ている。大先生に見つめられ、元記者氏が照れ臭そうに続ける。
 「ところで、いまコンサルされている会社は、その意味では、何がきっかけでロジスティクスに取り組むことになったんですか?」
 突然話題を変えられ、大先生が一瞬答えに詰まる。この元記者氏には大先生も油断しているようだ。
 「うーん、物流部長が投げたロジスティクスのボールを役員が受け止めたってとこかな」
 「へー、いいパターンですね」
 「そうね、まあ、きっかけはいいけど、まだ壁は乗り越えていない。いま他部門への展開の準備をしているところだ。展開の柱は、企業活動を市場の動きに合わせるというコンセプト。このコンセプトに異を唱える部門はないだろうな。企業にとって当たり前なことだから‥‥」
 「なるほど、結局当たり前なことを当たり前にやろうということなんですよね。でも、実際はそれが難しいとよく聞きますが、それは何ででしょうか?」
 大先生が頷いて、答える。大先生はいまはやりとりに集中しているようだ。
 「当たり前なことなんだけど、それをやることで関係する部門の利益を損じたり、既得権益を侵すようなことになると、それらの部門は抵抗勢力になってしまう。そこで、ロジスティクスをやるために、たとえば部門の評価基準を変えたりということも必要になる。まあ、これまでなかった概念を取り入れるわけだから、そんなに簡単なことではない」
 元記者氏が大きく頷いて、続ける。
 「評価基準を変えるということは、否応なしに、これまでの部門別管理の破壊につながってしまうわけですね。たしかに大変な取り組みだな‥‥」
 「うん、ロジスティクスは部門と部門の間に埋もれている無駄を排除しようということだから、すべてとは言わないけど、部分的に部門別の壁を破壊することになる。大変といえば大変だけど、これまでのやり方が大きな無駄を生んでいることはたしかなんだから、それはもうやらないとだめだ。大変だなんて言ってられない。無駄を内包し続けてもいいというなら別だけど」
 「そうですね。その意味では、物流部はどんどんトップにロジスティクス導入の進言をすべしってことですね」
 「そういうこと。おたくも、知り合いの物流部長にどんどん発破を掛けて回ることが立場上の使命じゃないかな」
 「はい、できるだけそうします。先生のコンサルを受けるといいですよとも言っておきます」
 「へー、うちの営業もやってくれるわけ。それはすごい。それでは、前お礼ってことで、一席設けよう。時間はある?」
 「はい、遠慮なく、ごちになります」
 そう言って、元記者氏が元気に立ち上がった。ちょうどそのとき、弟子たちからいまから戻るという電話が入った。大先生と二人よりはずっといいと思ったのか、元記者氏の強い希望で弟子たちも含めた飲み会になった。


『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第99回(2010年7月号)「メーカー物流編・第10回」

「ここで運んでいるのは在庫だ。それも出荷動向と無縁の在庫が運ばれている。当然、運ぶ必要のないものまで運んでいる」 

井の中の蛙でした
 ロジスティクス会議の後、物流部長が大先生一行を食事に誘った。部長のほかに経営企画室の主任と企画、業務の両課長が同行した。
 「ありがとうございました。長時間、お疲れ様でした」
 部長の音頭で乾杯が行われ、宴会が始まった。業務課長が豪快に生ビールを流し込む。その飲みっぷりのよさに酒に弱い大先生が驚いたような顔をする。
 「なかなか小気味のいい飲みっぷりですね。部内では、やっぱり業務課長が一番酒に強いんですか?」
 大先生に問われて、部長が首を振る。
 「いや、酒が強いっていったら、やっぱり企画課長に敵う者はいないと思います」
 「何をおっしゃってるんですか、酒といえば、部長の右に出るものは全社を見渡してもいないでしょう。そうだよな?」
 強いと名指しされた企画課長が業務課長や主任に確認する。二人が同時に頷く。
 「要するに、結論は、三人とも強いってことですね」
 大先生の言葉に主任が「そういうことです」と言って、大きく頷く。「ちなみに、私は、お酒はからっきしだめです。飲んでるのを見ているだけで、酔いが回りそうです」と主任が付け足す。
 「われわれと違って、酒はだめだけど仕事には強い‥‥そこが主任のいいとこだな」
 「そうそう、そこが主任の主任たるところ。もっとも、おれは、主任とはこの仕事で初対面なんだけどね‥‥」
 部長の言葉に業務課長がいい加減な相槌を打つ。それを聞いて、主任が大先生に言う。
 「あら、こちらはもう酔っ払ってしまったようです。酔っ払いは放っておきましょう。それにしても、先生、今日の会議は私にとって大変有意義なものになりました。ありがとうございます」
 「いろんなやり取りがあったけど、どんな点に興味を持ちました?」
  「ちょっと妙な言い方をさせてもらいますと、企業における在庫の位置づけについての変遷が企業のビジネスモデルの変遷を物語っているという点です。ちょっとオーバーですが‥‥」
 この主任の言葉に美人弟子が反応した。会議中は、クライアント側の自主的なやり取りを優先させるということで、敢えて弟子たちは徹底した聞き役に回っていたが、この場ではそういう配慮は必要ない。
 「そうですね、在庫はあって当たり前、どうせそのうち売れるんだから、多くあっても気にしない、持っていればいいじゃないかという感覚が社内常識の場合は、売り方にしても作り方、仕入れ方にしても在庫を一切気にしない、つまり自分たちの都合だけを優先させた仕事の仕方になりますね」
 主任が、美人弟子の顔を見て、頷き、自分の意見を述べる。
 「そうなんです。まさに、うちの現状がそんな状態です。先ほどの会議でも話が出ましたように、日常的に、誰も在庫を気にしないというのが実情です。無管理状態ですから、生産と販売の結果として存在しているだけです。なんか、ひどいと思いません? うちなんかでも数百億規模の在庫ですよ。それが管理されていなくって、おそらく不良資産として多額の損失を抱えているかもしれないんです。やっぱりおかしいですよ」 主任が憤懣やるかたないという顔をする。話しているうちに腹が立ったようだ。それを見て、業務課長が口を挟む。
 「そういう風に怒るのはあんただけだよ。いや、そういう風に怒れるのはと言った方が正確かな。ここにいる部長やおれたちは、そういう在庫実態の片棒を担いでいた口だからな‥‥」
 それを聞いて、部長がジョッキを片手に大きく頷く。淡々とした顔でジョッキを次々に空けている。
 「なるほど片棒を担ぐか、たしかに、それは言えてる。おれなんか営業として、在庫はいつでも自由に使える、なんというか、そう空気みたいに存在を意識しないものだと認識してきたからな」
 「存在を意識しないですか、それはまずい。あんまりだ」
 業務課長がわざとらしく苦言を呈する。体力弟子がそんな業務課長を見て、確認するように聞く。
 「片棒を担ぐとは言っても、物流センターでは、在庫が多いことに腹を立てていたんですよね? 業務課長は在庫を減らすように進言などもしてたと聞いていますが‥‥」
 「進言などという立派なことではなく、在庫がセンター内作業の邪魔をしていたので、腹を立てて、文句を言ったりはしてましたけど、言いっ放しでしたね。それに、井の中の蛙的なところがあったことは否めません。正直なところ‥‥」
 業務課長の言葉にみんなが興味深そうな顔をして、業務課長の次の言葉を待つ。ただ、業務課長は黙ったままだ。痺れを切らしたように、部長が早口で、確認するようにずばりと聞く。
 「そのさー、井の中の蛙ってどういうこと? ロジスティクスという大海を知らないで、ただ喚いていた蛙ってこと?」
 部長の言葉に、業務課長が呆れたような声を出す。

■ロジスティクスへの期待
 「なんとまあ、部長は本当に酒癖が悪いね。そんな本音をずばり突いたような解説はしないでいいんだよ。まったく。せっかく、おれの気持ちを意味深に、かっこよく言ったつもりだったのに」
 業務課長が口を尖らす。体力弟子が、率直な感想を口にする。
 「素晴らしく高度なお話ですね。お二人のやり取りは‥‥」
 体力弟子の誉め言葉に部長と業務課長が照れたように「いやいや、お恥ずかしい」としきりに大先生を見る。
 「それにしても、課長たちがお選びになった若手のお二人も前向きに頑張っていますね。さすが、いい人選をなさったと思います」
 美人弟子が話題を変える。業務課長が複雑そうな顔で答える。
 「いい人選というか、一番暇なやつを選んだだけなんです。でも、たしかに前向きだな。見直しました、あいつのこと」
 「うん、私も同じです。しかし、うちの彼女があんなこと調べてるとは正直思わなかった。先輩に経済記者がいるなんて初耳でした」
 企画課長も嬉しそうな顔で部長を見る。部長が頷いて、業務課長を指差す。業務課長が警戒するように身を引く。
 「たしかに、あの若手連中は評価できる。上司の教育が行き届いているってことだな」
 「また、そういう心にもないことを言うんだから。うちの部長にも困ったものだ」
 業務課長の言葉に部長が「いやいや」と手を振る。
 「心にもないことなんか、おれは言わないよ。本気でそう思ってる。ただ、それにしても、おれが一番感心したのはあんただよ。業務課長がこんなに前向きに積極的に取り組んでくれるとは正直意外だった。おれは、あんたを見直した。そう思わない?」
 部長が企画課長に同意を求める。何か言おうとする業務課長を制して企画課長が思い切ったように頷き、話し始める。
 「こう見えて、業務課長は結構勉強家なんです。人前では、そんな素振りを一切見せませんが、人の見てないところでは、結構勉強しているに違いありません。今回テーマになったロジスティクスについては、ずっと前から勉強していたはずです。前部長とのやり取りの中にも、ロジスティクス的な発想が垣間見えましたから。きっと先生のご本なども読んだんだと思います」
 ここまで話して、企画課長が一息入れる。すかさず、業務課長が喚く。
 「おいおい、あんた何を言い出すんだ。勝手なこと言わないでよ。おれは勉強家なんかじゃないし、ロジスティクスなんか初めて知ったんだ。さっき部長が言ったように、大海を始めて知ったってことさ」
 企画課長がにこにこしながら業務課長の言葉を聞いている。部長が興味深そうに、二人を見ている。企画課長が続ける。
 「まあ、それならそれでいいけど、でも、ここが重要なポイントなんですが、私が思うに、業務課長は、ロジスティクスが導入されることで物流業務への言われなきしわ寄せが徹底して省かれると直感したんじゃないでしょうか。このプロジェクトへの業務課長の積極さはそこにあると思いますが‥‥どう?」
 企画課長に問われて、業務課長がしぶしぶ頷く。
 「そこまで言われて、いまさらとぼけるのもなんだから正直に言うと、企画課長の見方は、まあ当たってる。おれは、長年物流をやってきて、あんたの言葉を借りれば、そのー、言われなき無駄の押し付けってやつに泣かされ続けてきた」

■ロジスティクスが物流をスリム化する
 最後の言葉を聞き、みんなが「えっ」という顔をする。
 「まあまあ、実際に泣きはしないけど、腹の中で泣いてたことはたしかさ。それを上にぶつけても、おれの上司だったセンター長や業務課長は、物流ってのはそういうものだから仕方ないさって諦めてたな。おれは諦めきれずに、営業や生産の連中に文句を言ったり、部長に発破を掛けたりしたけど、事態は一向に改善しなかった。そこに、このロジスティクスの話だ。これはいいと思ったけど、これまで期待外れになることは何度も経験しているので疑心暗鬼で見ていたってのが正直なところ‥‥」
 業務課長が部長を見て、にたっと笑う。部長が「さもありなん」と頷く。
 「ただ、先生はじめ部長や主任など、このプロジェクトの陣容を見て、そして、常務の思いを聞いて、おれはこれに掛けてみようと思った。ロジスティクスが動き出せば、物流に押し付けられた言われなき無駄はなくなるはずだから、やる価値はあるってことだ」
 「なるほど、業務課長の思いはそこにあったか‥‥ようやく納得できた」
 部長がそう言って、業務課長にグラスを捧げる。いつの間にか部長は焼酎になっている。業務課長が、照れ臭そうな顔でそれを受ける。
 「物流への言われなき無駄というのは、やっぱりすべて在庫がらみですか?」
 主任が烏龍茶を片手に、確認するように聞く。企画課長が答える。
 「そうだな、正確に言うと、工場から物流センターへの輸送、知ってのように、ここで運んでいるのは在庫だ。それも出荷動向と無縁の在庫が運ばれている。当然、運ぶ必要のないものまで運んでいる。もちろん、うちの状況では物流では関与できないところだ。その結果、センター内で在庫が膨れ上がる。センターの規模は大きくなる。動きもしない在庫を保管しておくんだからバカな話さ。それに在庫が多いと作業の邪魔をする。在庫が作業効率を落とす。これらが全部物流コストに跳ね返る。そして、最悪なのは、物流コストは物流活動のコストだから、物流活動を行っている物流部の責任だという誤った社内常識が横行しているってこと。うーん、こういうように話してると、ほんと腹が立ってくるな」
 企画課長が一気に話す。いつも冷静な企画課長にしてはめずらしく怒りをあらわにする。主任が「まあまあ」というように手を上げる。
 「なるほど、それに物流サービスが加わるんですね。センター内作業はサービスに振り回されているってことですね?」
 二人の課長が頷く。ただ、何も言わず、黙って酒を口に運んでいる。その様子をみて、主任が「ふー」とため息をつく。美人弟子がそんな主任に話しかける。
 「いままでは、どの在庫をどれだけ動かすか、どんなサービスを提供するかということについて責任を持って意思決定するということがなされずにきた、とにかく在庫を切らすな、お客の言うとおりに運べという無責任な状態が続いてきたということです。物流というのは、その結果として発生する活動の遂行に責任を持たされてきたわけです。無責任な意思決定をすれば、当然、無責任な無駄が生まれます。多くの物流部門は、それに悩まされてきたということです」
 「なるほど、ロジスティクスというのは、供給活動においてこれまで責任の所在が不明だったところすべてを取り込んで責任を持つということですね。そして、ロジスティクスが物流をスリム化する。なるほど、ようやっとロジスティクスの全貌が見えてきました。私も頑張ります‥‥といっても、ほとんど役に立たないでしょうけど」
 主任が意気込みを示す。
 「とんでもない。主任はそこにいるだけで役に立ってるよ」
 業務課長がわけのわからないことを言う。
 「やれやれ、本当に酔っ払ったようですね」
 主任が呆れたような声を出す。

『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第98回(2010年6月号)「メーカー物流編・第9回」

「そういう業績好調な企業に共通するのは、実は在庫に対する執念とも言える取り組みが存在するってことなんです」

在庫に関心がないのはむしろ好ましい
 「在庫に関心がないというなら、それはそれでむしろ好ましいと言っていいんじゃないですか‥‥」
 ロジスティクス導入会議の場で、物流部の企画課長が「うちの役員たちの多くはもともと在庫に関心がないので、在庫に目を向けさせるのは大変だ」と発言し、会議のメンバーの多くが溜息混じりにその言葉に同意する様子を見て、大先生がみんなを元気付けるように言う。大先生の言葉に物流部長が頷き、同意を示す。
 「そう思います。別に、担当役員たちはもちろん、生産や営業の連中に在庫を管理してくれと頼むわけじゃなくて、新たに在庫を管理する担当部署を設けようというわけだから、生産や営業側に在庫についてこだわりがないのはむしろいいことなんじゃないかな。まさか在庫で越権行為などといちゃもんをつけられることはないだろう?」
 部長にそう問われて、企画課長が頷く。
 「はい、そういうことはないでしょう。むしろ在庫についての心配から解放されることは彼らにとって大いなる喜びだと思います。ただ、その代わり、在庫に関するルールを守ってもらわねばならないわけで、みんなそう思ってるでしょうけど、こっちの方が結構大変ですよね」
 企画課長が誰にともなく言う。それを受けて、業務課長がすぐに自分の考えを述べる。
 「たしかにそうだけど、うちの連中は、上でルールが決められて、上からそれを守れという指示が出されれば忠実に守るという風土があるから、トップを巻き込んでルールを決めて、トップダウンでそのルールを下ろしていけば、それほど抵抗はないんじゃないかな。どう思う?」
 業務課長が経営企画室の主任に振る。突然振られて、主任が「はぁー、たしかに」と中途半端に答える。そんな中途半端な答じゃまずいと思ったのか、主任がみんなの顔を見ながら質問する。
 「以前にもそんな話が出たように記憶してますけど、そうなると、そういうルールを作る重要性というか、ロジスティクスの重要性といってもいいんですが、それをどうトップに提示するかってことがポイントになりますよね?」
 主任の言葉に反応して企画課の女性課員が身を乗り出して手を上げる。それを見て、部長が右手で促す。女性課員が頷いて話し始める。
 「最近いろいろ調べたんですけど‥‥その中で感じたんですけど、ロジスティクスの重要性の理解って言いますが、そんなことはトップならとっくにわかってるはずだと思います。一歩譲ったとしても、すぐに理解してくれると思います。むしろ、その先の具体的にどうすればいいのかという当社に合った取り組み策の提案をすることが重要だと思います。そういう提案こそがきっと興味を呼ぶんじゃないでしょうか。そのとき、その取り組みの効果を明確に示せば、それだけでロジスティクスについての理解は得られるはずです」
 「へー、調べたって、一体何を調べたんですか?」
 女性課員の言葉に興味深そうな顔で主任が聞く。女性課員が、話をしてもいいかと了解を求めるように物流部長の顔を見る。部長が「おれも聞きたい」と促す。

とても当たり前なこと
 「調べたといっても、新聞や本で知った程度です。あ、どうしても確認したいって思ったことについては奥の手を使いました」
 女性課員の言葉に業務課の若手課員が手を上げて「奥の手って何?」と聞く。女性課員がにこっとして答える。
 「大学のゼミの先輩に経済関係の雑誌の記者がいるんです。彼に取材を頼みました」
 女性課員の言葉にみんなが「へー」と感心したような顔をする。「それで」と業務課長が興味深そうに先を促す。頷いて女性課員が続ける。
 「最近、この不況でも最高益をあげたとか、不況などものともせず増益を続けているっていう会社がありますよね。そういう会社に共通する成功要因みたいなものがあると思うんです。もちろん、一つだけじゃなく、いくつかあると思うんですが、私はある一つの要因に絞り込んで調べたんです。その要因って何だと思います?」
 女性課員が思わせ振りに誰にともなく聞く。唐突な質問に誰も答えない。そのとき、女性課員が大胆にも大先生を見た。女性課員の視線を受け、大先生がにこっとして頷き、楽しそうに思った答を口にする。
 「えーと、在庫かな? より正確に言えば、在庫とビジネスモデルの関係を調べた?」
 「えっ、どうしてわかるんですか?」
 「どうしてって、これまでの流れからすれば、在庫しかないさ。それに、そういった会社では徹底して無駄な在庫を生まない取り組みをしていることは知られている。在庫を軸にビジネスモデルを作っているといっていい。その点は大したもんだと私も思う」
 大先生の言葉に女性課員が大きく頷く。
 「そうなんです。私もそれを知って感激しました。でも、私はすごい発見をしたと思ってたんですが、それって、よく知られていることなんですか?」
 「いや、そういう会社についての紹介記事の中に在庫の話も出てきてるけど、在庫にフォーカスして企業活動の特徴を捉えるという見方は現実には少ないんじゃないかな。その意味では、あなたの持った視点は大変いいと思いますよ」
 大先生に誉められ、女性課員が嬉しそうな顔をして、椅子の背もたれに寄っかかる。そんな女性課員に業務課長が「それで話は?」とまた促す。
 そう言えば自分の言いたいことをまだ話してなかったと気がついた女性課員が慌てて「済みません。それでですね‥‥」と話し始める。
 「いま先生からもお話があったんですが、そういう業績好調な企業に共通するのは、実は在庫に対する執念とも言える取り組みが存在するってことなんです。絶対に売れ残りを出さない、つまり、在庫を残さないような売り方をするし、さらに言えば、そういう考えを作り方や仕入れ方でも徹底しているということなんです」
 「在庫を軸に、つまり、在庫は残さない、売り逃しもしない、そのために営業や生産や仕入はどうすればいいかってことを考えてるってことですか?」
 経営企画室の主任が興味津々といった顔で確認する。女性課員が大きく頷く。
 「そうなんです。考えているというより日常的に当たり前なこととして実践しているってことです。特別なことではなく、ごく日常のこととしてやってるんです。結果として在庫が残ってしまって、『さあ、どうしよう』なんて意味のない議論をするところとは大きな違いですよね?」
 「うちみたいにか?」
 業務課長が意味深な顔で問い掛ける。女性課員が嬉しそうに頷く。
 「はい。だからといって、うちが遅れているわけでもないと思うんです。その、なんて言うか、在庫を過不足なく維持するということを柱にビジネスのあり方を考えるという取り組みは、一般的に言っても、やっぱり進んでますよね」
 女性課員の言葉に業務課長が「そう思う。もちろん間違いなくうちより進んでいる」と断定する。主任が頷きながら、質問する。
 「そういうことって、そういう会社では、当たり前に行われているってとこがすごいですね? 当たり前なことなんですよね、うーん。あっ、済みません、変なこと言って」
 女性課員が首を振る。
 「変なことじゃないと思います。そうなんです、当たり前のことなんです。だから、全社的な視点を持っているトップの人たちなら、直感的にわかると思うんです。ですから、在庫やロジスティクスの重要性を提示するというところに力を入れるんじゃなくて、うちの増益のためのビジネスモデルという形で提示すればいいのではと思った次第です」
 女性課員の話を受けて、物流部長が「なかなかいい意見だ」と誉める。企画課長が頷き、続ける。
 「たしかに、在庫を軸にしたビジネスモデルの構築というスタンスはいいですね。在庫を減らそうとか在庫の責任はどうだとかいう視点よりも少なくともトップには受けるような気がします。各部署のやることも明確になるし、やるべきことをきちっとやる責任も明らかになります。それが在庫責任に通じるんではないでしょうか」

■問題は複雑にせずシンプルに
 企画課長の言葉に部長が頷き、手を上げて会議を収束させるような仕草をする。そして、隣の大先生に小声で話し掛ける。大先生が頷くのを確認して、部長がみんなの方に向き直り、声を掛ける。
 「お疲れ様でした。活発な議論をいただき感謝します。みんながこのテーマに真剣に向き合っていることを改めて確認できました。責任者である私にとっては大変心強く、嬉しいことでした」
 そう言って、部長が頭を下げた。それを見て、部員たちが慌てて頭を下げる。業務課長が「どうしたんですか、部長らしくない」と照れ隠しのように声を掛ける。大先生が部長の心情を代弁する。
 「部長は、このプロジェクトについて、メンバー間で、理解や思いを共有したり仲間意識を醸成できるかどうかという点を大変重視していたと思いますよ。メンバー間で共有できないものを全社に広げようとしても、それは無理ってものですから。今日の会議で、そのあたりについて手応えを感じたってことでしょう。私も、大変有意義な議論だったって思いました」
 大先生の言葉にさすがの業務課長も合点するところがあるようで、それ以上茶化すことはせず神妙な顔で頷いている。部長が大先生に頭を下げ、続ける。
 「さきほど話が出たように、われわれは当たり前のことをやろうとしてるだけなんです。ちょっとそれらしく言えば、市場との不適合な活動に起因する無駄を排除しようとしているだけってことです。各部門の個別最適が企業としての全体最適を阻害している状況にあるから、それを正そうってわけだ。なぜ、こんなことを強調するかといえば、このプロジェクトはシンプルに進めたいってことなんです。うちの各部門の実情に足を掬われて、問題を必要以上に難しくしたり、複雑にしたりしないよう気をつけてくれってことです。いいですね、誰が考えてもごく当たり前な企業活動をやろうとしているだけなんだから、それを原点に何でもシンプルに考え、対応していきたいと思います」
 部長の言葉に企画課長と主任が同時に手を上げた。主任が年上である企画課長に「どうぞ」と譲る。
 「いやー、いいお話です。そこんとこは、たしかに重要だと思います。社内のどろどろした非論理の実態に足を掬われないように常に意識して注意することは非常に重要なポイントですね。私は、いまのお話にまったく同感です」
 「私も同じ意見です。これまでにも何度か新しいことをやろうとして失敗している事案を立場上いくつか見ています。その原因は明らかです。いまやってることを是正しようなどと考えるのが敗因です。是正するんじゃなくて、いまやってることを否定することから始めなければだめです。それができなければ新しいやり方など入り込む余地などありません。その意味でも、ただいまの部長のご指示は的を射たものだと思います」
 企画課長に続いて主任が賛同の意見を述べる。業務課長が「おれもまったく同感だ」と相槌を打つ。物流センター長や若手課員たちも「そうそう」「勝手なことはさせない」などと声を出す。一気に盛り上がってきた。士気の高揚が感じられる。それを受けて部長が「まあまあ」と水を指す。
 「いくらロジスティクスといっても、戦争をするわけではなく、相手は社内の人間なんだから、喧嘩腰にならず穏やかに行こうよ」
 すかさず業務課長が茶々を入れる。

「何をおっしゃる部長さん。一番喧嘩早いのはあなたでしょ」
 「なんと、業務課長にそんなことを言われるとは‥‥その言葉はそっくり業務課長に返そうと思うけど、みんなはどう思う?」
 業務課長を除いた全員が「当然です」と意思表示する。業務課長がわざとらしく不機嫌な顔をする。大きな笑い声が会議室に響き渡る。こうして第一回のロジスティクス会議はお開きとなった。 (続く)

『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第97回(2010年5月号)「メーカー物流編・第8回」

「何でそんなことが罷り通るんでしょうか?やっぱり常識的にはおかしいと思うんですが・・・」 

それは社内の常識ではない
 大先生がロジスティクスの導入コンサルをしているあるメーカーの会議室。まるで大先生などそこにいないかのように、プロジェクトメンバーたちの間だけで活発な議論が展開されている。クライアントが自分たちで考え、自ら答を出すように導くのがコンサルの真髄だと言う大先生の思惑通りに進んでいる、といえばいえなくもない。
 テーマを決めて議論するという形ではなく、経営企画室の主任の疑問に適任の人が答えるというやりとりで進んでいるのが議論を活発化させている要因のようだ。
 「ちょっと気になってるんですが、生産に起因する在庫について聞いてもいいですか? プロジェクトメンバーのくせに何も知らなくて、私ばっかり質問して、済みません」
 主任がやや恐縮気味に誰にともなく言う。生産という言葉に工場出身の物流センター長が即座に反応して、主任の方に身を乗り出した。主任を見て大きく頷く。何でも来いという風情だ。センター長に身構えられて、主任がちょっと怯んだように身を引く。
 「大丈夫。取って食ったりしないから。何でもどうぞ」
 センター長の言葉に主任が頷いて、資料を手に取って話し出す。
 「えーとですね、この資料によると、滞留在庫が発生してしまう原因として生産効率とか生産調整とか、何ていうんでしょうか、つまり生産側の都合に起因するケースが多いですよね? 市場で売れている状況などとは関係なく、自分たちの都合を優先させて勝手に生産しているという印象を受けるんですが、そういう理解でいいんでしょうか?」
 ここまで一気に話し、ちょっと言い過ぎかと思ったのか、一呼吸置いて続ける。
 「さすがに、そこまで言うと、言い過ぎでしょうか?」
 「いや、簡単に言ってしまえば、そういう理解でいいと思う。言い過ぎではないよ」
 センター長が簡単に肯定する。予期はしていたが期待はしていなかった返事に、主任が、複雑な顔で独り言のように言う。
 「でも、何で、そんなことが罷り通るんでしょうか? やっぱり常識的にはおかしいと思うんですが‥‥」
 主任の何とも納得できないといった表情に、センター長は、どうきちんと説明しようか、迷っているようだ。ちょっと間を置いて、大先生が助け舟を出した。
 「いま、常識って言ったけど、要は、その常識の中身なんだよ。何を常識として認識しているかってこと。その意味で、いま主任が言った常識っていうのは、具体的に何を指している?」
 大先生に問われて、主任が戸惑った顔をする。当たり前のことで説明するまでもないのではといった顔で答える。
 「えーと、生産というのは売れているものを作ればいいんではないでしょうか? それが常識的な考えだと思うんですが‥‥」
 大先生が頷き、さらに質問する。大先生は、やりとりを楽しむ顔になっている。
 「うん、それも一つの見識だ。でも、残念ながら、それは社内の常識ではないと思う。多分、論理的に納得できる考えがすべて常識というわけではない。たとえ論理的ではないとしても、社内のみんながその方向に動くとなれば、それが常識ということになる。どう?」
 大先生の問い掛けに、主任が怪訝そうな顔でみんなの顔を見る。ところが、みんなは大先生の言葉に賛同して頷いている。 

■「安く作る」が生産の常識
 主任が、意外そうな顔で確認する。
 「売れているものを作るのが常識ではないというと、常識は何なんですか?」
 主任の問い掛けに誰も返事をしない。大先生がセンター長に「どうぞ」と返事を促す。センター長が頷いて答える。
 「私の認識では、うちの生産部門の常識は簡単です。安く作るってことです。売れているものを作るという考えは生産部門にはないと言って過言ではないと思います」
 その言葉を聞いた途端、主任が思い当たることがあるように、何度も大きく頷いた。
 「はー、なるほど。たしかに、そう言われればわかるような気がします」
 業務課長が、言葉を挟む。
 「要は、生産部門の評価基準がそうなっているのさ。評価されるわけだから、当然、誰もがその方向に進む。つまり、評価基準が社内の常識を作っているってわけだ」
 主任が頷き、大先生に向かって「そう言えば、たしかにそうです」と独り言のように言う。それを受けて、大先生が主任の顔を見て、確認する。
 「あー、そうか、たしか主任は経営企画室だったな。それなら損益計算書において利益をどう生み出すかという、御社の常識についてはよく知っているね?」
 「はい、こういう言い方で正しいかどうかわかりませんけど、これまでの話の関連で言うと、うちの場合、利益は、売り上げを上げるか、売上原価を下げるか、もちろん両方同時でもいいのですが、要はそれらにより生み出すというのが常識になっていると思います。あ、売上原価ってとこがポイントです。売上原価だけなんです。コスト削減の対象は‥‥」
 主任の言葉に大先生が応じる。
 「つまりは、売り上げから売上原価を引いた売上総利益、これは粗利とも言うけど、これを大きくすることにしか経営の関心はないってことだ。そこまで言うと言い過ぎかな?」
 主任が真面目な顔で首を振る。
 「いえ、決して言い過ぎではありません。おっしゃるとおりだと思います。うちの幹部たちはそれで成功体験を積んできていますから。販売費や管理費はほとんど固定費のように認識してきたというのがうちの実態だと思います」
 大先生が、みんなに解説するように話す。
 「うん、御社に限らず、そういう認識をしている会社が多くある。販売費や管理費は人件費の割合が高いし、社員の首を切るわけにはいかないので、ほとんど固定費として位置づけている。つまり、利益という点では関心がないということだ。ということは、さっきの粗利から販売費・管理費を控除すると営業利益になるので、結局、営業利益を大きくするためには粗利を大きくすればいいということになる。そのためには、とにかく売り上げを上げろ、売上原価を下げろという二つのテーマに絞られる。ここまでは、わかるよね?」
 大先生の確認にみんなが頷くが、企画課の女性課員が「ちょっといいですか?」と小さく手を挙げる。大先生が「どうぞ」と促す。
 「そこでおっしゃってる売上原価というのは、売り上げに相当する製造原価ということで‥‥」
 女性課員の言葉が終わらないうちに主任が口を挟む。主任の得意分野のようで、説明が詳しい。
 「そうです。たとえば、ある製品の前期末の在庫が300個あったとして、今期1200個作ったとします。そうすると、その製品は1500個になるわけですけど、今期売れたのが1000個だとすると、その1000個にかかわる製造原価が売上原価になります。売り上げからその売上原価を引くと、さっき先生がおっしゃった粗利が出ます。これを大きくしたいわけです」
 ずっと黙っていた物流部長が補足する。
 「残った500個が在庫つまり棚卸資産として貸借対照表に計上されて、来期の販売用として持ち越される。在庫は資産だから、いくらあっても誰も気にしない。どうせ、そのうち売れるんだから持っていてもどうということはないという感覚だ。つまり、在庫などどうでもよくて、最大の関心事は製造原価の低減ということだ。さて、それでは製造原価を下げるにはどうすればいい? 経営にとって、ここが一番の関心事」
 すぐに女性課員が手を上げて「大量に作ればいいってことですよね?」と元気に答える。センター長が「そう、お馴染みの単品大量生産。在庫がどかっと出る」と応じる。物流部長が苦笑交じりに言う。
 「そう、工場は固定費のウェイトが高いので、大量に作れば作るほど、製品の単価は下がってくる。つまり、単品大量生産が、最も簡単に製造原価を下げる方法だった。まあ、いまでも、多くの連中がそう思っている。製品の単価が下がれば、当然、売上総利益は大きくなる。めでたしめでたしと、まあ、こういうメカニズムだ。だよね?」
 部長が主任に振る。突然問われて、主任が慌てて答える。
 「はい、そうです。そういうことです。いまでも、そう認識している役員が多くいます」 

これまでの前提条件が崩れてきた
 何を思ったか、業務課の若手課員が部長に向かって手を挙げた。自分も参加しなければと思ったようだ。部長が頷く。
 「なるほどー。そういうことだったんですね。ようやくわかりました」
 若手課員が一人で勝手に納得している。部長が呆れたように「何がわかったって?」と大きな声を出す。若手課員が「済みません」と言いながら、納得顔で話し出す。
 「いえ、大した話じゃないかもしれません。そんなことは常識だって言われればそれまでなんですが、あれじゃないですか、うちの会社なんか典型なんですけど、社内で威張っているのは営業と生産の連中ですよね。われわれも含めて、他の部門は彼らからは下に見られていますよね。何でそうなのかっていう、その理由がやっとわかりました。営業と生産の二つの部門だけが会社の利益源だったからなんですね。なるほどー、やっとわかった」
 若手課員が一人で悦に入っている。「あのね」と上司の業務課長がたしなめる感じで割って入る。
 「それもそうだけど、会社というのは、要は、売り上げを獲得するまでの活動が重視されるのさ。新商品を開発し、それを生産し、それから広告宣伝をし、営業が売る。そして、売り上げが実現する。ここまでが会社にとって重要な活動で、それ以降の物流や集金などの活動、それから事務業務など売り上げと関係のない活動は価値のない仕事と思われてきたってのが実態だ。そんなの常識で、そんな感心するほどのこっちゃない」
 業務課長の話に女性課員が頷き、自分の疑問を口にする。
 「私たち物流の仕事は、費用区分で言うと販売費に入るんですよね。でも、さっきの話だと固定費って見られてたってことですけど、いまは物流費を下げろとか言われていますので、経営側の見方が変わってきたってことでしょうか?」
 部長が、ちょっと首を傾げながら答える。
 「うーん、正直なとこ、それほど変わってはいないな。コスト削減は全社的に言われているけど、企業の利益を生み出すのは、売り上げと売上原価だって認識は変わってないと思う」
 「となると、その社内常識がロジスティクス導入の大きな壁になると思っていい?」
 大先生がなぜか嬉しそうな顔で、部長に確認する。部長が大きく頷く。
 「はい、実は、そのような社内常識の存在が、今回のロジスティクス導入の契機になっているんです。いつまでも、そんな社内常識で利益を生み出そうなどと考えても、もはやそんなことでは利益は出なくなっているというのが常務の考えなんです。早いうちにその常識を改めないと、大変なことになるという危機感が今回のプロジェクトにつながっているということです」
 「その認識は、いまのところ常務しか持っていないというのが実態?」
 大先生の質問に部長が頷き、プロジェクトメンバーたちと情報共有するかのような感じで話す。
 「はい、いまのところ、そんな状況です。常務は、これまでの常識が拠って立つ前提が崩れてきているという認識がありますが、残念ながら、他の役員たちにはそういう認識は希薄です」
 部長の話に業務課長が「わかる、わかる」と呟き、部下の若手課員に「既存の常識が拠って立つ前提って何かわかるな?」と聞く。若手課員が、そんなこと当然知っているという顔で頷き、答えない。それを見て、代わりに主任が答える。
 「その常識は、在庫は決して不良在庫化しないという前提で成り立っているということですよね? しかし、これだけ滞留在庫が出ているということは、その前提が崩れているということですね?」
 それまでみんなのやりとりをじっと聞いていた企画課長が、ここで議論に参加した。
 「しかし、他の役員たちにそれを納得させるのはやっかいですね。もともと在庫なんかに関心はないって人ばかりですから‥‥」
 企画課長の言葉に、みんなが溜息混じりに頷く。悲観論の登場とそれへの同意は議論を滞らせる。いよいよ大先生の出番がきた。
(続く)

『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第96回(2010年4月号)「メーカー物流編・第7回」

「当然、反発はある。その反発とやりあう。そのやり合いの中から本当に意味のあるルールが浮かび上がってくる」

在庫責任って何ですか?
 大先生のコンサルを受けているメーカーの会議室でロジスティクス導入プロジェクトの会議が続いている。業務課の若手課員が作った在庫関連資料をもとに活発な議論が交わされている。
 正確に言うと、議論というよりも、資料で問題として提起された滞留在庫について、それらの在庫を生み出している生産や営業の連中の思考や行動パターンの分析に話が展開していると言った方がよい。プロジェクトメンバー自身の社内におけるこれまでの経験から蓄積された秘密めいた知識を披瀝し合っているといった風情だ。
 そんな展開のため、プロジェクトのメンバーの間で自然と妙な役割分担ができあがってしまった。物流部長と二人の課長、それに物流センター長などが社内事情に精通している先生役、二人の若手課員と経営企画室の主任が実態をあまり知らない生徒役という役割分担である。中でも、これまで物流はもちろん生産や営業の実務などまったく経験のない立場で来た経営企画室の主任が必然的に一番の聞き役になっていた。
 「あのー、ちょっとよろしいですか?」
 その主任が遠慮がちに物流部長に聞く。
 「もちろんいいよ。何でも聞いて。あんたの素朴な疑問が問題を顕在化させるのに役立っているから遠慮しないでいい」
 部長にそう言われて、主任がちょっと複雑そうな顔をするが、気を取り直すように小さく頷いて質問する。
 「先ほど、うちでは在庫責任という認識が希薄だというお話がありましたが、責任の内容が希薄なのか、責任の所在が希薄なのか、そのあたりについてもう少しご説明いただけないでしょうか?」
 部長が頷いて、業務課長と企画課長の顔を交互に見る。業務課長が「それでは、私からご進講を」などと言いながら身を乗り出す。
 「在庫責任という言葉を聞いたとき、あんたはどんな責任をイメージする?」
 突然、ご進講役の業務課長から質問され、主任が「えっ?」と仰け反る。しばらく考えてから、恐る恐るという感じで自分の考えを述べる。
 「私は、在庫についての責任といえば、在庫を一定の水準以下に抑える役割を負っていると理解しますが、どうなんでしょうか? 普通そうですよね。在庫金額に責任を負うのではないでしょうか?」
 主任の言葉に業務課長が頷き、部下の若手課員を見る。業務課長の意を汲んだのか、若手課員がすぐに違う答を提示する。
 「たしかに、そういう責任もありますが、一方で在庫を切らすな、欠品を出すなという点でも責任を追及されるように思います。うちの場合、むしろ、こちらの責任追及の方が厳しいんじゃないでしょうか?」
 業務課長が頷き、「どっちも正しい。その両方が存在するってことが重要なんだよ。どっちを欠いてもだめだ」と独り言のように呟く。それを聞いて、企画課長が卒なくまとめる。
 「簡単に言えば、在庫はお客さんの注文に応えるために存在するのだから、できるだけ欠品を出さないように持つことが求められる。ただ、余分な在庫を持てば、コスト的に大きなロスを生むので、できるだけ少なくすることも要求される。いま業務課長が言ったように、どっちも必要なことなんだよ。だから、これらを両立させることが在庫責任の本来の姿といえるんじゃないかな」
 企画課長のざっくばらんな説明に主任が頷き、感想を述べる。
 「なるほど、おっしゃるとおりだと思います。そうなると、うちの場合は、その両立ができていないってことですね? どう両立するのかが大きな課題になるように思いますが、それは横に置いておいて、その、欠品を出すなっていう責任だけが追及されるって状況は困ったもんですね。在庫がどんどん膨れてしまうんじゃないでしょうか。そういう会社が現実には多いんでしょうか?」
 それまで黙って聞いていた大先生が、ここで議論に参加した。
 「多いかと問われれば、そういう会社は多い。ただ、どんな会社でも最初はみんなそうだったって言うのが当たっている。それはなぜだと思う?」
 主任が首を捻る。大先生が二人の若手課員を見る。企画課の女性課員が思い切ったように背筋を伸ばし、ゆっくりと答える。
 「私の勝手な判断かもしれませんが、要は、在庫はあって当たり前だ、在庫は資産だ、在庫は欠品を出さないために持つものだという認識が強かったからではないでしょうか? 在庫を減らすなんて発想はまったくなかったと言ったら言い過ぎでしょうか‥‥」
 女性課員の遠慮っぽい言い方に業務課の若手課員が大きく頷き、「自分もそう思うよ」と声を掛け、自分の考えを述べる。
 「在庫は置いておけばそのうち売れるものだ、まとめて作れば製造原価が下がるじゃないか、といった考えから在庫が多くても気にならない人が多い。それに倉庫費用など高が知れてるっていう感覚がうちでも強いですよね」

■在庫責任部署の設置が第一歩
 二人の若手課員の話を聞いていて、主任が何かに気がついたような顔をして頷き、口を挟む。
 「いまのお二人の話に関連すると思うんですけど、組織的に在庫責任の所在が不明だったということが実質的に影響しているのではないんでしょうか? 在庫について好き勝手な要求をするのは、在庫に責任を負ってないからだと思います。無責任が在庫をだめにしていることは間違いないですね」
 「そうだな、実質的にはそれが大きい。責任のないところに管理がないことは明らかだからな」
 主任の問題提起に部長が同意を示す。二人のやりとりを受けて企画課長が続ける。
 「その意味では、在庫問題解決のためには、まず在庫の責任部署を組織的に明確にするということが必要になるということですね」
 「そう。それは間違いない‥‥」
 部長の言葉が終わらないうちに、業務課長が口を挟む。
 「それそれ、そうなると、誰がその責任を負うかってことだな。やっぱり生産寄りの立場じゃだめだし、営業寄りでもだめだ。中立的な立場にある部署ってことになるだろうな。簡単に言うと‥‥」
 業務課長につられて、業務課の若手課員が声を弾ませて割り込む。
 「そうなると、それはやっぱり、ロジスティクス部門ということになるんじゃないですか? そうですよね?」
 業務課長と若手課員に対して部長が「まあ、抑えて」という感じで手を振る。
 「まあまあ、そう急ぎなさんな。ここは在庫責任の所在を組織的に明確にしなければならないってことを共通認識で持つということでいいだろう」
 部長の言葉に頷きながらも、主任がねばって質問する。主任は、たしかに会議の潤滑油としての役割を果たしている。
 「具体的な責任部署の位置づけはいいとして、在庫については、その資料にもあるように、生産や営業の活動に起因するものが多いと思うんです。そうなると、在庫責任といっても、在庫責任部署だけでなく、生産や営業の人たちも何らかの形で責任にかかわるって理解していいですか?」
 主任の疑問に業務課長が先を争うように声を出す。
 「そうそう、当然そうなる。あいつらに、何と言うか在庫責任部署というのかな、その部署の手の届かないところで悪さされたら、どうにもならん。在庫責任なぞ負えるわけがない。生産や営業はこういうことはしてはいかんぞ、こういう場合はこうするんだぞといったルールをきちんと決めておく必要がある。在庫責任というのはそれを含めていうってことだ。ねえ、部長?」
 「うーん、まあ、いちいち細かいルールを作るかどうかは別として、そういうことはたしかに必要だ。そのあたりの責任をルール化するためにも、生産や営業の動きが在庫にどんな影響を与えるかという実態を把握しておくことが大切だな。その意味では、この資料は大きな意味がある」
 部長に誉められ、作成者の業務課の若手課員が嬉しそうな顔をする。その顔を見ながら、主任がさらに疑問を口にする。
 「なるほど、そういうことなんですね。この資料の意味はよくわかりました。しかし、そうなると、こんなにいっぱい在庫が溜まる原因があるんですから、ルール作りも大変ですね。何十にも及ぶルールが必要になってしまうんですか?」
 部長が「いい質問だ」というように、微笑みながら答える。
 「いいや、そんな面倒なことはしたくない。わかりやすくって単純なルールにしたいけど、どんな形にすればいいと思う?」
 「えっ、単純なルールですか? えーと、それは‥‥」
 主任がしきりに頭を振る。
 「単純なルールってことは一つのルールですべてを飲み込んでしまうってことだよ」
 大先生がちょっとしたヒントを出す。大先生の顔をぼんやりと見ながら主任が頷く。
 「ちょっと休憩しよう」と部長が助け舟を出す。

■禁止事項ばっかりのルールにしよう
 休憩後、みんなが席に戻ると、主任の顔が元気になっていた。答を見つけたらしい。
 「おっ、答が出たようだな?」
 部長の声に主任が頷く。
 「はい、簡単なルールとしてはこれしかないと思います」
 そう言って、もったいぶった風情でみんなを見る。みんな、答をじっと待っているが、主任はなかなか答えない。業務課長が痺れを切らせて催促する。
 「そんなもったいぶらずに、早く答えろちゅうの」
 主任が、そんな催促を待っていたかのように、頷いて答える。
 「はい。営業は勝手に生産に発注してはいかん。すべて在庫責任部署を通せというのが営業に対するルール。生産は在庫責任部署が指示する数字をベースに作れ。生産効率などで勝手に作るなというのが生産に対するルール。これだけです。どうでしょうか?」
 一瞬間を置いて、全員から拍手が起こった。手を叩きながら、女性課員が興味深そうに質問する。
 「どういう論理思考でそういう答えに辿りついたんですか?」
 「要は、勝手な都合を反映させないことがポイントだと思ったんです。営業や生産に対して在庫責任部署をかかわらせることで役割分担、責任分担が見えてくるのではと思って、さっきのようなルールが出てきました。そのままルールになるとは思いませんが、コンセプトは理解していただけるでしょうか?」
 「いやいや、そのルール、なかなかいいよ。そのまま使えばいいんじゃない。業務課長はどう思う?」
 突然の部長の問い掛けに業務課長が慌てて答える。
 「はい、いいと思いますけど、なんでもかんでも営業からこうしたいなんて言われるのは面倒ですから、営業には禁止事項ばっかりのルールを持ち込みたいですね」
 「あれ、まともな答が返ってきた。あれだね、業務課長を在庫についての対営業窓口にすれば、営業関係の在庫問題は一挙になくなってしまうかもしれないな」
 部長に振られて、企画課長が答える。
 「たしかにそうですけど、強面の人的要因でないところで問題解決したいですね。まあ、その意味で、業務課長の意見はなかなかいいと思います。今後営業は一切在庫にかかわるなって言って、それで商売上困ることが何かあるかって手順で迫れば、本当に必要なルールだけが残ると思います。どうでしょう?」
 部長が興味深そうに頷く。
 「まず全面禁止をする。当然、反発がある。その反発とやりあう。そのやり合いの中から本当に意味のあるルールが浮かび上がってくるってわけだ。たしかに、それも一つのやり方だな。よし、それはいい。実際にそれをやってみよう。営業に対してはおれが憎まれ役を買って出る」
 部長の言葉にみんなが興味深そうな顔をする。業務課長がすぐに反応する。
 「へー、それはおもしろそうだ。その場に是非同行させてください」
 部長が頷いて、みんなの顔を見る。
 「もちろん、メンバー全員参加だよ。そうそう、生産に対する憎まれ役は業務課長に頼むので、よろしく」
 役割を振られた業務課長が満面の笑みを浮かべる。
 「はいー、任してください。工場出身のセンター長と相談して作戦を練ります」
 みんな活き活きとしている。楽しい会議はまだまだ続く。          (続く)

『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第95回(2010年3月号)「メーカー物流編・第6回」

「その“事前受注生産”っていうのは何ですか? 言葉自体が矛盾しているように思うんですが」

■FKK在庫≠チて何だ?

 「なんなんだ、こりゃ。まだこんなことやってるのか。懲りない連中だ」
 メーカーの会議室に、業務課長の怒鳴り声が響き渡った。物流部長以下ロジスティクス導入プロジェクトのメンバー全員が揃っている。大先生たちの到着を前に、配られた資料について部下の課員とひそひそと話していた業務課長が突然大きな声を発したのだ。
 「あー、びっくりした。目が覚めた。一体どうしたの? そんな大きな声出して」
 大して驚いていない部長が、わざとらしく業務課長に聞く。
 「あ、驚かして済んません。いやね、彼が作った資料を見てて、まさかと思うデータがあったので、間違いじゃないかと確認したら、間違いじゃないというもんで‥‥」 「へー、それはおもしろそうだ。それはどのデータ? 先生がお見えになるまで、その検討でもしてようか?」
 部長が楽しそうに言う。経営企画室の主任が興味深そうに大きく頷く。業務課長が、おもしろくなさそうな顔で、みんなに該当ページを告げる。全員がざわざわとページを繰る。
 「そこに『FKK在庫』ってあるだろ。それなんだけど」
 みんなが怪訝そうな顔で資料を見る。代表する形で主任が質問する。
 「FKK在庫って何ですか? 在庫管理の専門用語? それとも、当社独自の用語ですか?」
 その質問に業務課長が楽しそうに「さーて、何でしょうか? ただし、専門用語ではありません。彼の造語です」とおどけた口調でみんなに聞く。間髪置かずに、部長が「不可解な在庫!」と答える。
 業務課長がびっくりした顔で、「なんでわかるんですか?」と聞く。
 「はっはー、昨日、彼から資料を見せてもらったときに聞いた」
 部長の言葉に業務課長がつまらなそうな顔をする。経営企画室の主任が呆れたような顔で言う。
 「えっ、不可解の頭文字ですか‥‥でも、不可解な在庫というのは興味を呼びますね。何なんですか、それは?」
 「うん、まあ、第三者から見れば不可解極まりない存在かもしれないけど、当事者からすれば、置かれた状況の中で至極当たり前なことをやってるつもりなんだろうな?」
 部長の言葉に業務課長が頷きながら自分の考えを述べる。
 「たしかに、彼らにすれば、当たり前のことをやってるつもりかもしれないけど、でも、彼らもこれでいいとは思ってないはずです。前に、自分がセンター長をやってるときに、営業の連中にこの問題でいちゃもんつけたことがあるんです。結構反省して、今後注意しますなんて言うから許してやったんだけど、結局何も変わってなかったんだな」
 「業務課長の勢いに押されて、つい反省の態度を見せたんだろうけど、営業にしても生産にしても仕事のやり方が変わったわけではないんだから、そう簡単にはなくならない」

■ その中身は受注生産品だった
 業務課長と部長のやりとりに経営企画室の主任が割って入った。
 「済みません。私だけかもしれませんが、よく話が見えないんです。私もプロジェクトの一員ですので、私にもわかるように説明していただけますか?」
 部長が「ごめん、ごめん」と言って、若手課員に説明するように促す。椅子の背にもたれて、みんなのやりとりを他人事のように聞いていた若手課員が慌ててからだを起こし、説明を始める。
 「えーとですね、ごく簡単に言うと、なんでこんな在庫があるのか、いくら説明を受けても理解できないって性格の在庫です」
 「うーん、さっきのお二人の話からすると、先生のご本に書いてある営業の都合、生産の都合に起因する在庫ってことですか?」
 主任の確認に若手課員が頷く。それを見て、主任が続けて質問する。
 「この表全部がその在庫ですか? 業務用、市販用問わず、ずいぶんありますね? この表のパターン1とか2とかいうのは何ですか?」
 「それは、それらの在庫が発生する原因を、私なりに勝手に区分して分けたものです。おかしいところがあるかもしれませんが、ご指摘いただければ、あとで直します‥‥」
 「おかしいも何も、原因自体がおかしいんだから、そんな区分に気を使うことはないさ」
 業務課長が腹立たしそうに大きな声を出す。そのとき、会議室の扉が開き、大先生一行が顔を出した。全員が慌てて立ち上がり、大先生たちが席に着くのを待っている。大先生がみんなに座るように促し、部長に聞く。
 「この部屋に入ろうとしたとき、誰かさんの大きな声が聞こえたんだけど、何かあったんですか?」
 部長が苦笑しながら、「はい、業務課長が怒り心頭で、暴れまわってるんです」と言って、業務課長を見る。業務課長が「またそんなこと言って。いやー、あれです、いまだに、こんな在庫が横行してるのかと思ったら、なんか腹が立ってきて‥‥済んません」
 業務課長の言葉に大先生がにこっと笑い、おもむろに「それは、どんな在庫ですか」と聞く。業務課長が「この話に入っていいか」と確認するように部長の顔を見る。部長が頷くのを見て、大先生に資料のページを言う。
 「そこにFKK在庫という表がありますでしょ。問題になったのはその在庫です。そうそう、先生はFKK在庫って何だかわかりますか? あっ、元は日本語です」
 突然、茶目っ気たっぷりに業務課長が大先生に聞く。大先生が「うーん」と言って、すぐに「複雑怪奇な原因による在庫」と答える。
 一瞬間を置いて、どっと笑い声が起こる。部長が「まさに、言い得て妙ですね。不可解な在庫なんかよりずっとインパクトがある」と苦笑交じりに言う。業務課長が「たしかに」と大きく頷く。
 「それでは、今日は、初めてのプロジェクト会議だから、あまり形式ばらずに、そのあたりの在庫をテーマに話をしましょうか? 気楽に御社の在庫事情について語り合うっていう趣向はリーダーとしていかがですか?」
 大先生の提案に部長が「もちろん、異存ありません。むしろ望むところです。ロジスティクスは、これまでの当社の常識から言えば型破りな発想ですから、この会議も何か殻を破るような展開にしたいなと思っておりました」と答える。大先生が「それなら、自由に議論してください」と言う。部長が頷いて、若手課員に声を掛ける。
 「それでは、その不可解で、複雑怪奇な在庫について説明してくれるかな。緊張しないで気楽にやればいいよ」

■ 妙なやりとりが始った
 部長の言葉に若手課員が頷いて、「それでは説明します」と資料に目を落とす。
 「この表は、長期滞留していると思われる在庫について原因別に一月末時点の在庫量を見たものです。東京センター長の絶大なご支援を得て作りました」
 若手課員がそう言って東京センター長を見る。センター長が小さく頷く。若手課員が続ける。
 「それで、ここで区分した原因ですが、まず、それについてご説明します。えーと、第一にあげてあるのがパターン1です。これは『特定ユーザー向け事前受注生産の未出荷品』です。えー、次にあるのが‥‥」
 「ちょっと待ってください」
 経営企画室の主任が若手課員の説明にストップを掛けた。
 「型破りな会議ということに甘えて、いちいち口を挟ませてもらいます」
 部長が「どうぞ、ご自由に」と頷く。主任が質問する。
 「まず、その事前受注生産っていうのは何ですか? 受注生産に事前というのは、その言葉自体が矛盾しているように思うんですが。それに未出荷品っていうのも納得できません。特定ユーザーからの受注生産品なんですから出荷がないなんてありえないと思いますが、違うんですか‥‥」
 「そのとおりなんだよ。だから不可解な在庫であり、その原因は複雑怪奇なんだよ。理由を説明してあげて」
 部長が若手課員に優しく声を掛ける。若手課員が頷いて、答える。
 「はい、本来は受注生産品なんですが、えーと、何て言ったらいいのか、つまり、お客さまからこれだけ作ってくれって依頼が入る前に事前に作ってしまったものなんです。それが事前受注生産っていう意味で、その製品は結局お客様から注文がなかったものですから、未出荷品になってるという意味です」
 「うん、わかりやすい説明だ。わかった?」
 部長の問い掛けに、経営企画室の主任が「言葉の意味はわかりましたけど、なぜ、そのようなことが起こるのかという不可解さは消えません」と正直に答える。
 「そう、受注生産なんだから、注文が来てから作って出荷すればそれでおしまいなんだよな、本当は。ところが、注文が来る前に生産依頼を掛けてしまう営業がいる。なぜ、わざわざそんなことをするのか? 彼にしてみれば、立派な理由がある‥‥それは何?」
 部長が思わせぶりに質問する。突然問われて、経営企画室の主任が首を捻っている。みんなが彼の答を待っている風情なので、思い切って当てずっぽうに言う。
 「えー、まさかと思いますけど、注文を受けてから作ってもらったのでは間に合わない?」
 「当りです!」
 「えっ?」
 若手課員の言葉に主任が絶句する。部長が解説を始める。営業出身なので、そのあたりの事情には詳しいようだ。
 「うちの場合、工場や製品にもよるけど、生産のリードタイムが一カ月や二カ月は掛かるというのが実情だ」
 工場経験者の東京センター長が頷く。部長が続ける。
 「だから、受注生産の依頼はそれ以前にもらわないといけない。まあ、多くのお客はそれで了解してくれているけど、そうじゃないお客もいる」
 ここで業務課長が割って入る。
 「お客にリードタイム前に注文を出してくれって言うと『そんな長いのは困る。注文したら、こちらの要求に合わせて随時納入してくれ』って言われて、それを受け入れ、事前に生産依頼をせざるを得ない営業がいるってことだ」
 経営企画室の主任が頷く。興味津々といった顔をしている。今度は、東京センター長が説明役を担う。
 「それに、きちんとリードタイムを取って、工場に生産依頼したら、『そんな急に言われても困る。ラインの都合があるからもっと早めに言ってくれ』とけんもほろろに突っぱねられた営業もいる。そうなると、リードタイム前に生産依頼せざるを得ない」
 「へー、それじゃリードタイムの意味がないですね」
 主任が素直な感想を述べる。センター長が頷き、さらに続ける。

■ 生産調整という美名の下に
 「もっと悪いことに、生産の方で、営業から依頼されてもいないのに、勝手に作ってしまうこともある」
 「えっ、何ですか、それは? あまりにも勝手じゃないですか‥‥」
 主任が素直な反応を続ける。
 「そう、生産調整という美名の下でそれが行われる。ラインが遊んでしまいそうになると、たしか昨年どこどこのユーザーから注文が来たな。どうせ今年も来るだろうからそれを作っておこうという勝手な論理。そんな自己都合が堂々と横行している‥‥」
 話していて嫌になったのか、センター長の声が小さくなる。業務課長が受けて、続ける。
 「そんな注文は結局は来ない。そうなると、その製品は在庫として置かれつづける。うちの会社は在庫責任という概念が希薄だから、誰もそれを問題にしない」
 業務課長がさらに何か言おうとするのを部長が止める。
 「もう、そんなとこでいいだろう。そんなこんなで、受注生産なんだけど、事前に生産を依頼したり、注文が来る前に作ってしまうということがめずらしくなく起こるってわけだ。わかった?」
 「えっ、わかったって言われても、事情はわかりましたが、何か納得できないですね」
 「そう、納得してはいけない。そういうふうに作られた在庫は、ほとんどが結局出荷されずに残ってしまう。問題は、それに誰も責任を負っていないってことだ。責任のないところに管理はない」
 「その管理がロジスティクスなんですね」
 主任の言葉に全員が大きく頷く。 (続く)

『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第94回(2010年2月号)「メーカー物流編・第5回」

「もともと問題と思ってないことを問題視させるにはどうするかが問題だ」

年明け早々社内のメンバーが集まった
 年が明けて早々に、大先生がコンサルをしているメーカーのロジスティクス導入プロジェクトが動き出した。プロジェクトのリーダーである物流部長がメンバーを招集して、作戦会議が開かれた。業務課長、企画課長、若手部員二名と経営企画室の主任というこれまでのメンバーに、業務課長の推薦で東京の物流センター長が加わった。
 全員の顔を見ながら、物流部長がおもむろに切り出した。
 「さて、ロジスティクス導入プロジェクトだけど、何から始めようか? みんなもいろいろ考えるところがあるだろうから、まず自由に率直な意見交換をしたいと思うけど、どうだろう?」
 部長が、押し付けにならないように配慮したのか、やや控えめに声を掛ける。それに対して例によって業務課長がすぐに反応した。
 「そういう会議なら先生方も交えてやった方がいいんじゃないの?」
 「いや、ここに先生がおられたとしても、きっといま自分が言ったことと同じことを言われると思うよ」
 部長の言葉に業務課長が素直に頷き、「わかった」という顔でつぶやく。
 「そうか、指示待ちじゃだめだということだ。なるほど、たしかにそれは言える。まずは自分たちで考えろってことだ‥‥それで、部長は、先生のお考えは聞いてるわけ?」
 業務課長がしぶとくねばる。
 「聞いてるというか、先生からは最初にコンサル企画書をもらっているので、そこに何をどんな手順で、どうやればいいかが書いてある。だから、知ってるといえば知っている。でも、先生がおっしゃるには、自分たちでこうした方がいいという考えがみんなで合意できれば、その方向で進めるのがいいということだった。そこで、まずは社内で検討してみようというわけさ」
 部長の言葉に業務課長が「わかった」と言って椅子にもたれてしまう。それを部長が引き戻すように聞く。
 「それで、なんだかんだ言ってるけど、業務課長はどうなの? どう進めるのがいいと思うのか、考えを聞かせて‥‥」
 部長に問われ、業務課長が「彼とも話したんだけどね」と言いながら、部下の若手課員に「おまえが話すか?」と聞く。若手課員が「いえ、課長から説明してください」と遠慮する。
 業務課長が頷いて身を乗り出す。みんなが興味深そうに課長を見る。その視線に戸惑ったように、業務課長が顔の前で手を振る仕草をして、言い訳じみた発言をする。
 「そんなじろじろ見るなよ。別に大した考えというわけではないんだから。誰でも考える当たり前なことだよ‥‥」
 業務課長が言いよどんでいる隙に企画課の女性課員が口を挟んだ。
 「たとえば、ロジスティクスが動いてないために、こんなに多くの問題が出てるんだぞーってことを知らしめる、とかですか?」
 図星だったようで、業務課長が「う、うん」と顔をしかめて頷く。女性課員と同期入社の業務課の若手課員が余計なことをという顔で女性課員をにらむ。その視線を受けて、女性課員が言い訳をする。
 「済みません、突然口を挟んでしまって。実は、私も課長と話していて、そういうところから入るのがいいのではないかという結論になったものですから‥‥」
 女性課員をフォローするかのように、上司である企画課の課長が頷き、続ける。
 「まあ、まさに誰でも考える当たり前なことって言えば、そのとおりですが、その当たり前なことから入るのがいいのではないかと思いますが、どうでしょう?」

一発で社内の意識を変えられないか
 振られた部長が頷き、企画課長に確認する。
 「そうだな、ロジスティクス不在であるがゆえの問題を明らかにするところから入るのは素直でいいと思うけど、あれかな、前の物流部長が本に記した例のメモは、そのあたりのことを調べたものなんだろうな?」
 「はい、そうですね。ただ、物流部として調べたものではないので、データの裏づけは弱いですし、ちょっと問題点の指摘が部長個人の関心事に偏りがあったりしていることは否定できません。ただ、あのメモの内容それ自体は間違ってはいないと思います」
 部長と企画課長のやりとりに業務課長が割って入った。
 「何なの、その前部長のメモってのは? なんかおもしろそうだな。おれにも見せてよ」
 部長が業務課長の顔を見る。見せようかどうか迷ってる風情をわざと見せている。にこっと笑って部長が答える。
 「そのメモ入りの本は、もともと前部長から常務に贈られたものなんだけど、いまは、自分の手元にあるから、いいよ、見せてあげる。ただ、あれだな、業務課長の悪口なんかも書いてあったから、どうするかな‥‥」
 部長が企画課長に問い掛ける振りをする。企画課長が思わずにこっと笑ってしまう。それを見て、業務課長がわざとらしく顔をしかめて、やり返す。
 「また、そういう根も葉もないことを言って。そういうこと言ってるから、部下が離れていくんだよ」
 「へー、部下が離れていくなんて、おれの隠したい過去をよく知ってるね。誰に聞いたの? でも、業務課長がおれから離れることは決してないな。もともと離れてるから、これ以上離れようがない」
 部長の言葉に全員が笑う。部長の人徳か、会議の雰囲気はいい感じだ。ただ、寄り道が多くてなかなか先に進まない。笑いが収まるのを待って、経営企画室の主任が「ちょっといいですか」と部長に確認する。部長が頷くのを見て、自分の意見を述べる。
 「えーとですね、ちょっと私なりに気になるんですが、ロジスティクスが動いていないからこんな問題が出てるんだぞって言っても、社内の多くは、もともとそれらを問題と思ってないわけですから、そのへんの対応が重要だと思います。つまり、もともと問題と思ってないことを問題視させるにはどうするかが問題だってことではないでしょうか?」
 主任の妙な言い回しに感心したように、全員が大きく頷く。気をよくして主任が元気に続ける。
 「そうなると、見せ方というか、『ロジスティクスが動いていればこんなに素晴らしい世界になるんだぞ、それに引き換えいまのうちの姿はこんなだぞ』っていう感じにするのがいいのかなと‥‥つまり、まず『かくあるべし』という姿を描き出して、それと現状との比較で問題を浮き彫りにするというアプローチがいいんじゃないかと思うんです。うまく言えないんですが、私の言いたいこと、わかります?」
 部長が頷いて、同意を示す。
 「もちろん、いいとこ突いている。言いたいことよくわかる。そのとおりだと思う。営業なんか特にそうなんだけど、在庫を持つのが当たり前だと根っから思ってるやつに『在庫は悪だ。だから減らせ』って言っても、『それで欠品が出たらどうするんだ、在庫がなきゃ商売にならんじゃないか』なんて反論されて、妙な議論に持ち込まれたら収拾がつかない。なんか一発で、なるほど在庫を持つことはたしかに問題だって思わせるような可視化が必要だってことだ。そう思わない?」
 部長の問い掛けに企画課長が頷く。
 「一発でと言われても、それがどういうものか、いまは思いつきませんけど、部長がおっしゃることはよくわかります。ロジスティクス不在が原因で生まれている問題を誰もが問題と認めるように示す必要があることは間違いありません」
 「そうだな、おれたちだけが問題だって言い張っても何も始まらん。当事者を同じ土俵に立たせなければ、物流が何かやってるらしいぞで終わってしまう。問題を生み出してる連中に『なんだこりゃ、ひでえな。うちは何でこんなことやってるんだ』って思わず言わせるような問題提起をしたい。彼らにロジスティクスという眼鏡を掛けさせればいいんだろうけど‥‥」
 企画課長の意見に業務課長も同意する。前向きな話し合いになってきた。

ロジスティクスと言わないほうが…
 業務課長の話に触発されたのか、部下の若手課員が恐る恐るという感じで手を上げる。
 部長が「遠慮することない。思うところをどんどん言えばいい」と背中を押す。若手課員が頷き、ちょっと不安げに話す。
 「あのー、私思うんですけど、ロジスティクスを入れるぞとかロジスティクスをやるんだとか、そのー、ロジスティクスという言葉は使わない方がいいんじゃないかと‥‥ロジスティクスと言ったって、社内では誰も知りませんから。自分の知らないことには関心がないですし、自分の責任じゃないというのが、何というか、常識じゃないでしょうか」
 「なるほど、そういう考えもあるな。ところで、センター長はどう思う?」
 部長が存在を思い出したようにセンター長に聞く。
 「はい、私もみなさんのご意見に賛成です。私の経験では生産の方は巻き込むのにそんなに苦労しないと思うんですが、営業さんを同じ土俵に立たせるのは結構大変なような気がします。やっぱり売り上げを上げるために懸命にやってるわけですから、その足を引っ張るわけではないですけど、そう思われかねないですよね? 営業ご出身の部長は実感としてご存知でしょうけど‥‥」
 「まあ、自分たちの売り上げにマイナスの影響が出ると思ったら、結構な抵抗勢力になると思うけど、むしろ売上増を支援するんだ、在庫とか物流の心配は一切しないでいいようになるんだということなら、意外とすんなり受け入れる可能性がある。そのへんは営業の連中は現実的さ。そこをつくんだな。まあ、そういうこともこれからの検討課題としてあるということにして、まずは、ロジスティクス不在の問題なるものをどう見せるかだ。そのあたりについて次回までにそれぞれで考えておいてくれ」
 部長の言葉に全員が頷く。部長が立ち上がろうとした途端、業務課長が声を掛ける。
 「それで部長、先生の企画書には最初に何をやれって書いてあったんですか? 問題の見える化から入れって書いてあったんでしょ?」
 「ご賢察。そのとおりに書いてあった。よくわかったな?」
 業務課長がやっぱりという顔で頷き、理由を述べる。
 「いやね、今日の会議で、あんまり簡単に部長が方向性を決めたので、今日の議論は先生の方向性と一致したんだなって思ったわけ。もし違っていたら、先生のご意見に少しでも近づくように、もう少し議論を続かせたんじゃない?」
 「へー、それまたご賢察だ。業務課長は油断がならないな。その仮説・検証というか推理というか、そのへんをフルに活用することが今回のプロジェクトでは重要な要素になるかもしれんな。その意味では、業務課長は貴重な人材だ」
 「貴重な人材かどうかはいいとして、その仮説・検証や推理をベースに展開するという考えにはおれも全面的に賛成だ。いやー、なんか非常におもしろくなってきた。なんかわくわくするな。なぁ?」
 業務課長に同意を求められ、部下の若手課員が戸惑った表情を見せながらも、同意を示す。
 「はい、たしかに、そう言われれば、生産や営業の思考や予想される反応、あるいは価値観などを仮説として設定するというのはおもしろいですね。是非やってみたいです」
 「私も興味あります。推理ってとこが気に入りました。何をどう推理するのかまだよくわかりませんけど‥‥」
 企画課の女性課員が明るい声を出す。
 「いや、言い出したおれも、実はどんな仮説が出てくるのか、何をどう推理するのか、まったく考えていない。まあ、思い思いに自由に考えてみてくれ。それを持ち寄って、また打合せをやろう」
 こうして、答が出たのか出ないのかわからないまま、会議は終了した。それでも、メンバー全員が同じ方向に向いており、仲間意識が醸成されていることがわかり、部長にとっては意味のある会議だった。この結果を持って、大先生のところに報告に行こうと思いながら、部長が会議室を後にした。
 部長がいなくなった会議室では、なんと業務課長がみんなを引っ張る形で再び議論が始った。みんな、やる気十分だ。経営企画室の主任も残っている。業務課長の声が聞こえる。
 「それで、このプロジェクトは推理小説のような形で展開させるのがいいと思うんだけど、そのためには‥‥」(続く)

『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第93回(2010年1月号)「メーカー物流編・第4回」

「在庫を減らしても誰からも評価されないっていうのがウチの実情さ。評価されないことを誰がする?」

あの業務課長が新年の挨拶に訪れた
 新年早々に大先生事務所に意外な来客があった。意外と言っては失礼だが、大先生としては「まさか、この人たちが最初に訪ねてくるとは‥‥」という思いを持ったことはたしかである。
 午前中に電話があり、「午後にでもご挨拶に伺っていいか」という急な訪問だった。約束の時間に「失礼しまーす」という大きな声とともに扉が開き、いまコンサルをしているメーカーの業務課長が顔を覗かせた。
 大先生が「いらっしゃい」と言いながら、中に入るように手招きする。業務課長がからだを滑り込ませ、同行者にも入るよう促す。大先生がよく知っている業務課の若手課員と大先生の知らない年配の人が恐縮そうな風情で入ってきた。業務課長が年配の人を紹介する。
 「東京の物流センター長です」
 センター長がお辞儀をし、「お名前はかねがね‥‥」とか言いながら、名刺を差し出す。名刺交換が終わると、大先生が会議テーブルに座るよう促す。座った途端、業務課長が話し始めた。
 「実は、うちの部長に、先生のとこ伺いますけど、部長はどうしますって聞いたら、びっくりした顔をして、あんたらだけで行っておいで、なーんて言われてしまいました」
 それを聞いて、若手課員がびっくりした顔で聞き返す。
 「えっ、部長を誘ったんですか? 課長にしてはめずらしいですね。どうしたんです?」
 「どうしたって、やっぱコンサルの先生のとこ伺うんだから、部長に無断でってわけにはいかんだろ?」
 若手課員は頷きながらも、納得できない風情で、思い切って聞く。
 「それはそうですが、今日突然先生のところに伺うって課長が言い出したこと自体驚きだって部のみんなは思ってるんじゃないですか? 正直なところ‥‥あっ、済みません、変なこと言ってしまいました」
 言ってしまってから、これはまずいこと言ったかもしれないと気がついたように、若手課員が顔を真っ赤にして、慌てて取り繕う。それを見て、業務課長が納得いかないような声で答える。
 「みんながどう思ったか知らんけど、おれが、新年の挨拶で先生にお会いするというんはそんなおかしいことか? それに東京センター長にも会っていただきたいとも思ったし‥‥」
 ちょっと落ち込んだ風情の業務課長を見て、若手課員が元気付けようとでも思ったのか、妙な説明をする。
 「いえ、そういうことではなく、なんか、コンサルについて課長の対応がちょっと初めの頃と違うなとみんな思ってるんじゃないかと‥‥」
 「ん? 初めの頃? あっ、あの頃のことは忘れてくれ。ちょっと誤解があっただけだ。あれは部長の説明が悪かったんや」
 二人のやり取りを楽しそうに見ていた大先生が口を挟む。
 「へー、部長はどんな説明をしたの? そのせいで、課長は、初めの頃コンサルタントを敵視していたとか、そういうこと?」
 「いえいえ、敵視だなんてとんでもないです。いま言ったように、ちょっと誤解があっただけです」
 「別に、そんなことどうでもいいけど、いまは、誤解はないんでしょ?」
 「はい。状況はきちんと正しく理解しているつもりです」
 業務課長の返事に大先生がにこっと笑い、センター長を見る。
 「そうですか、東京のセンター長ですか?いつからですか?」
 突然自分に振られて、センター長が戸惑いの表情を見せ、一瞬間を置いてから答える。
 「はい、センターには一〇年ほど前からいますが、センター長にさせていただいたのは三年前です」
 「なるほど、それで、業務課長は、三年前は何を‥‥」
 「はい、ご賢察です。三年前まで東京のセンター長をしていました。当時の業務課長が定年で辞められて、私があがりました」
 「なるほど、実は、お二人にはいろいろ聞きたいことがあるんですが、今日は、うちの二人のスタッフがいないので、コンサルの一環としてはまた改めてということで、今日は、せっかくだから、ざっくばらんな話をしましょうか?」
 大先生の提案に業務課長が頷き、「はい、お二人の先生方には改めてお話しします。必要なら何度でもします」と嬉しそうに言う。こうして、とりとめのない雑談が始った。

物流部への関心が一気に高まった
 「唐突ですけど、御社では、物流部は社内でどんな扱われ方をしていますか? 妙な聞き方ですが‥‥」
 大先生の質問に業務課長が身を乗り出した。話したいことがいろいろありそうだ。
 「間違いなく言えることは、物流部長というポストは、うちでは決して出世コースではないってことです。まあ、若い連中は物流でいろいろ覚えることがあるだろうということで順番に配属されたりしていますが、私くらいの年代や部長クラスだと、ここが最後のご奉公の場ってことじゃないでしょうか」
 若手課員に配慮しながら、業務課長が解説する。センター長が同意するように頷いている。それを見て、業務課長が続ける。興味深いことを言い出した。
 「ただ、このところ、ちょっと風向きが変わってきました。ちょっとというより明らかに変わってきました」
 業務課長のこの言葉に若手課員が反応した。
 「そうですね、同期の連中から物流は何をやろうとしているのかなんて聞かれたりしています。彼らの周りでも物流部の動きが話題になっているようです」
 「それは、部長や常務とのかかわりで?」
 大先生の言葉に業務課長が大きく頷き、勢い込んで話し出した。
 「そうです。部長は、これまで社内外の評価も高く、間違いなく出世コースに乗っていると見られてました。そういう人が物流部長を命じられたわけですから、うちの会社にとっては大事件です。何か大きなミスをして懲罰的な人事が行われたんじゃないかという興味本位の見方もありましたが、これはすぐに否定されました。常務の肝いりの人事だということがすぐに知れ渡ったからです。決して出世コースから外れているわけではないということです」
 「なるほど。そうなると、これまでの部長とは付き合い方が違ってきますね、みなさんは」
 大先生の質問に業務課長が精一杯顔をしかめて答える。
 「それはもう大変です。どう対応したらいいかわかりません」
 「そんなこと言って、課長は相変わらずじゃないですか。大変そうには見えませんけど。まあ、たしかに部長は課長が何を言おうが泰然自若の風ですから、その意味では大変かもしれませんが‥‥」
 若手課員がそう言って、楽しそうに笑っている。業務課長が何か言い返そうとしたとき、センター長が口を挟んだ。
 「それに加えて、先生にコンサルをお願いしたことが決め手になり、社内で一気に物流部への関心が高まりました。これだけ関心が高まったってことで、常務の第一段階のねらいは当たったってことなんでしょうね」
 「第一段階のねらいって何よ?」
 業務課長の問い掛けにセンター長が即答する。
 「決まってるじゃないですか。物流部を中心にして、何か新しいことやるぞっていうメッセージを社内に発信するってことですよ」
 若手課員が頷き、独り言のようにつぶやく。
 「たしかに、私に聞いてくる連中も何をやろうとしているのかに興味があるようです」
 「そうか、おまえやセンター長は周りからいろいろ聞かれてるんだ。おれのとこには誰も何も言ってこん。人気ないな、おれは」
 業務課長のわざとらしい物言いにセンター長と若手課員が大笑いする。自分でも照れ臭くなったのか業務課長も一緒に笑っている。
 「ふーん、なるほど、社内の関心は出来上がってきているんですね。それはいいな。あとは、節目節目で適切な情報発信をしていけばいいということだ」
 大先生の言葉に業務課長とセンター長が「そう思います」と口を揃えて頷いた。

憤懣やるかたない在庫談義
 「ところで、お二人は筋金入りの在庫嫌いだと理解していますが、社内的に在庫についてはどんな認識が一般的ですか? 抽象的な質問だけど、思い当たることをざっくばらんに言ってください」
 大先生の質問に業務課長とセンター長が顔を見合わせる。業務課長が「あんたから話せ」という風に目で合図する。それを受けて、センター長が話し始める。
 「はい、いろんな切り口があるでしょうけど、間違いなく言えるのは、在庫責任という認識、それ以前に在庫責任の意味するところがいい加減だということです。当社では、在庫に責任を負うというのは、欠品を出さない責任という意味で使われてます」
 業務課長が「そうそう」というように頷き、続ける。
 「普通、在庫責任と言えば、もちろん欠品を最少にするということもあるでしょうけど、常識的には在庫量を最少に維持する責任を言いますよね? その在庫削減、適正在庫維持についての責任がうちにはないんですよ。そっから何もかにもおかしくなってきてるんです」
 憤懣やるかたないという業務課長を見ながら、若手課員も参戦する。
 「私の同期に発注担当をやっているやつがいるんですけど、話を聞くと、いやーすごい仕事ですよ。とにかく欠品はご法度。営業からはいついかなるときでも在庫はきちんと準備しておけ。それがおまえらの責任だって言われてるようです。営業は自分に都合のいい勝手な売り方しますけど、それに対応しろって言うんですから、めちゃくちゃですよ。そう思いません?」
 今度は若手課員が憤懣やるかたない状態になってしまった。業務課長が笑いながら顔の前で手を振る。
 「なんてことないさ。過去データを見て最大出荷に合わせて在庫を持てばいいんだよ。何たって、欠品出せば怒られるけど、在庫減らしても誰にも誉められないんだから、多めの在庫を持つ方に動くさ。おれだって、明日そこに配属されたら、そうする」
 「えっ、課長は在庫嫌いだから、在庫を減らす方向に動くんじゃないんですか?」
 「だからいま言ったろ。在庫減らしても誰からも評価されないっていうのがうちの実情さ。評価されないことを誰がする? それに在庫を管理するデータだってろくにないし、管理するシステムだって整備されてないんだぞ。それがうちの発注の実態」
 「なるほど、よくある実態だ。でも、ときどき上から在庫を減らせなんていう号令がかかるんじゃない? そのときはどうする?」
 大先生の質問に、業務課長が大先生の予期どおりの答をする。
 「主力製品の生産調整で期末に一時的に在庫を減らします。そして、すぐに元に戻ります」
 「営業は自分の都合のいいように在庫を使っているようだけど、生産も似たり寄ったり?」
 大先生の質問に以前工場にいたことがあるというセンター長が頷きながら答える。
 「はい、在庫を生産効率のバッファに使ってます。いまだに月次生産ですし、生産リードタイムも長いです。リードタイムが長いので、発注する側は余計多くの在庫を抱えます」
 「そうか、在庫を管理するとなると、売り方、作り方までメスを入れないといけないってことですね? それは大変だ」
 若手課員が率直な感想を口にする。業務課長が「他人事のような言い方するんじゃない」とたしなめる。大先生が「たしかに大変だ」と同意し、業務課長を見て続ける。
 「でも、売り方、作り方はそう簡単には直らないだろうから、最悪の場合、現状を前提に在庫管理のためのルールを作り、楔を打ち込むというところから始めることにしましょう。まあ、これも大変なことだけど、避けて通ることはできないので、御社の場合、どこをどうつつけば期待通りの成果を得られるか、みんなで作戦を練ってやることにします。その作戦を実行する先兵隊長は業務課長が適任ですかね?」
  大先生の言葉に業務課長がなぜか嬉しそうに「はい、お任せください」と大きな声を出す。何を思ったか、突然、若手課員が「隊長、頑張りましょう」と声を掛け、敬礼している。一人冷めたセンター長が呆れたような顔で二人を見ている。大先生が「これから、おもしろい展開になりそうだ」という顔で三人を見ている。

『月刊ロジスティクス・ビジネス』連載第92回(2009年12月号)「メーカー物流編・第3回」

「まさかロジスティクスは現場に関係ないなんて思ってるわけじゃないよね?」

■ウチの物流はうまく回っている
 会議室では、物流部員たちが、それぞれの思いを胸に、「いまや遅し」と大先生たちの到着を待ち構えていた。始めのうち、業務課長が一人で「うちの物流はうまく回っているのに、なぜコンサルなんぞ入れるんだ」とか「常務が何をねらっているか、あんたら何か聞いてないか」などと誰に言うともなくぶつぶつ呟いていたが、誰もまともに返事をしないので、そのうち黙りこくってしまった。
 全員が、特に何をするわけでもなく、それぞれ物思いに耽っている風情だ。沈黙が奇妙な緊張感を漂わせている。
 若手の二人の部員は、どうしたらいいかわからないといった何となく落ち着かない様子だ。ときどき携帯電話を握り締めて外に出たりしている。とても、物流部長が言うように「突然できた自由時間を楽しむ」というわけにはいかないようだ。
 物流企画課長は、じっと目を閉じている。ときどき時計を確認する以外ほとんど動かない。まるで座禅を組んでいるかのようだ。それに対して、現場の親分である業務課長は手帳を開いたり、携帯画面を確認したり、せわしなく手を動かしている。じっとしているのが苦手なようだ。
 企画課長が何度目かの時間確認をしようと腕時計に目をやったとき、それを待っていたかのように、突然会議室の扉が開いた。
 物流部長が先に顔を出し、皆が揃っているのを確認して、「先生方が見えられました」と告げる。その声に企画課長が即座に立ち上がる。つられて若手二人、業務課長の順に立ち上がる。
 物流部長の案内で大先生たちが所定の席に着く。それに合わせて全員が座る。部長が、部員たちを大先生に紹介する。二人の若手部員は、めずらしいものでも見るように大先生たちをじろじろ見ている。部長の紹介が終わるのを待って、大先生が一言述べた。
 「今回のコンサルは、皆さんの協力なしには目的を達成することはできません。できる限りの支援を期待しています。よろしくお願いします」
 大先生の言葉を聞き、全員が怪訝そうな顔をする。自分たちがコンサルを受ける立場にあると思っていたのに、状況がちょっと違うようだ。案の定、業務課長が疑問を口にした。やけに丁寧な口調だ。

■在庫を何とかするならオレに任せろ
 「いま、先生から協力してほしいというお話があり、支援をというお言葉もありましたが、コンサルを受けるのはわれわれではないということ‥‥なんでしょうか? なんか、そんな風に取れたものですから念のためお聞きしたいんですが」
 業務課長の質問に物流部長が頷きながら答える。
 「あっ、そうそう、いまから内容について説明するけど、別に、今度のコンサルはあんた方を対象にするってわけではない」
 「はぁー、それじゃ、物流の現場を診断するってことじゃないんだ?」
 業務課長が、妙な声を出し、部長に確認する。言葉遣いがいつもの調子に戻っている。それを聞いて大先生が確認する。
 「なんか物流の現場に問題でもあるんですか? コンサルが必要な‥‥」
 大先生の突然の問い掛けに業務課長が慌てて答える。
 「いえいえ、とんでもありません。問題なんか何もありません。はい、はい」
 その言葉を聞いて、大先生がにっと笑う。このままでは済まなさそうな様子だ。
 「問題が何もない、なんて言われると、妙に興味が湧いてくるな。そんなすごい現場、見てみたいものだ。問題はまったくないとおっしゃいましたが、その判断はどのような根拠によるものですか?」
 大先生の質問に業務課長が戸惑った表情を見せる。他の部員たちが興味深そうに業務課長を見る。ちょっと間を置いて、物流部長が助け舟を出す。早く先に進もうという思いがあるのか、反論を許さない威圧的な言い方だ。
 「その判断根拠については私も興味あるところだけど、要するに、コンサルいただくほどの問題はないってことだよね? そうだろ?」
 部長の言葉に業務課長が素直に頷き、「そう、そういうことです」と同意する。大先生が頷き、矛を収める。
 物流部長が、「それでは」と言って座り直し、コンサルの趣旨について説明を始める。
 部長の説明が終わった途端、業務課長が声を出した。まったく物怖じしない業務課長に弟子たちが興味深そうな顔をする。
 「へー、それじゃなに? ロジスティクス導入のコンサルってわけ?」
 「だから、そう言ってるだろ」
 業務課長の意味のない質問に物流部長が声を荒げる。それを見て、弟子たちが苦笑する。
 何ごともなかったかのように、隣の企画課長が「よろしいですか?」と言う。部長が頷く。
 「コンサルの趣旨についてはよくわかりました。私としましては、そのような話を前の部長と時々したこともあり、うちにとってロジスティクスの導入は必要なことだと認識しております」
 「そうか、前の部長とそんな話をしたことがあるのか? それなら話が早い」
 物流部長が嬉しそうな声を出し、業務課長を見て、妙な質問をする。
 「ところで、業務課長は、前の部長とそんな話をしたことはないよな‥‥あんたは現場の人だから」
 「そりゃそうさ。そんな現場から浮き上がったような話なんぞ、おれはしないね。それに、現場に関係のない話に興味はないしな」
 業務課長の「売り言葉に買い言葉」的な返事に物流部長が大袈裟に反応する。業務課長の返事は本心とは思えない。それに対し、部長はわざとまともに応じている。おもしろい二人だ。
 「えっ、まさかロジスティクスは現場に関係ないなんて思ってるわけじゃないよね? ロジスティクスが入ると、現場は大きく変わると思うんだけど‥‥」
 部長の言葉に業務課長がちょっと戸惑いの表情を浮かべ、隣の企画課長に確認するように問い掛ける。
 「現場が変わるって? なんか現場について部長とおれとでは理解に違いがあるようだ。まあ、その違いを埋めるのは後でいいとして、ロジスティクスってのは、あれだよな、工場のやつらに無駄な生産はするな、売れてるものを必要なだけ作れって発破を掛けることじゃなかったっけ?」
 業務課長の言葉に大先生が楽しそうに「そうそう」と頷く。
 物流部長が、頷きながら、話を続ける。業務課長の言葉をきっかけに、ここでロジスティクスについて共通認識を持ってしまおうと判断したようだ。
 「うん、まあ表現はともかく、言ってることは間違っていない。必要なものだけ作れっていうのはメーカーのロジスティクスの原点に違いない。ただ、そこで鍵を握っているのは何かというと、実は物流センターの在庫なんだな。わかる?」
 物流部長の言葉に業務課長が「そんなのわかってるよ」という顔で大きく頷き、物流部長に説明するかのように、自分の部下である若手部員に向かって確認する。
 「いま部長が言った物流センターの在庫だけど、そりゃあひでえもんだよな?」
 課長の問い掛けに若手部員が即座に反応する。在庫についての問題意識の高さを感じさせる。
 「はい、それはもう。なんたって在庫は無管理状態ですから。無責任状態と言ってもいいと思いますが、欠品、品薄の在庫、過剰な在庫が無秩序に混在している状態です。物流センターの在庫を補充している部門があるんですけど、彼らが何を考えてるんだか、よくわかりませんね、補充の仕方を見ると・・・とにかく、現場は在庫でえらい迷惑してます」
 「センター間の在庫移動も結構多いんですよね? これも無駄ですよね?」
 女性の部員が思い出したように言葉を挟む。業務課の若手部員が「そうそう、そうなんだ。偏在の解消のためというけど、もともとの偏在をなくそうとしないんだから、後手もいいとこだよ」と応じる。
 二人のやり取りを聞いて、企画課長が補足する。
 「在庫がらみでは明らかに無駄なコストが発生しています。それ以前に、在庫についての責任が曖昧で、誰も正確に在庫実態を把握していない状態です。工場に必要なものだけ作れって言っても、何がいくつ必要なのかさえわからないのですから、実際無理な話です。たしかに、まずはセンター在庫のコントロールが必要だと思います。前の部長もそこを何とかしたいと思って、あの方なりに動いたようですが、思うような成果は得られなかったようです」
 企画課長の言葉に物流部長が「そのようだな」と応じる。それを聞いて、業務課長が不満そうに言う。
 「そんなことなら、部長が一人でやらないで、おれたちにも相談すればよかったんだよ。そういうことなら、おれもその気になって手伝ったのに。何たって、おれは在庫嫌いだからよ。在庫を何とかするなら在庫嫌いに任せるのが一番だ」

■物流部長がまた不安そうな顔をする
 在庫嫌いという業務課長の言葉にそこにいた全員がそれぞれに何らかの感慨を抱いたようだ。これまでの業務課長像とは違った一面を見たような顔をしている。話してみないとわからないものだ。
 物流部長と経営企画室の主任が顔を見合わせて、「やっぱり、彼が先兵隊長だな」という顔で頷き合っている。業務課長が「現場の親分で物流部の中では煙たい存在」と思われているなんて知らない弟子たちは業務課長に頼もしさを感じているようだ。
 そんな中で業務課長の言葉に一番驚いたのは企画課長のようだ。「えっ、おたく在庫嫌いだったの?」と思わず、企画課長らしからぬ物言いをした。業務課長が当然という顔で答える。
 「そりゃそうだよ。物流センターを預かってる人間で、在庫が好きなんてやつは世の中に一人もいないと思うよ。物流センターの運営管理で一番邪魔な存在は在庫だからな。もし、在庫に関心がないなんてセンター長がいたら、そいつは本物じゃない。おれだったら、そんなやつはセンター長にはしない」
 やりとりを黙って聞いていた大先生が思わず呟く。
 「へー、筋金入りの在庫嫌い?」
 業務課長が頷き、大先生に素直に思いのたけを吐露する。
 「はい、在庫嫌いにもなりますよ。日常的には、動かない在庫が無駄なスペースを取りつづけていますし、突然大量の在庫が入ってきて、置き場所探しに大わらわになったりもします。物流センターがなぜそんなことに振り回されなきゃならないのかって、いつも腹立たしい思いをしています」
 「その腹立たしさはどこかにぶつけてる?」
 大先生が聞く。
 「もちろん、在庫を手配している連中に文句を言いますが、結局は、聞く耳持たずです。それでも、文句を言い続けていれば、少しはやつらも遠慮するかと思ってましたが、相変わらずです。連中も筋金入りです」
 そう言って、業務課長が一人で笑う。大先生が業務課長の笑いを手で制し、改めて確認する。
 「それでは、勝手な在庫の動きをやめさせて、お客さんが必要とする在庫しか動かさないっていうロジスティクスの導入は業務課長としても賛成ってことですね?」
 「はい、もちろんです。反対する理由などありません。在庫が手の内に入れば、いやー、精神的にすっきりします。現場の連中もそれは喜びますよ」
 業務課長の、当初は思いもよらなかったような前向きな力強い言葉にみんなが感心したように顔をしている。経営企画室の主任は感動さえ覚えているような表情だ。
 ただ、物流部長は逆に「できすぎ感」に伴う若干の疑念と不安を感じているようだ。それでも、業務課長のおかげでロジスティクス導入コンサルについては物流部内で前向きに取り組む合意ができたようだ。物流部長が、みんなに発破を掛ける。
 「それでは、先生にお願いするコンサルについてはみんな納得できたと思うので、よろしく頼むよ。物流部一丸となってデータと理論でしっかり武装して、生産や営業に対していきたいと思う。それぞれに役割を分担してもらうので、そのつもりで」
 「よっしゃ、おもしろいことになってきた」
 物流部長の言葉に業務課長が即座に反応した。物流部長がまた不安そうな顔をする。

『月刊ロジスティクス・ビジネス』(サロン編)連載第27回(2004年7月号)〜第37回(2005年5月号)
『月刊ロジスティクス・ビジネス』(番外編)連載第38回(2005年6月号)〜第41回(2005年9月号)
『月刊ロジスティクス・ビジネス』(ロジスティクス編)連載第42回(2005年10月号)〜第50回(2006年6月号)

『月刊ロジスティクス・ビジネス』(ロジスティクス編)連載第51回(2006年7月号)〜第65回(2007年9月号)
『月刊ロジスティクス・ビジネス』(大先生の日記帳編)連載第66回(2006年7月号)〜第68回(2007年9月号)

『月刊ロジスティクス・ビジネス』(大先生の日記帳編)連載第69回(2007年10月号)〜第71回(2008年3月号)
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『月刊ロジスティクス・ビジネス』(大先生の日記帳編)連載第75回(2008年7月号)〜第80回(2008年12月号)
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